第259話 基地防壁砲撃支援
ハツキ島中央市街地の目前まで到達した統合軍。
市街地を取り囲む基地防壁を突破するため、戦線の拡大、重砲陣地の建築を進めた。
ハツキ島奪還作戦が惑星トトミにおける極めて重要な戦いであると喧伝するため、トトミ星系総司令官コゼット・ムニエと、副司令ウォード・ダーカンもハツキ島へ上陸。
帝国軍側もハツキ島へ降下艇を集中降下させ、市街地を巡る戦いは総力戦の様相を呈していた。
攻略準備を終え、いよいよ統合軍が基地防壁へ向けて前進を開始。
ツバキ小隊もこの戦いを避けること出来ず支援部隊として参加。大隊から供与された榴弾砲によって援護射撃を担当する。
ハツキ島中央市街地、基地防壁の西側正面入り口を狙う位置。平原地帯の窪地に榴弾砲を設置し、今は偽装網で覆われて隠れていた。
「これ撃っていいのでしょうか」
故郷へ向けて大口径榴弾を撃ち込むことに抵抗を覚えるナツコ。
しかしそれをイスラはあっけらかんと笑い飛ばす。
「構いやしないさ。
壊したら壊した分直せば良い。
そのためにもまずは帝国さんに出て行って貰わないとな」
いつも通り楽天的で前向きなイスラの言葉に、ナツコは大きく頷く。
「そうですね!
ここまで来たんです。出来ることは全部やりましょう!」
「その意気だ。
装填は任せとけ。撃つのは専門家に任せるよ」
イスラがナツコの肩を叩く。ナツコの精密射撃能力について疑いを持つ者は居なかった。
タマキもナツコとフィーリュシカを指名して射撃指示を出す。
「防壁の破壊はバンカーバスターに任せます。
わたしたちは敵の砲門を潰しましょう。
あなたたちなら出来るはずです」
「はい!」
ナツコが元気よく返事すると、フィーリュシカもそれに応じる。
2人は榴弾砲に取り付き役割分担を決める。
「照準は任せる。
こちらで砲弾を調整する」
「レインウェルで〈アースタイガー〉に使った奴ですか?」
「そう。
障害を透過させる」
「分かりました。それに合わせて照準決めますね」
観測班として市街地南西側の山地に陣取っていたリルから入電。観測情報が共有された。
統合軍が攻勢を開始。点在する重砲陣地から砲撃。
それに応戦するように帝国軍も砲撃を始めた。飛び交う砲弾の発射地点を予測しては、互いに応射を繰り返す。
「では我々も攻撃開始しましょう。
あくまで援護なので、あまり敵の注意を引きつけすぎないように。
応射の的になったら厄介です」
「はい! 分かりました!」
敬礼で応じるナツコ。
早速リルからの観測情報と、事前に統合軍が入手していた基地防壁の構造。
目視観測できない部分についてはフィーリュシカに尋ねる。
フィーリュシカが何らかの干渉を行い物理法則を書き換えられた榴弾が装填されると、照準を微調整。
全ての準備が終わると合図を出す。
「砲撃いけます!」
「偽装網を外して。
装填次第随時砲撃許可。初弾砲撃まで5、4、3、2、1――」
イスラとカリラによって偽装網が取り払われる。
砲口を基地防壁へと向けた榴弾砲。
ナツコはタマキのカウントダウンを受けて、〈ヘッダーン5・アサルト〉の火器管制を通し榴弾砲の仮想トリガーを引いた。
砲撃音が空気を震わせる。
発砲炎を瞬かせ、榴弾砲から大口径榴弾が発射された。
「着弾まで10、9、8、7、6、5、4、3、2、1――」
着弾。
基地防壁正面。多重防壁で守られた重要区画。
そこは基地防壁最前面の各砲門へ弾薬を供給する弾薬庫だった。
壁の内側で爆発を引き起こす榴弾。それは瞬く間に弾薬庫内に連鎖爆発を引き起こし、
重要区画を食い破った。
「あまり目立つなと言ったはずです!」
思わず声を荒げるタマキ。
しかしナツコは装填完了した榴弾砲の照準を調整しながらあっけらかんと返す。
「大丈夫です! 応射される前になんとかします!」
即座に次弾発射。装填次第随時砲撃許可は出ているので問題はない。
撃ち放たれた榴弾は基地防壁から砲口だけ出していた敵要塞砲へ直撃。装填済みの液体装薬に発火して、砲門とその場に居た指揮官を焼き尽くした。
「1発でも応射されたら謹慎させますからね」
「はい! そうならないよう頑張ります!」
ナツコは敬礼と共に応じると、次々に装填される榴弾砲を間断なく照準を定め放ち続けた。
◇ ◇ ◇
基地防壁西側正面入り口での戦闘は、統合軍側が優勢だった。
正確無比な援護射撃が帝国軍の要塞砲を次々に沈黙させたおかげで、統合軍のバンカーバスターは基地防壁に対して絶え間なく砲弾を叩き付けることが出来た。
重砲と前線指揮官を狙い打ちにされた帝国軍防衛部隊は、バンカーバスターの波状攻撃を防ぎきれなかった。
高さ30メートルに及ぶ防壁が幾度も大質量迫撃砲の直撃を受けついに半壊。
崩れた防壁の突破を狙って歩兵部隊が突撃を敢行する。
「歩兵を援護してください」
砲撃音に負けないようにタマキが大声で叫ぶ。
ナツコはそれに負けじと大きな声で応じて砲撃を継続する。
そんな中、砲撃に備えて地面に伏せていたタマキの肩をサネルマが指先で叩く。
「どうしました?」
榴弾砲の砲撃が重なったので、個人間通信で尋ねるタマキ。
サネルマは〈ヘッダーン4・ミーティア〉に搭載した通信機を示して答えた。
「救難信号が出ています。
発信はハツキ島市街地内からです」
「市街地から?」
市街地内は帝国軍に占領されているはずだ。
もしハツキ島強襲の際に逃げ遅れた市民が市街地内に残っていたとしても、今の今まで生き残っていられて、更に通信可能な状態とは考えづらい。
首をかしげるタマキに対してサネルマが告げる。
「もしかしたらハツキ島地下帝国に潜んでいるかも知れません。
第二階層以下ならまず見つからないでしょうし、食料も水も十分な備蓄がありますから」
「どうして子供の遊び場に食料備蓄が?」
「子供の考えることですから……」
サネルマは言葉を濁すが、タマキはそれを追求しなかった。
市街地内にハツキ島の生き残りがいるのならば、ハツキ島義勇軍としてはそれを無視できない。
ハツキ島市民を助けることは、ハツキ島を奪還することと同じくらい大切だ。
「統合軍の攻勢を見て救難要請を出したとしたらまずいですね。
下手に動かれては大変です。
統合軍が市街地に入るまでまだかかりますよ」
「その場で待機するよう返信しますか?」
「可能ですか?」
救難要請しか出せない通信機に対して、こちらから連絡できるのか。
連絡したとして、向こうは大人しくその指示に従ってくれるのか。
サネルマはその問いに対してはっきりと頷く。
「こういうときのための秘密の暗号を決めてあるので、多分伝わると思います。
試しても?」
「分かりました。任せます」
許可を得られて、サネルマは早速通信機で打電する。
シンプルな暗号。データにして数ビット。僅かな数字程度しか得られない程度の情報量だが、それだけ打ってサネルマは満足した。
「これで大丈夫だと思います」
「感謝します」
タマキが礼を述べると、それを待ってナツコが報告を入れる。
「砲身限界です」
「了解」
タマキは次の行動を悩む。
砲身を待って砲撃継続か、継続するにしても陣地を前に出すか。
しかし先ほどのサネルマの報告もあるしと、タマキは決断し通信を繋ぐ。大隊長へ一方的に要件を告げると続いて隊員へ指示を飛ばした。
「歩兵戦準備。榴弾砲は大隊に預けます。
これよりツバキ小隊は統合軍正面軍を援護します」
タマキとしては旧枢軸軍地下拠点への入り口を押さえておきたかった。
それはそこに避難していると予想されたハツキ島民を助けることにも繋がるし、早く市街地へ辿り着きたいツバキ小隊の意志とも一致する。
ツバキ小隊は砲撃を切り上げ、野戦装備へと切り替えて前進。
崩れかけた基地防壁へと進路をとった。
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