第273話 ハツキ島政庁攻略戦
ハツキ島政庁は、旧時代、人類が宇宙各地にその版図を広げていた頃に建設された移民局が元だ。
それが連合軍統治時代に地方管理局、前大戦枢軸軍統治時代に方面宙域司令所、戦争末期の連合軍統治時代に星系裁判所を経て決戦司令部と改修され、戦後、統合人類政府による統治となるとハツキ島政庁へと改修された。
宇宙開拓時代に建造された基礎は堅牢であり、前大戦中には宇宙空間からの攻撃に耐えうるよう改修されていた。
地上僅かに3階建てだが、地下にシェルター機能を備え、有事の際はここから宇宙軍の指揮を執れるようになっている。
反面、前大戦中主戦場とならなかった地上戦に対する考慮は為されておらず、統合人類政府統治時代になってから、暴徒対策として簡素な堀が造られた程度だ。
帝国軍は政庁付近に警備櫓と管理ゲートを建設している。だがそれだけでは組織的な防衛は不可能だった。
帝国軍によるハツキ島防衛戦略は3重の基地防壁にその多くを委ねており、政庁に強襲を受けることは考慮されていなかった。
「敵陣発見。簡易陣地」
「可能なら攻撃を。直ぐに追いつきます」
政庁への攻撃を開始したツバキ小隊。
リルが政庁周辺を囲う堀を越えて威力偵察。急遽造られたであろう簡易防衛施設を見つけると報告を飛ばす。
攻撃許可が飛ぶと、彼女は迷うこと無く高度を上げた。
帝国軍の防衛分隊。
どこから引っ張り出してきたのか珍しい中装機〈グラディウス.MkⅠ〉で構成されていた。
中装機としての能力は申し分ないであろうが、対空レーダーも対空火器管制も持たない。
通常火器管制で機関砲を放っても、リルの〈Rudel87G〉を捉えることは出来なかった。
リルは射線が通ると30ミリ速射砲の仮想トリガーを引く。
37ミリほどの威力がないにしても、それでも強力な30ミリ徹甲弾。
第4世代中装機の装甲をぶち抜いて破壊するには十分すぎる火力だった。
リルから中装機2機撃破の報告が飛ぶ。
後続のツバキ小隊も堀を越えて政庁敷地内に入った。暴徒対策用の堀など、軍用〈R3〉を持ってすれば大した壁にもならない。
最前を進んでいたカリラが簡易陣地に肉薄。
中装機相手に近接戦闘を仕掛け、振動ブレードとライフルのゼロ距離射撃で葬っていく。
「即応部隊出てきた。大した数じゃない」
偵察に戻ったリルが報告。ツバキ小隊の攻勢に対して追加の防衛部隊が出てくるが、僅かに2分隊。
真面目に守る気が無いのは明らかだ。
出てきた防衛部隊は政庁前の警備櫓を防衛する構えを見せる。既に櫓に配置されていた1分隊と合わせて3分隊。
「政庁の防衛射撃圏内に引き込むのが目的でしょう。
引き込まれて困ることもありません。一気に前線を上げて警備櫓を破壊。正面ゲートを突破します」
タマキの指示でフィーリュシカとナツコが警備櫓へ向けて前進開始。
カリラが相手にしていた中装機分隊は既に壊滅していた。彼女もエネルギーパックの交換を終えると警備櫓へと向かう。
リルは地上戦を任せて政庁の偵察へ。
防衛射撃圏内に近づくと対空砲が指向される。だが砲門数は僅かだ。
回避に必要な距離だけ離れて政庁を周回。
帝国軍は慌てて固定砲の配備を進めているようだった。しかし僅かな地上部分しか持たないハツキ島政庁に設置できる数は限りが有る。
保有戦力の大部分は屋内戦闘に備えているはずだ。
「政庁砲門増加中。
攻めるなら早いほうが良いわ」
「了解。そのつもりです。偵察を続けて」
「了解」
リルは通信を終了。その刹那、政庁北側から飛行偵察機が飛び上がった。
この状況で偵察――ではなさそう。
離陸した飛行偵察機は高度を緩やかに上げつつ大回りで旋回。東の方へと進路をとり政庁から離れていく。
「敵飛行偵察機1機目視。東へ離脱中」
「今政庁を離れるのなら追わなくて結構」
「了解」
応えつつも、この状況で政庁を離脱する以上、何か理由があるだろうとリルは敵機を注視。
注視点をズームした映像がメインディスプレイに表示される。
未塗装のスポーツモデル。
見たことのない機体。だが飛行翼の形状から製造会社は分かる。
飛行偵察機や高機動機と言ったスポーツ向け〈R3〉の大手、ロット技工。
その飛行偵察機シリーズであるエリスモデルだ。
恐らくは新型。第5世代技術を取り入れた〈エリスモデル4〉。
手にした装備は、銃身の長い、木材部品を多く使った骨董品みたいな狙撃銃――
「ロジーヌ・ルークレア――」
リルにとっては宿敵だ。
統合人類政府内で最も高い飛行可能機操縦能力と狙撃能力を持つ天才。
そして、元はコゼットの副官で有り、そのコゼットを殺そうとした人物。
されど追えない。
今ここで政庁攻略から離脱するわけには行かないし、30ミリ速射砲を2門担いだ状態で追いつける相手でもない。
それにタマキから離脱するなら追うなと命令を受けている。
「今日だけは見逃してやるわ」
誰にも聞こえない独り言を口にして、いよいよ砲撃を開始した政庁固定砲から逃れるように機体をロールさせた。
僅か3分隊で防衛していた警備櫓。
帝国軍は防衛施設である警備櫓を放棄し、後退しながら戦闘を継続。
時間を稼ぎつつ、政庁からの固定砲砲撃で削る作戦だったのだろう。
だが固定砲の砲撃があろうとも、後退しながら継戦などツバキ小隊相手には不可能だった。
寄せ集めの機関砲、対歩兵砲によって形成された弾幕は、ツバキ小隊の先陣に対して有効とは言えなかった。
攻撃を回避しながらも突撃の速度を決して落とさない最前列3機。
宇宙最速の高機動機〈空風〉を駆るカリラと、高速突撃機〈Aino-01〉を装備するフィーリュシカ。それに独自のカスタムを施し機動力を増強した最新鋭突撃機〈ヘッダーン5・アサルト〉を操るナツコ。
3機は瞬く間に砲撃を掻い潜ると敵機へ攻撃を仕掛ける。
一撃必中。彼女たちの攻撃を避けられる機体は居ない。
3分隊居た敵防衛部隊は、あっという間に壊滅した。
突破した最前列は既に正面ゲートの射程に入っている。
「側面から来たぜ」
後方。タマキとその護衛に付いたサネルマとイスラ。
イスラの機体が敵機を捉えると、機関砲を構えながら報告を飛ばす。
「あの前列止めるよりは指揮官潰した方が合理的だと判断したのでしょう」
「そりゃあ舐められてるなあ」
イスラがそうおどけてみせると、タマキも口元に笑みを浮かべて返す。
「全くです。
直ぐに追い返します。前進は継続。
片付け終わったらツバキ4は政庁突入の援護に向かって」
「あら。行って良いのか?」
このところ、というより長い間隊長護衛につけられていたイスラは、久しぶりの最前線投入に心躍らせながらも、間違いだったなんて言われないよう確認をとる。
タマキは怒ったように返す。
「そう言いました。
大体、隊長護衛と敵拠点制圧、どちらが大切ですか」
「隊長護衛」
イスラは即答した。
部隊にとってどちらを大切にしなければならないか。その答えは明白だ。
敵拠点をいくら制圧しようが、指揮官無しでは部隊は戦えない。せっかく拠点を制圧しても守り切れない。
だがその回答をタマキは一蹴する。
「とんだ誤りです。
わたしが自分の身も守れないとでもお思いですか?」
「いやまさか。一般論を言ったまでさ。
あんたなら大丈夫だよ」
「分かれば結構。
先に行ってください」
側面攻撃を仕掛けてきていた敵部隊は半数を撃破され、負傷者を担いで後退していった。
イスラは命令に従い加速して護衛隊列から離れる寸前、サネルマへと視線を向けた。
「そっちは頼むぜ、副隊長殿」
「はい。頼まれました!」
回答を受けると、イスラは〈エクィテス・トゥルマ〉のブースターに点火。
一気に2人から離れ、前列を行くナツコ達の後を追いかけた。
残されたタマキとサネルマも、敵からの攻撃を受けなくなり、速度を上げて政庁へ向かう。
大型固定砲は既にフィーリュシカが沈黙させている。
イスラが辿り着けば、正面ゲートも突破できるだろう。
「さあ、はぐれるわけにはいきません。
政庁へ突撃します。
あなたは決してわたしから離れないように」
「お任せ下さい!
不肖、サネルマ・ベリクヴィスト。何処までも隊長さんについていきます!」
◇ ◇ ◇
ハツキ島政庁の正面ゲートを守る敵兵はあっという間に一掃された。
後方から追いついてきたイスラが56ミリ榴弾をゲートに叩き込むと、直ぐに突入命令が下される。
「お先に失礼しますわ」
カリラが先行。ゲート破壊に合わせて〈空風〉を高機動モードへ移行。エネルギー効率とコアユニット冷却材を犠牲にして、一時的に機動力をかさ増しして突貫。
その速度に政庁玄関で待ち構えていた防衛分隊も照準を合わせきれない。
カリラは敵機に肉薄すると近接戦闘で1機ずつ削っていく
「まずは1階を制圧。
次に地下通路入り口の確保を。
直ぐに外から敵機が来ます。迅速に」
命令を受けてツバキ小隊は政庁内になだれ込んだ。
政庁内部の地図は帝国軍によるハツキ島強襲前のものであったが、旧時代の技術で造られた建物基礎部分は変更されていないはずだ。
地図を頼りに政庁1階各所を制圧していく。
帝国軍は屋内防衛戦術をとる。
対歩兵トラップや死角からの奇襲。
どちらもツバキ小隊には通用しない。人間の認識能力を超えるフィーリュシカが存在する以上、トラップも奇襲も意味を為さなかった。
トラップは全て未然に防がれ、奇襲のため身を潜める敵機は攻撃を仕掛ける前に撃破される。
1階を制圧。地下へと続く階段はイスラが確保していた。
「部隊を2つに分けます。
攻略班はわたしと共に地下の司令部を。
防衛班は1階に残って敵兵の迎撃に当たって下さい」
班分けが行われる。
タマキ、サネルマ、カリラ、ナツコが攻略班。
フィーリュシカ、イスラ、リルが防衛班としてその場に残る。
攻略班は階段を駆け下り地下へ。
敵兵が待ち構えていたが、カリラとナツコが道を切り開く。
「重装機!
そちらで対処して下さいまし!」
「こっちでも正面抜けません。回避して側面とらないと」
通路の奥。即席障害の背後から重装機が弾幕展開。
狭く長い通路だ。弾幕を回避しながらゼロ距離まで近づくのはナツコやカリラでも時間がかかる。
「お任せ下さい!」
一時後退しようとするが、サネルマが攻撃を買って出て前進。
その言葉にナツコとカリラは後退を中断。通路に残り、重装機の攻撃を引きつける。
「行きます!」
通路に飛び出したサネルマ。40ミリ対空砲が通路奥に向けられる。
屋内戦闘で用いるには過剰な火力。徹甲焼夷弾は即席障害を吹き飛ばし、隠れていた重装機〈T-7〉の姿をあぶり出す。
更に継続して放たれた砲弾が敵機の正面装甲を砕く。
即席障害を取り払われ後退する敵部隊をカリラが追尾。
間合いに入り込んでしまえば〈空風〉の独壇場だ。
脆弱部にライフルの銃口を叩き付けゼロ距離射撃で葬っていく。
地下1階を突破。
階段を下ると行く手を阻む隔壁に到達。カリラがコンソールをこじ開けて、ものの数秒でロック解除した。
ゆっくりと開く隔壁の向こうに敵機。だが射線が通った瞬間にリボルバーカノンの砲弾が叩き込まれていった。
「司令部は地下3階です。
このまま制圧を」
「はい!」
隔壁をくぐり抜けナツコが突貫。地下2階に展開された帝国軍は少数だ。
既にまともな防衛部隊は使い尽くしている。
司令部に詰めていた士官達までもが、機銃を担いで防衛に当たっているような状況だった。
しばらく訓練も行っていない人間がどれだけ集まろうとも障害にはならない。
前線をナツコとカリラで蹴散らし、その後ろをタマキとサネルマが続く。
帝国軍側も高機動機でタマキへ襲撃をかけたりもしたが、〈C21〉を装備したタマキはレーザーブレードで返り討ちにした。
地下2階、階段前の隔壁に到達。直ぐにカリラがコンソールを開く。ロックは即座に解除された。
隔壁が開くと機銃弾が飛んでくる。防衛に当たっているのは指揮官機だ。敵もなりふり構っていられない状況だった。
ナツコが機銃弾の射線に身をさらす。
敵機がマイクロミサイルを装備していたので、多少強引にでも早期排除すべきだと判断した。
DCS起動。運動エネルギーを生成して機銃弾を弾くと、隔壁の隙間に突き出したリボルバーカノンを発砲。
指揮官機〈ヘリオス12B〉4機を撃破。
隔壁が開ききると通過し地下3階へ。
地下3階は静かなものだった。
もうこの司令部を守るまともな戦力は存在しない。
「総司令官の身柄を押さえます。
非武装の相手はなるべく撃たないで」
タマキの指示に頷き、ナツコが先陣を切って進む。
人の気配がする部屋。
間隔を研ぎ澄まして音を聞く。〈R3〉の駆動音はしない。トラップも無さそう。
扉は蹴破らず、コンソールにハッキングをかける。
カリラほどうまくは出来ないが、演算能力のごり押しでセキュリティは突破できた。
扉が開く。
非武装の人間相手にリボルバーカノンは向けられないので拳銃を構えた。
「動かないで下さい」
司令部要員。事務方だろう。戦闘用ではない制服に身を包んだ帝国軍兵12名が壁際に集まっていた。
ナツコはゆっくりと声をかける。
「じっとしていてくれればこちらから攻撃はしません。
ですので」
発砲。
ナツコの放った拳銃弾は、司令部要員が手を伸ばしかけた個人防衛火器に命中し弾き飛ばした。
目の前に現れたのが1人だったので勝算があると踏んだのだろう。
しかし失敗が明らかになると、その司令部要員を含め全員が両手を掲げて降伏の意志を示す。
ナツコは拳銃の銃口を動かしながら話を再開した。
「――ですので、大人しくしていて下さい。
どんな小さな動きも見逃しません。そちらに戦う意思があるのなら、私も攻撃を躊躇しません。
しばらくこの部屋に居て下さい。統合軍の方が来ます。
これから扉を閉めますが、決して開けたりしないように。
開けたら、直ぐに分かりますからね?」
問いかけるようなナツコの言葉に、帝国軍兵士は頷いて見せた。
「はい。ご協力、ありがとうございます。
では私はこれで失礼しますね」
拳銃を降ろし一礼するとナツコは退室する。
扉を閉め切るがロックはかけない。大人しくしてくれるだろうと信じることにした。
司令部要員を部屋に押し込めながら司令部へ。
司令部の扉は閉ざされていた。
タマキがこじ開けるよう命令すると、ナツコとカリラが目配せし役割を決める。
個人防衛火器を構えるナツコ。その隣でカリラがパイルバンカーにエネルギー充塡。金属杭の射出準備が整うと合図を出す。
「行きますわよ」
「はい」
射出される金属杭。司令部の扉はパイルバンカーの衝撃に耐えきれず吹き飛んだ。
直ぐにナツコが突入し個人防衛火器を向ける。
司令部には将官を含め多くの士官が詰めていたが、全員〈R3〉を装備していない。
装備解除された〈R3〉が床に転がってはいたが直ぐに使える状態ではない。
ハツキ島政庁の帝国軍司令部は、降伏を選択していた。
「全員、武装を解除して下さい。
戦闘の意志がないものに対して攻撃はしません」
司令部が沈黙しているのを見てタマキが入室する。
全員が両手を掲げ降伏の意志を示す。拳銃や個人防衛火器も、全て弾倉が抜かれ床に転がっていた。
「賢明な判断に感謝します」
感謝の言葉を述べてタマキは視線を巡らす。
直ぐに室内で一番階級が高いであろう人物を見つけた。
後は話をつけるだけだ。タマキはサネルマとナツコに命令を飛ばす。
「ツバキ2、エレベーターの起動に向かって。
ツバキ6、護衛についてあげて」
2人は敬礼すると司令部を後にした。
タマキはカリラだけを護衛につけて、総司令官へと歩み寄り一礼する。
「ズナン帝国軍トトミ星系ハツキ島防衛総司令官、オルブライト・マーコレー大将閣下ですね?」
「そうだ」
オルブライトは低いくぐもった声で応えた。
それからタマキへと問う。
「そちらは?」
「お初にお目にかかります。
わたしはハツキ島義勇軍隊長、タマキ・ニシです」
「義勇軍? 正規軍でもない部隊にここまで来られたのか」
不快感を隠さないオルブライトの言葉。
タマキは苦笑しながら応じる。
「運が良かっただけです。
統合軍が帝国軍の主力を抑えてくれなければこうはならなかったでしょう。
さて、単刀直入に申し上げます。
戦闘停止命令を出しては頂けませんか?」
オルブライトはかぶりを振った。
一切考える時間は無い。彼の中でもう結論は出ていた。
「それは出来ない。
既に司令部は余所に移した。
今の私には、何一つ決める権限はない」
「そうですか。残念です」
帝国軍が降伏しないのはタマキも分かっていた。方面軍ともなれば、本国の許可無く降伏することは出来ない。
そして本国は決して降伏を認めたりしない。
現在のハツキ島防衛司令部は南の対宙砲陣地か、東海岸側の何処かか。
ここでは無いことだけは確かだ。
「ではあなた方の身柄はこちらで預からせて頂きます。
もうしばらくこのままお待ちを」
タマキは通信機に意識を向ける。
サネルマ達はエレベーターの起動に成功していた。
ここは枢軸軍統治時代に方面宙域司令所として使われた施設。当然、ハツキ島に張り巡らされた地下施設とも繋がっている。
だがここだけは司令部直結とあってセキュリティが堅い。
地下施設側、政庁側の両方から起動コードを送らなければエレベーターが起動されなかった。
「ニシと言ったな」
オルブライトが口を開く。
タマキは彼が何を言いたいのか察して答える。
「アマネ・ニシはわたしの祖父です。
閣下は連合軍出身だそうですね。あまり良い印象はないでしょう」
オルブライトは頷く。
「無論だ。
枢軸軍のアマネは倒すべき敵だ。――今でもその事実に変わりは無い」
オルブライトの言葉をタマキは聞き流す。
前大戦集結から20年。未だにオルブライトの中では大戦は続いている。
それを咎めることは出来ない。
大戦は100年以上続いたのだ。突然終戦と言われても、割り切れない人間は存在する。
そういう人々が居たからこそ、その受け皿である帝国軍がここまで肥大化したのだ。
「しかし1つ得心いった。
我々の誰も見つけられなかった地下通路。
奴の孫なら知らされていてもおかしくはない」
その言葉にタマキはかぶりを振った。
怪訝そうな顔を向けるオルブライトに対して告げる。
「あの通路を見つけたのはハツキ島市民です。
わたしたちはハツキ島義勇軍としてこの場所に居ます。
あなた方は、ハツキ島市民に負けたのですよ」
オルブライトは言葉を失う。
そこへ司令部の壊れた入り口を越えて、テレーズがやってきた。
既に彼女の率いるサザンカ小隊はエレベーターを通じて政庁地下に移動してきている。
「地下司令部の接収と捕虜拘束はサザンカに任せます。
ツバキは政庁奪還に来る帝国軍の相手をします」
「任されました」
その場をテレーズに任せ、タマキはカリラと共にエレベーターへ向かう。
サザンカ小隊が物資を運び入れているはずだ。補給を済ませ、地上へ戻らなければいけない。
帝国軍は降伏しなかった。そして統合軍はまだ政庁に辿り着いていない。
だとすれば、帝国軍は政庁を奪還しに来るだろう。
生憎この施設は守る戦いに向いていない。
それでもハツキ島義勇軍は逃げられない。
タマキがツバキ小隊と交わした約束を履行するためには、この場所が絶対に必要だった。
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