第8話

 巧はそう思いつつ、新を睨み付けた。


「そう僕に当たらないでよ。僕もできることなら、こんな無理やりなんてことはしたくないんだよ?でも、上からの命令だもん僕にもちょっとは同情してくれてもいいんじゃない?僕だって生活がある。本当ならこんなことばかりやっていないで、彼女を作って、結婚して幸せな家庭を築きたいよ。…でもこれが仕事なんだ。分かってほしい」

「そ…そんなこと言われちゃうとな…」


 新の暗くなった表情と発言の重さに俺は同情してしまう。自分がそういう立場だったらどうなるか、どうするかを想像した結果だった。


「それじゃあ、説明を始めよっか」

「変わり身はや!? さっきのはでたらめか‼」

「決してそんなことはない…半分はね」

「ほぼないようにしかおもえねぇ」


 俺は新にいぶかしげな目線をぶつけた。

(こいつは、いちいち発言が演技くせぇから油断できないぞ…気を付けていこう)

 新が咳払いをした。おそらく雰囲気を戻すためだろう。俺は視線を元に戻した。


「じゃあここでの目的ね。もちろんゲームクリアじゃあない。他の人はそうだけれども、君は別にそんなことをして欲しいんじゃない。じゃあ、何をするか。ここには沢山のプレイヤーがいるけど、その中に私たちの事業で失敗した子達が参加している」

「つまり、その子を更生させろ……と?」


 新の言葉を先読みして問う。別に悪気があったわけではないけれども、なんとなくそんな気がしたからだ。

 しかし、そんな俺の言葉に新は首を振った。


「事態はそんな簡単じゃないんだ。彼らは引きこもり。うつである確率も高い。そうなれば君の失敗でその人が死ぬ可能性も否定できない」

「……」


 俺は生唾を飲み込んで黙ってしまう。死という単語にことの重さを知ったからかもしれない。実際に自分の身体がまるで加重でもされているような感覚に襲われた。


「あ、これは逃さないための魔法だから。君の病気じゃないよ」

「いちいち慎重だなおい⁉︎」


 そんなツッコミに少し笑みをこぼして、すぐに真面目な表情を取り戻す新。

 彼も少なからずこのことに真剣なのがひしひしと感じ取れた。威圧感はないけどな…。


「ということで、君には彼らを攻略するつもりで当たってもらう」

「は?攻略…攻略って……あの?」


 ギャルゲを多くプレイしている俺であればここでの文脈での攻略といえば、一つである。


「そう。君は女の子たちを落として欲しい!」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 肩を掴まれて言われた言葉に驚きを隠せなかった。

 …むしろ、人生で一番叫んだかもしれない……。

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