第10話

 修行が始まってからはや時は経ち…といってもほんの一週間というところだろう。

 けれどもということは巧のプレイ時間はがっつりこのゲームにはまってますよくらいのプレイヤーだと胸を張れるほどになってしまっている。


「ぐ…ぐはぁぁぁぁ…」


 もう何度ドラゴンと死闘を繰り広げたであろう…。たかが人間一匹をなかなか倒すことができないことにドラゴンも頭をかしげてしまう始末だ。

 時刻は現実世界の時計で夜中の三時。ほとんどインしている者はいない。

 なぜならば、この世界では夜中になると街以外の周りで強力なモンスターなどが出現するという設定になっているからだ。当然、運営側もそれを討伐せよとかいうクエストを用意しているわけだが……なかなかそんな時間帯に隊を組めるような人は集まれないだろう。


(ましてや、ソロで立ち向かうなんて思いもしないだろうな……)


 基本的にこういった強力モンスター退治には複数でパーティーを組むのが普通だ。運営もそれが分かっていて敢えて一人ではほとんど無理な難易度の強さになっている。例えば単純にHPがウン百万だったり、一撃でもまともに食らったら死亡っていう攻撃力を持つモンスターである。


 そんな敵に向かって剣をひたすらに振る。しかし、せいぜい与えられるのは一振りで千ちょっと。この二百五十万のカレンド・ドラゴンにしてみれば蚊に刺された程度のものだろう。


「がはぁぁ!!」


 片足で叩き潰され、現実世界でも味わったことのない痛みに晒される。痛覚共有もこのバーチャルの楽しみの一つだと言われていたが、俺にとってみれば地獄を味わっている感覚だった。

 ん?なぜだって?

 だって死なないんだもん……。


 最近のバーチャルゲームは人間の痛覚の限界値ニアイコールその世界でのHPとなっているつまり、そのバーチャル世界で死にそうな苦痛になる手前で元の世界に意識が戻るということになる。もちろん、レベルに応じて痛覚の与える大きさとダメージ値の解離が当然起こるためにレベル上げをしようということになるわけだ。

 このようにしなければヒトは痛みに耐えられず、現実でも死んでしまう。


「おおおお!ラスト!!」


 縦ぶりに剣を振り下ろしドラゴンを倒した。実に、一日中かかったかもしれない。

 肩で息をして、獲得経験値とドロップアイテムを確認した。

 たったドラゴン一体倒すだけで五十万もの経験値を手に入れ、いきなりレベルは八十となった。


「はぁ…はぁ…やっと倒せた……」


 やっとの事で発することができた単語はそれくらい。

 頭がショート仕掛けているのか、入ってくる情報量に目が霞む。

 俺はその場に倒れてしまった……。

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