第261話 第2階層

 ツバキ中隊は車両を移動させた。

 目標地点となる旧枢軸軍地下施設への入り口は倒壊した建物によって塞がれていた。

 テレーズの重装機部隊と、トーコの〈ヴァーチューソ〉が主力となって瓦礫の撤去を進め、入り口まで到達。

 周囲を車両で固め、ナツコとサネルマが先行班として地下施設第1階層へと向かう。


「サネルマさん、ここの入り口は使ったことあります?」

「西側地域から出入りしたことはないかな」

「そうですか。

 では地図を頼りに行くしかないですね」

「地図は間違ってないはず。

 ナツコちゃんは降りて直ぐ左側をお願い」

「はい! 了解です!」


 入り口が開き、地下への階段が現れる。

 明かりをつけずナツコが先行。入り口からの僅かな明かりだけでナツコにとっては十分だった。

 暗視スコープを装備したサネルマが続き、階段を下っていく。

 長い階段を進み、一番下の直前で立ち止まって装備を確認。


 ナツコは左腕の25ミリリボルバーカノンの安全装置を解除。ハンドサインでサネルマへ合図を出すと、地下施設に降り立ち左側へ砲口を向ける。

 幅の広いコンクリート製の地下通路。そこは曲がり角のある50メートル先までがらんとしていて、ただナツコとサネルマの発する〈R3〉の駆動音だけが反響していた。

 敵機の姿は無し。右側を確認したサネルマも敵機確認無しを告げる。


「安全そうですね」

「うん。でも〈R3〉が通った跡があるみたい」


 サネルマがライトをつけて通路を照らす。

 そこには〈R3〉の機動ホイール跡が残っていた。くっきりと残るそれを撮影しデータベースと照合。結果は〈コロナC型〉。帝国軍の第4世代偵察機だ。


「帝国軍が出入りしてるのは間違いなさそう。

 こちらツバキ2。侵入地点の安全確保。帝国軍の痕跡あり」


 報告を入れるとヴェスティの突撃機部隊が降りてきた。部隊は早速第1階層の索敵に向かう。

 続いてトーコを除いたツバキ小隊が降り立つ。ツバキ小隊は真っ直ぐに第2階層へ続く接点を目指した。


「統合軍はこの地下施設の存在を認識してます?」


 サネルマの問いかけにタマキが応じる。


「はい。軍のデータベースに記録がありました。

 ただ第1階層の部分的な地図しか持っていないようだったので、兄に第1階層の地図を渡してあります」

「なるほど。第2階層より下は秘密にしたんですね」

「市街地中枢部に大部隊を送られたら政庁を勝手に落とされてしまいますから」


 政庁をハツキ島義勇軍が単独で奪還するために統合軍の力は必要ではあるが、地下施設を使って自由に動かれてしまうと先に政庁を取られてしまう。

 ハツキ島奪還という点では協力関係にあるのだが、政庁を巡っては敵対関係にある。

 かといって統合軍へ妨害行為を行えば軍規によって裁かれてしまうので、渡す情報の取捨選択によって行動を操るほかになかった。


『こちらアロエ。第1階層の地図情報を更新。

 恐らく帝国軍によって、第2基地防壁を越えるようなルートは全て塞がれている』

「こちらツバキ。了解しました。

 部隊の1部を地上との入り口監視に当てて残りを戻して下さい」


 タマキはヴェスティの報告に応じる。

 帝国軍側によって地下施設の一部は寸断されていた。それは張り巡らせた基地防壁を地下から通過されないためには必要な処置だ。

 しかしそれはハツキ島義勇軍にとって好都合だった。

 地下施設を通って基地防壁を越えられることがないと向こうが思い込んでいるのならば、この奇襲は絶大な効果を発揮する。


「これよりツバキは第2階層へ入ります。

 統合軍部隊が地下に降りてきたら連絡を。見つかったら面倒です」


 了解が返るのを確認して、タマキは第2階層への入り口を確かめる。

 そこに入り口があると分かってみてもそれは普通の壁にしか見えない。

 壁を〈C21〉の指先で叩いても反響音は他と何ら変わらない。


「サネルマさん。入り口の開け方は?」

「近接通信で認識コードを送って下さい。コンソールが出てくるはずです」

「了解」


 タマキは早速認識コードを送信。

 その信号に反応したのか、今まで平坦な壁だった場所から制御コンソールが姿を現した。

 旧枢軸軍の技術。それも前大戦中の前期のものによって秘匿されていたそれは、姿を現しても統合軍の電子索敵には検知されなかった。


「よくこれを見つけ出しましたね」

「偶然、枢軸軍の残した記録を見つけたそうです」

「そうでもなければ発見には至らなかったでしょうね」


 既に認証を通過していたので、コンソールから解錠信号を送信。

 目の前の壁が音も無く動き出し、幅3メートルほどの入り口が現れた。

 その向こうは密閉された空間で、それは以前使った旧枢軸軍地下施設へつ繋がるエレベーターと酷似していた。

 無機質な複合素材で作られたエレベーター。一面コンクリートの第1階層には似合わない存在だった。


「物資用のエレベーターはこれと同じサイズですか?」


 タマキの問いにサネルマが答える。


「いいえ。これよりもずっと大型のはずです」

「そちらで〈ヴァーチューソ〉の運搬は可能と考えても?」

「大丈夫です。車両も一度に乗り切るかと」

「大変結構」


 タマキの合図で全員がエレベーターへと入る。電源は生きていて、エレベーターは何事もなかったように起動すると扉を閉じて第2階層へと降下を始めた。


「ここ最近起動された痕跡がないか調べて下さい」

「コンソールから履歴がとれたはずです」


 サネルマが制御コンソールを示すと早速イスラが制御盤を開いた。

 旧枢軸軍規格の通信ケーブルを繋ぎ、変換器を通して整備用端末と接続。認証コードを通して起動履歴を確かめる。


「一番近いので1ヶ月前に使われてるな。

 それ以外にもハツキ島陥落から4回ほど起動されてる。使われた認識コードは全部一緒で、副隊長殿が提供したのと同一だ」

「だとしたらハツキ島市民の誰かかも知れないです」


 サネルマが答えると、エレベーターの床を調べていたカリラが報告する。


「〈R3〉が乗った痕跡はいくつもありましたけれど、帝国軍機のものは無さそうですわね。

 ――と言うより、統合軍機でも無さそうですわ」

「つまりハツキ島市民が所有していた民間機ですか?」


 タマキの問いに、一応カリラは照合に成功した機体リストを送信する。


「そう考えるのが妥当だと思いますわ。

 かなりマイナー機体ばかりなのが気がかりですけれど」

「確かに、あまり見ない機体ばかりですね。

 この〈ヘッダーン1・ギュンター〉と言うのは?」

「〈ヘッダーン1・アサルト〉をベースにアルデルト社が改造を施したカスタム機ですわ。

 生産台数の少ない機体でして、結構レアな機体として収集家には人気ですけれど、実用性はあまり……。

 〈ヘッダーン1・アサルト〉の方がずっと使いやすいですし入手も容易ですから」

「なるほど。他の機体も同じようなものですか」

「ええ。比較的収集家向けの機体ばかりですわ。

 Sikiliza社の試作偵察機〈S11〉に、ヘッダーン社が偵察機の走りとして少数生産した〈ヘッダーン1・ライトカスタム〉。

 それに林業向けの火炎放射専用機でありながら火炎放射機が使えない〈トーチランプ〉まで。

 と言っても、わたくしはどれもコレクションしている機体ですけれど」


 カリラは自慢げに告げて高らかに笑う。

 機体の詳細は分からなくても、それが実戦向きではない軍用以外の機体であることは明らかだった。

 となればそれの所有者は帝国軍でも統合軍でもなく、民間人である可能性が高い。


 エレベーターが停止し、ゆっくりと扉が開く。

 第2階層へ到着した。

 念のためナツコとサネルマが先行してエレベーターの外の安全確認を行う。

 第2階層はエレベーターと同じく複合材料製と思われ、その表面の材質は統合軍〈R3〉の持つ解析能力では特定不能だった。


「敵影無し」

「こちらもクリア」

「では大型エレベーターへ向かいます。

 警戒は怠らずに。ツバキ6、先行お願いします」

「はい! 任されました!」


 ナツコは敬礼して応じると通路を進んでいく。

 通路は広く、装甲騎兵でも通行できそうなくらいあった。壁に埋め込まれたぼんやりと緑色に発光する装置によって道は薄らと照らされていて、それはナツコにとって先を見通すには十分な明かりだった。

 全員ライトを消して、低出力状態で移動する。

 大型エレベーターまで半分という所で、ナツコは異変を感じ取り立ち止まった。

 ハンドサインでタマキに合図する。

 ――前方に所属不明機。

 それを見てタマキが全員に待機を命じる。


 〈R3〉の出力が絞られ全機スタンバイ状態に。

 ナツコは構えていたリボルバーカノンを通路の曲がり角へ向けて構え、仮想トリガーに指をかける。


 静寂に包まれた地下施設。

 ようやくタマキの機体が敵機信号を捉えると、即座に解析結果を確認。

 軽量な〈R3〉。コアユニット周波数は統合軍機とも帝国軍機とも一致せず。敵味方識別信号も出していない。

 彼女はデータベース照合をかけずに、そのまま端末画面をカリラへと向けた。

 それを見たカリラが即座に小さな声で短く伝える。


「〈トーチランプ〉。林業向け民間機」


 軍用機体でないことからタマキは少し安堵するも、それでも武装している可能性もある。引き続きナツコへと警戒を任せ、他に信号がないか端末を見つめる。

 その端末を見ていたカリラが、大きな声を上げる。


「お待ちくださいまし!」

「待つのはあなた。警戒中です」


 タマキは小声でそれを制しようとするのだが、カリラは手振りで端末をもう一度詳しく見せるように示す。

 仕方なく応じると、食い入るように端末を確認したカリラはやはり大声を上げた。


「わたくしの〈トーチランプ〉ですわ!

 許せません! 直ちに回収に向かいます!」

「大馬鹿者! 作戦行動中です!」


 慌てて駆け出そうとするカリラの腕をタマキはつかんだ。

 力比べでは高機動機の〈空風〉に勝ち目はないし、進路もイスラが塞いだので身動きがとれない。


「向こうから通信。

 救難信号――それ以外は発信できないみたいです」


 通信機を手にしていたサネルマが報告。相手が使用しているのは真っ当な通信機ではなく、救難信号だけ発信できるようにした自作機械だろう。

 タマキはカリラをイスラへと任せて通信機を確認した。


「こちらに気がついていますね」

「そのようです」


 カリラの声で存在はバレている。

 その上で信号を出してきたと言うことは、敵対する意志はないともとれる。


「ツバキ6。ゆっくり前進。

 発砲は向こうが銃を構えるまでは待って」

「了解」


 ナツコはコアユニットのスタンバイを解除。低出力にしつつ、火器管制には十分なエネルギーを回していつでも発砲できる態勢を整える。

 相手の足音を確かめながら前進。

 向こうは単機。ゆっくりと足を進めている。


 曲がり角まで到達。この先に相手がいる。

 ナツコはタマキへ進んでも良いか確認するため合図を出す。

 タマキは通信で答えた。


『所属確認を最優先。

 向こうに攻撃の意思があるのなら反撃して構いません。

 くれぐれも慎重に』


 ナツコは了解の合図を返して呼吸を落ち着ける。

 聴覚に神経を集中。相手の動きを予測。多分武器は構えてない。

 前進は続けているが姿勢が妙だ。両手を挙げている。だとすれば交戦の意思はなさそう。


 曲がり角から飛び出す。砲口を向ける必要は無さそうなので、代わりにヘッドライトを点灯して光を向ける。

 目映い光に相手は掲げていた手で目を覆う。


 赤を主体とした塗装の機体。民間機のため機銃を装備する能力もなく、火器管制装置も積んでいない。

 武装と呼べる物は腰のホルスターにさげた拳銃だけ。されどそれに手を伸ばそうとはしない。


「待て。撃つな」

「撃ちません。こちらは統合軍――ではなく、ハツキ島義勇軍です。所属をお願いします」


 ライトを顔から逸らしてあげてから所属を問う。

 相手は浅黒い肌をした中年の男性だった。彼は低い声で答える。


「統合軍トトミ星トトミ中央大陸レインウェル第1独立装甲騎兵中隊所属、ロード・ロスウェル中尉」

「ちょっと待ってください。照合します」


 ロードは両手を掲げたままその場で待つ。ナツコは一応意識をそちらへ向けながらも、タマキへと通信を繋いだ。

 直ぐに返答が返ってくる。


『照合とれました。

 統合軍の人間です。直ぐに合流するのでその場で待機』

「はい。分かりました。

 すいませんロスウェルさん。少しだけ待ってください。あ、手は下ろして大丈夫です」

「了解。

 感謝する」


 彼は必要な事だけを述べると、掲げていた手を下ろし、その場で直立し待機する。

 直ぐにタマキがやってきて彼に詳細な身元確認を始めた。


 ナツコは何か引っかかることがあって、それが一体何だったのかと思案する。

 ロード・ロスウェル中尉。会ったことはないはず。

 でもさっきの言葉は何処かで聞いたことがあるような気がする。

 引っかかりは感じるのだが、肝心の内容が出てこない。

 残念なことにナツコの脳みそは昔のことを鮮明に覚えていられるようには出来ていなかった。


「サネルマさん、ロード・ロスウェル中尉って何処かで会いましたっけ?」


 合流したサネルマに問うが、彼女は何も分からないと首をかしげた。


「会ってないと思いますよ?

 ここに居るということはハツキ島が強襲を受けてからずっと居たはずですから、可能性があるとすればあの日以外に無いですけど、そんな記憶はないですから」

「そうですよね。あれ、でも何処かで聞いたことがあるんですよね……」


 ナツコがサネルマと話している間に、タマキの方は確認を終えたらしい。

 ツバキ小隊を集めてかいつまんで説明を行う。


「ロスウェル中尉はハツキ島強襲時に戦闘に巻き込まれ、偶然この地下施設に辿り着き、

 統合軍の軍人と市民協力者と共に逃げ遅れた市民の救助を行い潜伏中だったとのことです」


 それを聞いてサネルマがタマキへ尋ねる。


「すいません。その市民協力者さんとは連絡が取れそうですか?」


 問いはタマキからロードへ伝達されると、彼はそれに答えた。


「市民の避難拠点となっているホールに民間用通信機が1機ある。

 誰かが持ち場に着いているはずだ」

「隊長。連絡を取っても?」


 サネルマの問いにタマキは一瞬だけ思案するも、彼女が許可を求めるならば必要な事だろうと通信が許可された。


「任せます」

「ありがとうございます!」


 サネルマは通信コードを受け取ると直ぐに通信を開始。

 短い通信。数ビットのデータだけ送信して、それで十分と通信を終了する。

 それを尻目にタマキはロードへ尋ねる。


「第2階層への帝国軍の侵入はありましたか?」

「今のところ確認されていない」

「ありがとうございます。

 それと念のため確認させてください。

 中尉は統合軍への早急な復帰を望みますか?」


 その問いにロードは明確に首を横に振った。


「恐らく軍人としては戦死扱いになっているだろう。

 軍務への復帰よりも、この場で与えられたハツキ島市民の護衛任務を全うしたいと考えている。

 これは私だけではなく、同じくこの地下施設に辿り着いた同僚と共通の意志だ」


 ロードの示した意志にタマキは微笑み、それから顔を寄せ、密かに協力を要請する。


「それならば、もうしばらくこの第2階層の存在を統合軍側に秘密にして頂いても構いませんか?」

「訳ありか?」


 戦略上重要な第2階層の存在。それをわざわざ統合軍へ伏せる理由はないはずだった。

 無理な提案でしかなかったが、ロードはそれを了承する。


「市民が無事ならそれで構わない。

 ――だが統合軍はハツキ島を解放するほどの戦力を有しているのか?」

「それはご心配なく。

 戦力は十分です」


 タマキとしてはハツキ島義勇軍だけで政庁の奪還まで進めるつもりだ。

 現在統合軍が苦戦している現状はあるものの、ぎりぎりウソとは言い切れない回答だった。


「ならば何も言うことは無い」

「感謝します中尉。

 市民の様子を確認したいとは思いますが、先に大型エレベーターの起動だけさせて頂けますか?」

「許可を取る必要はない。

 こちらは戦死扱い。指揮権はそちらにある」

「ご協力感謝します。

 ではツバキ小隊移動。

 市民の救援は後回しになりますが必ず助け出します。それでよろしいですね?」


 タマキはツバキ小隊へと確認を取る。

 それに反対するものは居なかった。タマキの必ず助け出すという言葉は信頼に値する物だ。

 各員、指示されたとおりに移動を開始する。


 移動途中、随伴したロードへとカリラが問いかける。


「その機体はどちらで入手しましたの?」

「第1階層の倉庫に保管されていた。

 色物揃いだがよく整備されていて工具もあった」

「そうでしょうとも。

 その機体はわたくしのコレクションでしてよ!

 他の機体も含めて無事でしょうね」

「貴殿は軍人か?」


 ロードの問いにカリラはかぶりを振る。

 しかしそれは不自然だとロードが反論した。


「この機体が保管されていた倉庫には軍規格品の火器が多数存在した。

 何故民間人が軍用火器を所有している?」


 これはいけないとカリラは視線を逸らしたが、その先にはタマキがいた。

 カリラとイスラが軍用品を所有していたのは周知の事実ではあったが、戦死扱いとは言え統合軍中尉に知れてしまったことは大問題だ。

 タマキがなあなあに出来る範囲にも限界がある。


「ツバキ5。その倉庫は本当にあなたが使っていた倉庫ですか?」


 カリラはたどたどしく答える。


「そ、そのはずでしたけれど、火器を置いた覚えはありませんわね。

 誰かが置いていったのかしら? 不思議なこともあるものですわ」

「そうでしょうね。

 そのような状況だとすれば、機体が勝手に持ち出されても文句は言いませんね」

「え、それとこれとは話は別――」

「言いませんね?」


 再度の確認に、流石のカリラも折れた。


「――全て無事に返却されるのでしたら」

「中尉。機体は全て無事ですか?」

「故障した物はあるが、損失は0だ」

「故障!? わたくしのコレクションが!?」


 素っ頓狂な声を上げるカリラ。それをイスラが鎮める。


「変態機ばっかりなんだ。

 そりゃ故障もするさ。でも直せるだろ?」

「そうですけれど! そうかも知れませんけれど!」


 文句を言いたいが、タマキに凄まれている上、違法火器所有の証拠を握られていては強く出られない。

 最悪ハツキ島を奪還してもムショ送り。逮捕を免れたとしても修理工場の営業権取り消しは十分にあり得る。


「構わないそうです。

 この件についてこれ以上追求は無しと言うことで」

「了解した」


 ロードは違法火器について黙認すると了承した。

 カリラ側も、機体の使用については渋々と許可を出す。

 やりとりが終わる頃には大型エレベーターの前に辿り着いた。こちらは使われた形跡無し。しかし電源も端末も生きていて、認証コードを通すと簡単に起動された。


「起動確認。直ぐ動かせます」

「少し待って」


 サネルマが報告するとタマキは通信機を起動。直ぐに上で待っていたトーコが応答した。


『こちらツバキ8。通信確認。

 地表側のエレベーター到着地点は押さえてあります。

 構造物設置済み。統合軍機から目視されないはずです』

「ご苦労様。

 エレベーターを向かわせます。〈ヴァーチューソ〉を降ろしてください」

『了解』


 続いてタマキはテレーズへと指示を出す。


「エレベーターで輸送車両を第2階層まで降ろしてください。

 部隊もエレベーター到着地点に1分隊だけ残してあとは下へお願いします」

『了解です中隊長殿』


 エレベーターは連絡係としてフィーリュシカとイスラを乗せて地表まで上げられる。


 地表側では都市基盤を支える地下構造物を取り囲むように、視界を遮る天幕と構造物が設置され、その中で地上待機部隊がエレベーターの到着を待つ。

 エレベーターが地表に近づくと、構造物の1部と地面が円形に大きく口を開くようにスライドし、元からそうであったようにぽっかりと大穴があいた。

 直ぐにそこには旧枢軸軍の技術で作られたエレベーターが姿を現す


 テレーズの指示で車両とサザンカ小隊がエレベーターへ搭乗し、イスラがツバキ小隊のトレーラーを運び込む。最後に空いたスペースにトーコが〈ヴァーチューソ〉を駐機させた。

 全員が乗り込むとエレベーターが移動を開始。真っ直ぐ第2階層へと向かった。


「車両を降ろして。指定位置に移動を。

 ツバキ4、ツバキ5。〈ヴァーチューソ〉を削岩機を装備させて」


 第2階層に到着するとタマキが指示を出し、迅速に車両が運び出される。

 護衛にサザンカ小隊が付き、車両通行可能区域を通って指定された目的地点へ向けて進んでいく。

 〈ヴァーチューソ〉はその間に装備変更。トレーラーに積まれたクレーンを使って、削岩機を両腕に装備させる。


「ちょっと時間かかったね」

「装備変更は直ぐ終わりますわ」


 トーコの言葉に、腕に乗って削岩機の組み付け作業に当たっていたカリラが答える。

 そういうことではないとトーコは否定する。


「そうじゃなくて、エレベーターの起動まで。

 予定時刻より遅かったから何かあったかと思った」

「アクシデントがあったのは事実ですわ。

 あろうことか、地下施設に入り込んだ軍人と市民協力者共が、わたくしの大切なコレクションに手をつけていましたの」

「有効利用して貰えて良かったね」

「本気で仰ってます?」


 カリラは作業の手を止めて〈ヴァーチューソ〉のメインカメラへ視線を向ける。

 トーコにとっては冗談のつもりだったのだが、カリラにとっては大問題だったらしい。面倒臭くなる前にトーコはその話題を切り上げる。


「別に。

 で、軍人ってハツキ島の人?」


 ハツキ島の地下施設に市民と一緒に居たのだからそうなのだろうと考えた上での問いかけだった。

 しかし作業を再開したカリラはその問いを否定する。


「いいえ。ハツキ島ではなかったはずですわ。

 どちらだったか詳しい話はあまり覚えて居ませんけれど」


 機体のことばかり考えていたカリラは全くその辺りの話を聞いていなかった。


 ハツキ島出身ではないのにハツキ島に残った軍人。

 そんな人も居るのかと、トーコはメインカメラを動かして周囲の機体をサーチ。

 タマキの隣に立つ所属不明機を発見。識別信号無し。多分この人だろうと注視してズームをかける。

 民間機の簡易ヘルメットに包まれた顔を識別。

 見覚えのある顔に、思わず声が漏れた。


「隊長?」


 その声にタマキと、同時にロードが〈ヴァーチューソ〉の姿を見上げた。

 タマキがそんなロードの行動を見て振り返る。

 ロードは真っ直ぐに〈ヴァーチューソ〉頭部を見上げたまま確かに呟いた。


「レインウェル軍曹か?」

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