第12話

 という事で、おかゆを食べ終わって少しのクールダウンの後、新に別れと激励と再三のお願いをよそに仮想空間の学びやへと向かった。


「日本特殊事案更生学校……いかにもって名前だよな……」


 通称、JRSと英語版の頭文字をとった呼ばれ方をしている。

 もちろん、そんな呼び名は勝手につくものであり公式に認めたものではないが、日本語文字も聞こえのいいものではないのは明らかだ。

 俺は便宜上転校生という設定でこの学院に入学することになる。

 という事で……。


「職員室って……何処だよ……」


 聞いた話、ここには職員は存在しないそうだ。AIという事が露呈した途端アンドロイドのような職員は“ほぼ”排除したそうだ。


「何かお困りでしょうか」

「うおぅ!?」


 背後から、女性の声がいきなり聞こえて驚き、瞬時に距離をとった。

 背後にはいつ現れたのか、まるでステルスかとも思える女の子だった。

 顔は色白く、髪の毛が空と同化できそうな青色をしており見た目が子供っぽいことを除けばとても整った容姿をしていた。


「すみません。いつも驚かせてしまうんですよね、私……」

「いや……」


 彼女も驚かせてしまった事が後ろめたいのか苦笑いだった。

 その言葉に俺は、気の利いた言葉が出せない。


「それはそうと、お困りではありませんか?見たところここは初めての人のようですが……」


 そう言いながらジロジロと俺を見回す彼女。

 逆にその視線が困るんだが……。


「ああ、今日からここに転校になったんだが―」

「職員室ですね!!!」


 俺の言葉を遮り、まるで長年待ち続けた犬のように詰め寄られた。当然、身に覚えがないのでたじろぐ。


「まぁそうなんだけど、まず落ち着いてくれると助かる…」


 パーソナルスペースにいきなり女の子が来たとなれば心臓破裂ものだった。ショック死してもおかしくはない。

 俺がそうお願いすると顔を少し赤らめ「ごめんなさい」と距離をとってくれる。

 肩を落として安心してしまう…。もっと免疫をつける必要があると自身思ってしまう。


「で、職員室なんだが…」

「そ、そうでしたね…ええと…」


 もうさっきのことは済んだはずなのだが、女の子の赤らめた表情が戻らない。俺が少し首をかしげて覗き込んでみるとさらに果実のように熟していってしまう。


「あのー?」

「はひゃあ!?」

「そろそろ職員室の場所を教えてくれないか?」


 俺も知らない間に取り巻きが集まってきてしまっていた。俺と女の子は身長差があるだけに、俺がいじめているような格好になってしまっている。


「はい!ごめんなさい!で、ではこちらへどうぞ…」


 と、女の子の歩いていく方へついていく。その間にも取り巻きからのひそひそばなしがとまらない。おい、俺はこいつを脅してヤバいことやってる訳じゃねぇぞ。

 まわりがあらぬ方向に誤解をしていることに思わずため息が出る。


「ここが職員室です。とはいっても先生と呼べるような方はほとんどいらっしゃいません」

「とりあえず、道案内ありがとう」


 軽くお辞儀をして職員室の扉を開けた。

 後ろから、「こちらこそありがとうございました」と聞こえてきたがまたややこしくなると思い聴こえていないふりをしておいた。

 中に入るとそこにはげっそりと机に突っ伏しているスーツ姿の女の人がいた。他もその場から見まわしてみるものの、特に人は見当たらなかった。

 おそらく眠っているということで起こすのは忍びないのだが、これもしかたないと割り切ってその人の肩を軽くたたいた。


「んぁ?」


 やはり眠っていたようで表情はどこかふにゃふにゃしてしまっている。


「今日から転校してきました鳴沢なるさわたくみです。軽い手続きとクラスをお伺いしたくて来ました」

「ああ…お前かー。一応聞いてるぞー。ひきこもり少女たちをデレさせるんだろ?」

「ちょ!?その言いかただと、俺が悪いことしてるみたいじゃないですか!」

「意味合いは変わらんだろー。つっても、私もお前側だからお前を悪く言うことなんかできる立場じゃねぇけど」


 少し、苦笑いで先生は答える。

 というか、俺との短い会話だけでもうきりっとした格好になっていた。さすがは大人の女性、ということなのだろうか。


「私はあけぼの美智香みちか一応だがここのJRSで教師をやってる。一応言っておくが、人間だ」


 俺は「よろしくお願いします」と言って軽く頭を下げる。


「お前のクラスは……名目上は2年1組だが、まぁ今は真面目に登校してくる生徒もいないから適当にしててもらって構わない」

「ということは、取り巻きはAIだったんですね」

「もともと引きこもり生徒が多いわけじゃないから形だけ多く見せとく事にしただけだ。実際、見分けつかなかっただろ?」

「はい。普通に会話できそうでしたよ」

「一応、色々な性格のいいやつのデータを借りてあのAIを作り出してる。しかも学習していくから、問題なく会話できる」

「そうですか。ところで、なんかここに案内された小さな女の子は……?」


 忘れかけていたが、先生なら知っているかと思って聞いてみることにした。

 美智香先生は少し気だるい回して「ああ、あいつかー」と呟く。


「あいつはもの通り案内人だ。あいつだけは唯一、AIということを公言していたから今でも残されてる。一応、ミューって名前がついてる」

「分かりました。ありがとうございました」

「おう、取り敢えずそいつが教室も知ってるはずだから案内してもらえ。諸事項は思いついたら言うわー」


 と言いながら、手を振る先生にお辞儀して職員室を後にした。




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