第260話 ハツキ島義勇軍、作戦開始
統合軍はハツキ島中央市街地に張り巡らされた3重の基地防壁の内、最外周の突破に成功。西側正門を突き破り市街地内へ入った。
しかし突破地点以外の基地防壁は健在で、その攻略に手間取り市街地の攻略は遅々として進まなかった。
ツバキ小隊は突破地点の防衛につきつつ後方から届く物資の運搬に従事。
これまでの戦闘で消費してしまった物資の補充を進める。
基地防壁を突破するまでは勢いの良かった統合軍だが、戦力を投入し続けても市街地の攻略は進まない。とても次の基地防壁攻略に取りかかれるような状況ではなかった。
それどころか、2層目の基地防壁防衛のために後退していた帝国軍が前線に戻り始め、統合軍はいくつかの戦線では押し返されてさえいた。
「物資補充完了いたしましたわ」
物資が満杯に積載された輸送車両を運んで来たカリラが、簡易宿舎で椅子に座ったまま仮眠を取っていたタマキへと報告する。
声をかけられた彼女は目を覚ますと、立ち上がって上着を羽織る。そのまま2人は宿舎の外へと足を進めていく。
「ご苦労様。
補給した物資のリストは?」
「更新していますわ」
「大変結構」
タマキは士官用端末を手に持ち物資の一覧に目を通す。
一応、ツバキ小隊の目標としていた物資量は達成。
その後に大隊の保有物資も確認。そちらもタマキが指示したとおりの物資が集められていた。
「ナツコ・ハツキ。ただいま帰還しました」
2人が外へ出ると、そこへ〈ヘッダーン5・アサルト〉を装備したナツコがやってくる。
彼女は戦況観測のため基地防壁北側方面へと送られていたが、統合軍の後退を受け観測地点を放棄し戻ってきていた。
「お疲れ様。前線は持ちそうでしたか?」
「はい。統合軍の防衛部隊が向かっていたので、直ぐに崩壊することはないと思います」
「大変結構」
タマキは士官用端末へ目を向ける。
統合軍は西側正門を拠点化し、市街地戦、そして南北の基地防壁占領へ動いている。
帝国軍は市街地を防衛しつつ、北側の基地防壁を奪還すべく攻勢に出ている。
理想的な形とは言えなかったが、統合軍側が押され始めている現状、動くなら今が最後のチャンスだった。
「カリラさん、輸送車両を全て移動できるように。
ナツコさん、宿舎で休んでいる隊員を起こして出撃準備させて」
「「了解」」
指示をきいた2人は直ぐに行動へ移す。
タマキも、これからの行動のため端末から通信機を呼び出して大隊司令部へ繋いだ。
「こちらツバキ小隊隊長ニシです。大隊長をお願いします」
発信者がタマキだと分かれば、司令部から直ぐに大隊長が呼び出される。
ものの数秒でカサネが通話口に出た。
『こちら大隊長。
どちらの要件だ?』
カサネはこの連絡がツバキ小隊隊長としてのものなのか、妹としてのものなのか確認を取った。
それにタマキは応じる。
「両方かな」
『分かった。話してくれ』
カサネが要件を告げるよう催促する。
彼も今は大隊長として前線指揮をとる身だ。あまり長く時間はとれない。
タマキも単刀直入に要件を告げた。
「この前の約束についてだけど、時期が来たからお願い」
『本当にやるのか?』
「やる。
だから直ぐ準備して」
カサネは一瞬渋る。それでも彼はタマキの頼みに対して反対することはなかった。
『分かった。
あまり無茶なことは――いや、無茶をしに行くんだったな』
「そうよ。
じゃあねお兄ちゃん。いままでありがと」
『これからも助けが必要なら言ってくれて構わない』
「そのつもり。
でも一端は区切りをつけたいから」
『分かった。行ってこい』
「ありがと。大好きよお兄ちゃん」
いつもの社交辞令的な台詞にちょっとばかし気持ちをこめて返すと、タマキは通信をそれで終えた。
あとの手続きはカサネの方でつつがなく進めてくれるだろう。
タマキは格納庫へと足を向ける。
既にツバキ小隊の隊員は出撃準備を整えていた。
「準備出来次第トレーラーの前に移動を。
イスラさんとフィーさんは車両運搬を手伝って」
命令を下すとタマキも機能性インナーに着替えて装着装置へと入った。
士官用端末をかざし個人認証を通すと、最新鋭指揮官機〈C21〉が呼び出される。
火器については主武装12.7ミリ機銃をメインに最小限の構成。
電子戦装備として、戦術レーダー、高機能通信機、ステルス機構、通信妨害装置を積み込む。
「出撃コード発行。
全員トレーラー前に集合」
全体通信で告げると装着装置から飛び出す。格納庫から外に出て駐車場へ。
ツバキ小隊のトレーラーと、輸送車両2台。
その前には既に隊員が集結している。
重対空機〈ヘッダーン4・ミーティア〉を装備した副隊長、サネルマ・ベリクヴィスト。
高速突撃機〈Aino-01〉を装備したフィーリュシカ・フィルストレーム。
高速重装機〈エクィテス・トゥルマ〉を装備したイスラ・アスケーグ。
超高機動機〈空風〉を装備したカリラ・アスケーグ。
突撃機〈ヘッダーン5・アサルト〉を装備したナツコ・ハツキ。
飛行攻撃機〈Rudel87G〉を装備したリル・ムニエ。
そして主力2脚人型装甲騎兵〈ヴァーチューソ〉に登場したトーコ・レインウェル。
7人は出撃待機状態にあって、タマキが到着すると副隊長であるサネルマが一歩前に出て敬礼と共に報告する。
「ツバキ小隊、出撃準備完了しました」
タマキはそれに頷いて下がらせると、一同へ向けて告げる。
「これよりハツキ島義勇軍は第401独立遊撃大隊の指揮下から離れ、単独部隊として行動します」
待ちに待った機会が訪れたツバキ小隊。
遂にハツキ島市街地へ攻勢に出られると次の指示を心待ちにするのだが、タマキは士官用端末を眺めるばかりだった。
直ぐにでも市街地に入りたいナツコが挙手して尋ねる。
「あ、あの!
私たちは何をしたら!」
「もう少し待ちます」
「もう少しだって? 散々待ったぜ」
イスラが加勢するように口を開いたが、許可を得ずに発言した彼女はタマキに一睨みされた。
他の隊員が口を開く前にタマキは告げる。
「全員揃うまで待ちます」
その言葉にナツコは耳を疑い首をかしげた。
全員揃うまで?
ツバキ小隊は、〈しらたき〉にいるアイノを除いては全員この場に集まっている。
それでもタマキは待つと言って士官用端末をじっと見つめていた。
ツバキ小隊の集まっていた駐車場に、装甲車両が2両、輸送車両が4両やってくる。
合計6両の車両は真っ直ぐにツバキ小隊の元へやってきて、目の前で止まると装甲車両からそれぞれ指揮官機〈C19〉を装備した中尉が降りたった。
小柄で優しそうな顔をした士官が頭を下げて自己紹介する。
「ルビニ・テレーズ。招集に応じて参上しました」
続いて隣に立つ、切れ長の緑色の目をした、背の高い女性が続く。
「ヴェスティ・レーベンリザ。同じく」
カサネの大隊に居た2人。特にテレーズに至っては大隊長付き副官だ。
それが車両に合計2小隊の部下を乗せてこの場に集まっている。
「え、ええと? どういうことです?」
「大隊からハツキ島出身者を集めて連れてきて貰いました。
ハツキ島義勇軍は、ハツキ島出身で、ハツキ島政府を奪還すると望むのなら入隊出来るのでしょう?」
タマキの問いかけはサネルマに向いていたが、サネルマはそのまま隣のナツコへ視線を向ける。
そしてナツコは大きく頷いた。
「はい! その通りです!
ルビニさんとレーベンリザさんが一緒に戦ってくれたら心強いです!」
「名誉隊長様が言うなら異論はないさ」
イスラも賛同する。それにカリラも続き、皮肉を込めてヴェスティへ声をかける。
「足を引っ張らないようにお願いしますわ」
「そのつもりだ。お手柔らかに頼むよ」
ヴェスティがカリラの軽口に返すと、テレーズも「よろしくおねがいしますね」とおっとりした口調で述べて小さく頭を下げる。
「統合軍から小隊2つに中尉2人も引き抜いたら怒られるでしょ」
相当危険な橋を渡っているとリルがしかめっ面のまま問いかける。
しかしタマキは涼しい顔で、まるで気にした風もなく返した。
「誰がわたしを怒るというのですか」
「あんたじゃなくて大隊長が怒られるでしょ。流石のお兄ちゃんでも今回のはやり過ぎよ」
「それはわたしの責任ではありません」
「酷い性格してるわ」
タマキは「分かってる」と適当にあしらって、私語を慎むよう言いつけた。
リルもそれ以上シスコンのバカさ加減に言及するのには辟易としていたのでそれで打ち切る。
勝手に統合軍の人員を義勇軍に分け与えたとなれば問題になる。
カサネもそれは理解しているだろうから、この無茶を通すに当たっては総司令官なり副指令なりに相談しているはずだ。
その上で怒られたとしても、そんなことはタマキの知ったことではない。
ヘマをするバカが悪いのだ。
「全員整列!」
一通り雑音を黙らせてからタマキは声を張って命じる。
それにはツバキ小隊は元より、車両でやってきたテレーズとヴェスティの小隊員も外に出て整列した。
ツバキ小隊8名。加えて2小隊、84名。
総員92名。そして7メートル級2脚人型装甲騎兵〈ヴァーチューソ〉を有する部隊は、もう小隊とは呼べなかった。
全員が整列完了すると、タマキは胸を張って威風堂々とその前に立った。
「旧所属部隊の好意で、ハツキ島義勇軍に新たな小隊が2つ加わりました。
これまで通り7名はツバキ小隊。隊長はわたしが中隊長と兼務します。
ルビニ中尉。サザンカ小隊として重対空部隊の指揮を。
レーベンリザ中尉。アロエ小隊として突撃機部隊の指揮をそれぞれお願いします」
テレーズとヴェスティは敬礼で応じる。
それを確認してタマキはいよいよ号令を発した。
「これよりハツキ島義勇軍は単独でのハツキ島政庁奪還を目指します。
義勇軍にとって最終目標となる作戦です。各員、これまでの訓練の成果を最大限発揮し、作戦目標達成に尽力して下さい」
整列した隊員たちが静かに、しかし意志の強い瞳を持ってその言葉に応じる。
もう一度隊員の顔を見回していくタマキ。
この場に集まったハツキ島義勇軍の隊員たちの期待に応じるように、声を張り上げ、作戦開始を命じた。
「ハツキ島義勇軍ツバキ中隊。
ハツキ島政庁奪還作戦、開始せよ!」
号令に応じる大きな声が響き渡った。
ツバキ中隊は、統合軍を離れ単独での政庁奪還に向けて行動を開始した。
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