第5話

 目覚めたのは白いベッドの上だった。


「……ここは天国か?」


 辺りを見渡す。この部屋には色合いがなく、物はほとんどが白か灰色で構成されていた。ドアでさえも灰色でどこか不思議な空間と思った。


「天国……ではないよ。君を殺すなんて出来ないからね」

「っ⁉︎ お前は!」


 現れたのは意識を奪った男だった。たしか、鳳新という名前だったか……。

 俺は警戒心を持ってその男を睨む。一見、マッドサイエンティストには見えない冴えない顔をしているが、人間見た目だけではないということはよく分かっている。


「そう警戒しないでくれ。僕も乱暴な真似はしたくなかったんだけど、上からの命令で仕方なくなんだ」


 鳳は両手を上げて身の潔白を訴えようとする。

 それだけで警戒心が解けるはずはない。


「俺に何をさせたいんだよ。やばい実験じゃないのかよ。俺が拒むからって無理やり連れてこいって言われたんじゃないのか?」

「うーん…そういう危険のある実験とは違うんだけど、君に負担が出てくるのは…うん、そうだと思う。それに関しては巻き込んでしまい申し訳ないと思うよ」


 鳳は頭を下げた。

 あまりにも下からの物言いに少したじろぐ。俺としてはやりづらさを感じていた。

 普通なら『そうしなければ……君の家族が……』とか高圧的な態度できてもおかしくないと思っていたからだ。


「……でやってもらいたいことって何だよ……」

「⁉︎ や、やって…くれるのかい?」


 鳳が俺の手を取って今にも泣きそうな目で見つめてくる。

 ウザいと思ったが、こんな表情や態度を示されたら話くらいは聞いてやるかくらいには気持ちを傾けることができた。


「話を聞くくらいはしてやるよ……それからだ!それから!」


 握られた手を払いつつ、そう言ってやった。

 そして、先ほどの説明を受けた。


「で、その失敗の理由は何だったんだ?」


 仮想空間を作り、NPCであるクラスメイトとうまくやりながら教養を身につけるという考えは俺も悪くないと思った。


「技術不足……かな強いて言えば。今のAIではまだ感情と表情を一致することができなかったんだ。かつ、彼らにテストを受けさせると必ず満点が返ってくる。それで参加者も誰が機械かが分かってしまったんだ」

「それでどうなったんでいうんだよ? 別にいいんじゃない」


 巧は何がおかしいんだという感じで首を傾げて言った。

 しかし、新はそれにゆっくりと首を振った。


「いいや、少し深く考えてごらんよ。目の前のヒトが本物じゃないと知ったら……。それがめちゃくちゃ可愛くて告白しようかなんて考えてたときにそれを知られたら……」

「あ……」


 それを聞かされた巧はハッと気づいた途端に下を向いた。

 最初からAIだと知っているのならまだしも、それはあまりにも自身の心がえぐられると少なくとも巧はそう感じた。

 その後に湧き上がるのは、俺だったら悲しみだ。


「そのせいで、生徒たちは不登校に逆戻り。もともとそういう子たちを集めていたからほぼ全員がこの仮想空間に来なくなってしまった……。あまつさえ、さらに状況が悪くなって、引きこもりになる子さえ現れてしまったんだ。これで事業は大失敗。親も期待していただけあってかなり怒り心頭でね、国は大損害だよ」


 少し苦笑いで答える新さん。まるで笑顔なのにため息をつきたくなる。そんな話し方だった。

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