第9話

 ここでの目的はかいつまんで並べると『女の子と知り合って』以上……らしい。

 俺はこれを聞いて、なんと無謀なのだろうと思わずにはいられなかった。

(だって女の子を落とすだぞ!ゲームは選択肢があるからなんとなく女の子を喜ばせるためのマニュアルのようなものが出来上がっている状態でやっているからこそその女の子を信用できるという意味でなんて言葉が出てきているんだぞ。それをリアルで出来るなんて到底思えない)

 ゲームにもよるが、女の子自身の回想も見ることができるゲームはそれだけでこのこは攻略できると思わせる安心材料になる。もちろん現実にそんなものはない。


「俺には無理だ!」


 興奮冷めやらぬままに新に向かって言葉をぶつけた。

 それをまるで埃を吹くから払い落とすかのような笑みで見事なままにスルーしてきた。


「でも、やってもらわなければ君はここから出られない、これは本当だ」


 新はそう言うと左手を空の方へと向けた。

 その方へと顔を向けるとスクリーンが映し出され、自分が仰向けになっている。

 そして、禍々しい機材が身体につけられまるで植物人間のような光景が映し出された。


「これをしている限り。そして、さっきのスキルでリアルでも死ぬことはない。もちろん君専用のスタッフを二十四時間常駐させ、君の健康を完全に保証する。褥瘡の心配ももちろんない」


 新はそう言い切った。医療の世界にという言葉はドラマの世界でしか使われることはないと言っていい。

 それは、そうじゃなかった時の事が怖いからだ。

 もし使った薬の効果がなかったら、ちゃんと用法用量を守っているのにもかかわらず、重篤な副作用に見舞われるとか予期せぬことは常に起こりえる。

 しかし、新はそう言い切った。ということは、あちらも本気だということだ。


「と…とりあえず、やってみるだけやるよ」


 俺は新を見ながらも、警戒心は解かず口を開いた。いきなりのプレッシャーに言葉が震えてしまう。


「じゃあ、今回のターゲットだよ」


 そう言われ、スクリーンに映し出された。

 背中にまで伸びる黒髪に、整った顔、さらに色白でスレンダーな体つきをしているように見えた。

 良く言えばスレンダーだが、一方で俺は痩せすぎだと思った。


「岡崎朋絵。 父親からの愛情を受けずに育ったために引きこもり状態に至る。母は彼女が生まれた時に他界している。……身体データはいるかい?」

「い?……!? い、いらねぇよ!」


 一瞬いると言いかけて止めた。

 完全にゲーム脳になってしまっていた。相手は攻略相手であっても一人の人間だ、プライバシーは配慮しなければならない。もし得るとしても本人の口からの方がいいと思った。


「え、いや、ゲームのキャラクター紹介にはついてるだろ身体データが。だから、いるのかなぁって」


 俺が新を睨みつけるとそう弁解してきた。

(こいつはさっきからシリアス空気を細かくしてきやがる……。)


「はぁ……とりあえずいい。その子のいるところまで案内してくれ」

「おっと、その前に今回はこっちが接触する方法はもう考えてあるんだ」

「ほう…それはありがたい」

「じゃあ、ここでレベルカンストするまで修行しようか」

「そんなことだと思ったよ!!!!」


 こうして、過酷な修行の日々が始まったのだった……。



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