第296話 レナートの最高傑作

「進路はこっちでいいのか?」

「そのはずですわ」


 ツバキ小隊とはぐれ、2人になってしまったイスラとカリラ。

 第2階層の整備用通路を抜けて、ようやく大きな部屋へと出た。


「ここは?」

「地図では整備室になっていますけれど――違うようですわね」


 薄暗い居室。

 敵機の気配が無かったのでイスラがライトで周囲を照らすと、培養槽が並んでいた。

 液体で満たされたその中には銀色の髪をした女性が浮かんでいる。


「ブレインオーダーの製造施設か」

「この設備ですと、どちらかというと研究施設のようですわ」

「なるほどね。ユスキュエル博士は自分の艦の中で研究を進めていたと」


 機材の間を通り抜けて2人は研究施設内を進んでいく。

 まずは主機関室を目標にしていたが、第2階層からは直接侵入できないので、ここを通り抜け、第1階層へ繋がるエレベーターを目指す算段だった。


「しかしこいつら突然動き出したりしないよな?」

「どうでしょう。

 主電源落ちているようなので、もう死んでいるかも知れませんけれど。

 動いたとしても丸腰なら処理できますわ」

「そりゃ違いない。――敵か」

「あら? 稼働固体が居たのかしら」


 イスラの〈エクィテス・トゥルマ〉が敵機反応を捉えた。

 カリラの〈颪〉は観測危機の類いを全て降ろしているので分からなかったが、直ぐに敵機コアユニットの動作音を耳にする。


「〈エクリプス〉?」

「のようだが、近いな。来るぞ」


 正面、研究施設の出口を塞ぐ位置に敵機が姿を現した。

 〈エクリプス〉のカスタム機。本来装甲の薄い高速突撃機として設計されている〈エクリプス〉だが、目の前の機体は装甲を積み増され、フレームも強化されている。

 恐らくは〈エクリプス〉の基本設計を流用して製造された中装機。


 だが機体以上に目を引いたのはヘルメットから除く搭乗者の顔。

 これまでのブレインオーダーとは違う。

 灰色の髪に翡翠色の瞳。

 その外見はイスラと良く似ていた。いや、それ以上に――


「母さん?」

「お姉様、まずいですわ」


 2人の母親であるレナート・アスケーグ。

 敵の姿はそれと瓜二つだった。30ミリ機関砲が指向されると同時、2人は回避行動をとり、巨大な循環装置の裏へ隠れる。


「悪趣味が過ぎるぜ。

 ユスキュエル博士ってのは母さんの遺伝子使ってブレインオーダー作ったのか?」

「いえ作ったのはお母様自身かも知れませんわ」


 イスラの言葉にカリラが応える。

 カリラは自身の脳に書き込まれた知識から、目の前に姿を現した敵についての記憶を引き出す。


「お母様がフノスに居た頃、自身の遺伝子を使ってブレインオーダーの製造を試みています」

「強いのか?」

「戦闘データとしてアキ・シイジの〈R3〉実戦データを使っているはず。

 悪くすれば彼女の思考能力も継承しているかも」

「悪くしないことを祈ろう」


 最強の宙間決戦兵器パイロット、アキ・シイジ。

 彼女の脳組織は取り出された後も拡張脳として装甲騎兵〈音止〉に搭載され、トーコへと常軌を逸した思考能力を提供していた。

 その能力が敵側に存在するとなれば一筋縄ではいかない。


「間違いなくレナート・リタ・リドホルムの最高傑作ですわ。

 増援を呼びたいところですけれど」


 カリラは言って通信を繋ごうとするが、通信妨害を受けているため何処にも繋がらない。

 イスラも肩をすくめた。


「この状況じゃ味方が集まるより敵が集まる方が早い。2人で何とかしよう。

 心配はいらないさ。あたしら姉妹はレナート・アスケーグの最高傑作だ」

「ええ、間違いありませんわ」


 にっと笑うイスラに対してカリラも笑みを返して、ではいつも通りにと告げると飛び出して行く。


 姿を現した〈颪〉へと攻撃が開始される。

 世界面変換機構による物理法則改変を前提とした宇宙最速の高機動機〈颪〉。

 急加速でトップスピードまで持って行くのだが、敵機30ミリ機関砲はその動きを追随し捉える。

 カリラは敵機攻撃の瞬間を見定めて急減速をかけるが機関砲が追従。


「予測されてる――」


 予測されない手段での機動変更。

 3極式世界面変換機構のコントロールを呼び出し、改変する物理パラメータに補正をかけた。

 急減速に使われたエネルギーが加速方向へ転置され、寸前で30ミリ機関砲弾をくぐり抜ける。


「こちらの動きを予測してきますわ。

 回避は世界面変換機構の物理パラメータ変更で対応して下さいまし」

「おうよ、なんとかやってみる」


 カリラが敵機背面へ回る。

 それを見計らってイスラは姿を現した。

 主武装56ミリ砲を向けるが直ぐに回避態勢をとられる。


 近接信管の設定を上手くすれば至近で爆発させられるが、発射した砲弾の信管を操作されたら後方に居るカリラに危害が及ぶ。

 通常そんな芸当は出来ないはずだが、フィーリュシカや拡張脳を使ったトーコなんかは平気でやってのける以上、この相手も同じようなことが出来るとみたほうがいいと判断。

 世界面変換機構のパラメータをいじって砲身を下向きに。敵機足下を向かって砲弾を放つ。


 爆発の瞬間には、敵機は着弾点から大きく距離をとっていた。

 それでも56ミリ榴弾。爆発の衝撃とばら撒かれた金属片が敵機へ襲いかかる。

 敵は機体を超高精度で操作し、爆風を振動障壁で受け流し金属片を装甲で弾き飛ばす。

 有効打は0。完全に防御された。


「見かけ以上に素早いぞこいつ」

「速度なら負けませんわよ!」


 カリラが敵機後方から突撃を敢行。

 榴弾の回避を終えたばかりの隙をつこうとするが、敵機反応はカリラの予想を上回る。

 突き出した振動ブレードを回避され、肉薄して繰り出した蹴りも、後ろに飛び退かれて避けられる。


 着地点を見越してイスラが左腕20ミリ機関砲を放つ。僅か7メートルの距離から撃っているのに全て装甲と振動障壁で逸らされた。

 敵機30ミリ砲がイスラへと指向。


 攻撃をさせまいとカリラが飛びつく。

 敵機は左手に個人防衛火器をもって牽制。装甲皆無の〈颪〉では受けきれない。

 それでもカリラは突撃を敢行した。


 飛来する小口径高速弾を振動ブレードで弾き肉薄。左手に持ったセミオートライフルの銃口を槍のように繰り出して発砲。

 放たれた銃弾は敵機ヘルメット外側を掠りもせずに飛んでいった。

 銃口から敵機ヘルメットまで30センチもあった。カリラの射撃技量で命中弾を出すには遠すぎる。


 30ミリ砲が瞬きイスラへと攻撃が為される。

 寸前で物理パラメーターを変更し回避をかけたが、30ミリ砲弾が〈エクィテス・トゥルマ〉の正面装甲を弾いた。

 重装機である〈エクィテス・トゥルマ〉は攻撃を受けきったが、装甲は大きく凹む。


「お姉様!」

「構うな攻め続けろ!」

「了解しましたわ!」


 既に肉薄していたカリラが連続攻撃を仕掛ける。

 振動ブレード、セミオートライフル、移動用ワイヤまで使って至近距離に張り付き攻め続ける。

 だが攻撃は敵機脆弱分を捉えられない。それどころか個人用防衛火器による牽制で、距離が離れつつある。


「お姉様構わず撃って下さいまし!」

「ああ、上手く避けろ!」

「お任せ下さい!」


 イスラが56ミリ砲を敵機直下に向け発砲。

 カリラは寸前で退避行動をとる。敵機もその場から回避するが、カリラは敵の回避先へ先行。


 榴弾が爆発。

 金属片の雨を、カリラは敵機を盾にしてやり過ごそうとする。

 敵機が回避した金属片が〈颪〉左腕部に突き立つが基礎フレームで弾く。装甲皆無のため腕に傷も負ったが、戦闘行動に支障なし。


 カリラは再度突撃。

 個人用防衛火器を向けられ、振動ブレードで銃弾を弾き飛ばしながら邁進。

 敵の射撃精度が上がっている。

 イスラとカリラの行動パターンが学習されていた。長期戦になれば不利だ。


 カリラは攻撃の寸前にイスラへと目配せする。

 彼女も現状を把握し短期決戦を支持した。カリラの突撃に合わせて自身も前へ出る。


 振動ブレードがへし折れ、小口径高速弾が〈颪〉左腕部装甲を貫通する。

 重量が軽い小口径弾頭だ。薄い〈颪〉の装甲でも威力を殺すことが出来た。

 一瞬腕に走った痛みを堪えて、カリラは至近距離から振動ブレードの残骸を投擲。


 敵機はそれを回避しようともしない。

 カリラは投擲の動作からハンドアクスを引き抜き横薙ぎに振るう。

 寸前で避けられたがブースター噴射と物理パラメータ改変を組み合わせ瞬間的に距離を詰め、切り返しの2撃目。


 ハンドアクスが個人防衛火器で受けられる。

 脚を止めた敵機へとイスラの砲撃が襲いかかるが、振動障壁によって弾かれてた。


 至近距離での近接戦闘へ持ち込む。

 カリラは個人用防衛火器が突き立ったハンドアクスを投棄。

 予備の振動ブレードを引き抜くと、敵機周囲を駆け回りつつ鋭い攻撃を繰り出しては脆弱部を狙う。


 イスラも30ミリ機関砲の攻撃をいなしながらも、自身の攻撃を絶対に命中させられる位置まで接近しようと試みる。

 至近距離まで近づき、56ミリ砲を放つ。

 距離が近すぎて信管が作動しないが、発砲炎が身を焼くほどの距離だ。

 強烈な熱放射に敵機振動障壁が作動。


 その瞬間にカリラも一気に攻めきろうと仕掛ける。

 目くらましにと至近でライフルを放ち、本命の振動ブレードによる突きを繰り出す。

 敵機は柄の長い戦闘用のバトルアクスを引き抜き振動ブレードの一撃を弾いた。


 カリラは即座に振動ブレードの投棄を決断。

 そのまま右腕を突き出し、後退させていたパイルバンカーを射出可能位置まで突出させ、エネルギー充塡と同時にトリガーを引いた。

 電磁レールで加速された金属杭がバトルアクスの柄を砕き、敵機正面装甲へ。


 金属杭が突き刺さった敵機爆発反応装甲が起爆。

 爆薬によって装甲が外側へと弾き飛ばされる。極至近にいるカリラへと装甲片が襲いかかった。

 〈颪〉の薄い装甲を食い破って突き刺さる金属杭。カリラは痛みに歯を食いしばりながらも、アンカースパイクの一撃を叩き込もうと一歩前へと踏み込む。


 敵機機動ホイールが空転。滑った機体が倒れ、カリラの渾身の蹴りをギリギリで回避。

 同時に敵は、柄の折れたバトルアクスをつかみ取った。即座に一振りして空中に舞っていた装甲片の一つを弾き飛ばす。


 至近距離へと接近し、20ミリ機関砲を突き出したイスラ。

 確実に仕留められる。そう確信して仮想トリガーを引くが、砲撃の瞬間、敵機が弾き飛ばした装甲片が20ミリ機関砲の砲口を塞いだ。


「ウソだろ!?」


 腔発を起こした20ミリ機関砲。

 直ぐに機体によって機関砲の強制脱離が行われるが、爆発によってイスラは一瞬視界を失った。

 敵機30ミリ砲が瞬き、一瞬射線を通した〈エクィテス・トゥルマ〉エネルギー変換器が撃ち抜かれる。


「お姉様!? ――っ!!」


 ほぼ同時。装甲片を弾き飛ばしたバトルアクスがその余力を持って振るわれて、〈颪〉腹部を捉えた。

 フレームが削られ、薄い装甲を突き破って内側を加害。

 カリラは攻撃の瞬間身体を仰け反らせて攻撃の威力を最小限に留めたのだが、隙だらけなところへスラスター噴射を浴びる。


「ああっ!!」


 中装機の姿勢制御を行うスラスター噴射。速度を追い求めて極限まで軽量化された〈颪〉は吹き飛ばされ、床を転がり、壁に激突した。


 機体を横滑りさせながら無茶な攻撃を仕掛けていた敵機。

 その姿勢を戻そうという所に巨大な影が襲いかかる。


「――やっと捕まえた。もう離さないぜ」


 敵機へ掴みかかるイスラの〈エクィテス・トゥルマ〉。

 エネルギー転換機が壊されたが、予備動力によって無理矢理動かしていた。

 世界面変換機構が機能停止し〈エクィテス・トゥルマ〉が本来の質量を取り戻すと、重量差で無理矢理敵機を押し倒す。


「カリラ! 聞こえてるだろ!

 お前が仕留めろ! 押さえておくので精一杯だ!」


 何とか敵機を組み伏せたイスラ。

 だが機体を動かすのは予備動力のみ。まともな操縦系統も稼働できず、取り押さえるのがやっと――それどころか、今にも立場を逆転されかねない状況だった。


 壁に叩き付けられたカリラはイスラの声で意識を取り戻し、目の前の光景と自分の状態を確かめる。

 腹部の傷は深くない。

 機体は――脚部破損。コアユニット稼働率50%で制限。

 立ち上がれず、這うようにして手にしたセミオートライフルを構える。


 距離にして5メートル。

 カリラにとっては絶望的な距離だ。


「お姉様無理です!

 近づきますのでそれまで堪えて下さいまし!」

「無茶言うなそこで撃て! お前なら出来る!」

「無理です!

 わたくしのブレインオーダーとしての知識には、遠距離から射撃を当てられないよう書き込まれています!」

「大丈夫だ撃て!!」


 イスラは叫ぶ。

 〈エクィテス・トゥルマ〉が最終警告を発した。予備動力残量ごく僅か。至急機体装備解除せよとの警告をイスラは無視。

 敵機を取り押さえ、カリラに対して声を投げる。


「お前なら出来る!

 ブレインオーダーなんて関係ない。

 お前はあたしの妹だ。だから出来る! 不可能はない! 今すぐ撃て!!」


 這いつくばってジリジリと進んでいたカリラ。

 だがイスラの言葉を受けて、胸が高鳴り、セミオートライフルを構えた。


 カリラにとってイスラは完璧な存在だ。

 カリラはイスラの妹だ。完璧なイスラの妹なのだから、自分だって完璧に違いない。

 それにイスラが出来ると言っている。きっと出来る。


 カリラはセミオートライフルの照準を定めようとする。

 心臓の鼓動が高鳴り、ライフルを持つ手が震える。

 相手は中装機。イスラが取り押さえているおかげで振動障壁を無力化されているが、12.7ミリのセミオートライフルで仕留めるには確実に頭部を狙う必要がある。


 ――わたくしはお姉様の妹。だから出来る。出来る。出来る。出来る……


 呪詛のように呟き、物理トリガーを引く指先に力を込める。

 カリラ渾身の射撃が撃ち放たれた。


 乾いた音と共に撃ち出された銃弾。

 それは真っ直ぐ、取っ組み合う2人の元へ向かう。


 ――そして敵機ヘルメット。そこから30センチ外側を通過。

 あろうことか銃弾は、イスラのヘルメットを捉えた。


 ヘルメット前面の透明ディスプレイを叩き割られたイスラ。

 同時に機体予備動力が尽き、搭乗者を守るために強制脱離が実行される。

 当然敵機はそれを見逃さない。

 機体装備が剥がされていくイスラを押し返し床にたたきつけた。


「そんなっ、お姉様!!」


 振り上げられる敵機の拳。

 だたイスラはそれを見てにっと笑った。


「良くやったカリラ。

 やっぱりお前は最高の妹だ」


 〈エクィテス・トゥルマ〉の装備が解除されたイスラ。

 敵機右腕が振り下ろされるより早く、彼女の右脚。膝から下がぱっくりと開いた。

 第2次統合軍反攻作戦で失い、以降義足をつけていた。

 そしてその義足には対装甲ロケットが仕込まれていた。


 超至近距離で放たれた対装甲ロケット。

 それは真上に居た敵機正面装甲へ衝突。

 発生したメタルジェットの噴流が爆発反応装甲を失っていた敵機正面装甲を貫いた。

 そのまま敵機後部コアユニットに向かうが装甲を貫通出来ず、敵の体内を超高温の液化金属が暴れ回る。


 内臓を焼き尽くされた敵はその場で倒れ込んだ。

 それに潰されぬようイスラは横に転がって、外れかかっていた義足をはめ直す。


「こんなこともあろうかと義足にロケット弾を取り付けてて正解だった」

「お、お姉様!? 確かに義足の設計図、中空になっていましたけれど――。

 それよりご無事ですか?」

「あたしは大丈夫。そっちこそ大丈夫か?

 ちょっと待ってろ」


 イスラはカリラの元へ歩み寄ると腹部を止血。傷は浅い。培養組織を貼り付けて包帯を巻く。

 それから〈颪〉脚部の簡易修理に取りかかった。


「ごめんなさいお姉様。

 お姉様を撃ってしまって」

「良いってことよ。結果的に上手くいっただろ?

 それに相手に一瞬でも隙が出来れば良いくらいに考えてたからな。

 まさか撃たれるとは思わなかったけど」

「本当にごめんなさい――」


 謝るカリラ。だがイスラは笑う。


「気にするなって。

 1人で何でも出来なくたって構いやしない。

 言ったろ? あたしら姉妹揃ってレナート・アスケーグの最高傑作さ。

 2人揃えば無敵なんだ。立てるな? ほら、行くぞ」


 カリラは立ち上がると、イスラに対して微笑みを向ける。


「ありがとうございます。

 やっぱりお姉様は最高ですわ」

「そうだろうとも。

 とりあえず機体を探すか。

 ブレインオーダーの研究施設なら〈エクリプス〉があってもおかしくないだろ。元々整備室だったわけだし」

「その通りですわ。

 恐らく奥の方に機体倉庫――ありましたわね。

 さっきの機体の予備機でしょうか」


 研究施設奥にあった機体置き場には、〈エクリプス〉のパーツと、先ほど戦った中装機が保管されていた。

 カリラは直ぐにセキュリティロックを解除し、機体制御装置をハッキングして統合軍仕様に書き換える。


「こちらで構いませんか?」

「ああ構わないよ。〈ベイリービーズ〉か。ともかく今は動けば良いさ」

「直ぐ設定済ませますわ」


 カリラは言葉通りあっという間に機体設定を終え、イスラは中装機〈ベイリービーズ〉を装備した。

 〈エクィテス・トゥルマ〉から通信機や端末など、回収できる装備を積み直すと2人は研究室を抜け、エレベーターシャフト内を降下して第1階層へ。


 主機関室の2重の隔壁ロックを解除して中へ入る。


「敵機――じゃないな。

 さっすがリルちゃん。早いな」


 主機関室で出くわしたのはリルだった。

 彼女の姿を――というより中破した〈Rudel87G〉を見て、カリラは駆け寄る。


「な、なんてことを!!

 貴重な飛行攻撃機をなんだと思っていますの!?」

「触るな。折れてんのよ」

「ああ! 基礎装甲に穴が!

 修理にどれくらいかかるのか理解していますの!?」

「もっと内側の方心配しなさいよ。

 だいたいあんたらもボロボロじゃない。エクィテスなんたらはどうしたのよ」


 イスラは笑って誤魔化して、それから逆に尋ねる。


「で、零点転移炉は止めたのか?」

「まだ。制御盤見つけたけど操作方法分からないし、ここじゃ通信繋がらないから。

 人捜しに向かうとこだった」

「オーケー。じゃあ制御盤の場所を教えてくれ。とっとと止めちまおう」

「ええ、是非そうして」


 リルの案内でカリラとイスラは零点転移炉の制御装置へ向かった。

 厳重なロックをカリラが解除して、零点転移炉の再稼働装置をイスラが停止させる。

 これで〈スサガペ号〉による仮想世界構築が途切れても、零点転移炉は再稼働されない。


 そしてちょうど作業を終えたところで、周囲の重力が書き換わった。

 仮想世界構築によって与えられていた物理パラメータが通常に戻った。

 すなわち仮想世界が崩壊したのだ。


「ギリギリ間に合ったな」

「流石お姉様ですわ」

「見つけたのはあたしよ」


 カリラは素直にイスラを褒め称えないリルへ敵意を向けたが、イスラは「偉い偉い」とリルを小馬鹿にしたように賞賛する。


「で、これからどうすんの?」


 リルの問いかけにイスラが答える。


「タマちゃんからの事前指示だと、零点転移炉止めたら後は可能な限り艦内機能停止させつつ、脱出手段の確保だな。

 両方やりたいが、敵艦内での少数行動が危険だってのは嫌って程分からされたよ。

 とりあえずここから近い脱出艇の確保へ向かおう」

「ま、妥当なとこね」


 リルが賛成を返すが、カリラは「態度が気に食わないと」食ってかかる。

 それをイスラがなだめ、3人は揃って内火艇保管室を目指した。


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