第251話 救援作戦

 先行したナツコは、フィーリュシカと共に帝国軍が居る地点へと向かう。

 ツバキ小隊を包囲していた中隊は市街地に入り防備を固めつつ、南方に取り残された統合軍部隊攻撃へと転じていく。

 援軍に来た中隊はツバキ小隊へ向けて真っ直ぐに進んでくる。

 帝国軍の1中隊は約200名。後方支援を除くおよそ160名が攻勢に転じていると予想された。


 対する統合軍側は、ツバキ小隊が8名。ヴェスティの小隊が41名。

 トトミ大半島から駆けつけた部隊の数は不明。通信妨害がされていて確認も出来ない。敵地での戦いである以上電子戦での不利は仕方がない。

 この場にアイノが居ればなんとかしたかも知れないが、今彼女はこの場所に存在しない。


「正面、〈エクリプス〉来ます!」


 ナツコの視界に〈エクリプス〉の姿が映った。

 生物的な曲面を描くフォルム。装甲をそぎ落とし、速力、火力、そして電子戦能力に特化されたブレインオーダー専用機。

 真っ赤に塗装されたそれを見紛うはずが無かった。


「帝国軍のブレインオーダーは未完成。

 問題無い」

「はい。このまま前進しますか?」


 ナツコは左腕20ミリ砲を構えながら確認をとる。

 今は市街地の大通りを進んでいて、このまま射程内に入れば撃ち合いになる。向こうは〈エクリプス〉4機。火力においては向こう側が上回る。


「このまま行く」

「はい!」


 先行するフィーリュシカ。

 その背中をナツコは最高速度で追いかける。

 あっという間に〈エクリプス〉との距離が縮まる。相対距離700メートル。

 装甲の薄い〈エクリプス〉相手なら20ミリ機関砲で問題無く抜ける距離だ。


「いつでも撃っていい」

「もう少し近づきます」


 射撃許可が得られたがナツコは撃たない。

 20ミリ機関砲を構え、相手の動きを見る。


 ブレインオーダー。

 遺伝子合成と脳化学的手法によって、戦うためだけに産み出された存在。

 わずか1機で統合軍1方面軍を恐怖に陥れたそれが目の前に4機。


 だと言うのに、ナツコの頭はとても落ちついていた。

 機関砲の砲口を動かしては、それに反応する敵機の機動を観測する。

 身体の動かし方。回避機動の見極め方。照準の定め方。

 微細な動作1つ1つを観測していく。


 ――やっぱり。


 観測の結果をまとめて、ナツコは内心で頷いた。

 フィーリュシカの言った通りだった。帝国軍のブレインオーダーは未完成だ。

 遺伝子合成により戦闘に最適化された肉体。

 脳化学的手法によって先天的に書き込まれた戦闘データ。

 この2つは確かにブレインオーダーを優秀な兵士に仕立て上げた。


 高い観測力。そして敵の行動に対する反応初速の早さ。機体特性を熟知した最適な動き。

 だがそれだけだ。

 フィーリュシカのような、異次元の強さを持ち合わせているわけではない。


 認識能力はナツコが圧倒的に凌駕していた。

 〈エクリプス〉4機。主武装は23ミリ機関砲。

 だが4機に集中砲火をされたとしても、ナツコには問題無く回避可能だった。

 身体を特異脳の制御下におけば反応速度でも優位に立てる。

 フィーリュシカの「問題無い」という言葉は嘘偽りのない真実だった。


 統計から外れる行動をとってミスを誘い、回避不能な攻撃を叩き込む――。

 確実な対処方法を考えたが、ナツコはその案を却下。

 市街地南側に居る味方が救援を待っている。

 こんな所で時間を使うわけにいかない。

 最短ルートをとるべきだ。


 ――機体、耐えてくれるよね?


 1度壊した前科があるので不安だったが、それでも一応改造してるから大丈夫だと自分に言い聞かせる。

 特異脳の方は放熱能力が足りてないから長時間は無理だよと警告していたが、とりあえずそっちはいったん無視。味方の救援まで持てばそれでいい。


 〈ヘッダーン5・アサルト〉の操縦設定を全てマニュアルに変更。

 安全装置を全解除。重大な警告を含む全ての制御干渉を無視。

 頭の中でスイッチを叩く。

 右脳と左脳。2つの特異脳を同時に覚醒させた。


 右脳側で環境認識と肉体制御。

 左脳側で〈R3〉に最適化された機動を演算。


 不要な情報が切り捨てられた世界が灰色に染まる。

 時間が止まったように感じ、全ての物体が動きを止めた。


 〈エクリプス〉との相対距離は400メートルを切っていた。

 敵機23ミリ機関砲が発火炎を瞬かせる。

 ナツコの目には砲口から吹き出す炎の一筋一筋すら鮮明に映った。


 狙われたのはフィーリュシカ。彼女は既に回避行動をとっている。

 4機から放たれた23ミリ機関砲弾は全て外れる。


 戦闘データを先天的に書き込まれているだけあって4機の連携は完璧だ。射撃も1発1発が互いの回避ルートを潰すように考えられて行われている。

 それでもフィーリュシカには掠りもしないし、きっとナツコが狙われても回避可能であろう。


 だが2人からの攻撃はそうはいかない。

 フィーリュシカの構えた42ミリ対装甲砲が最後尾についていた〈エクリプス〉へと指向する。

 敵機体の現在位置、保有エネルギーから、この攻撃は回避も防御も不可能。


 ナツコもその攻撃に合わせるように20ミリ機関砲の照準を定める。

 射撃モードを3点制限点射に変更。

 前から3機。1機につき1発ずつで仕留める。


 特異脳による環境認識の速度・精度を引き上げる。

 頭の奥が焼けたように熱くなるが、熱を持てば持つほど演算能力は飛躍的に上昇していく。

 完全に静止した時間の中でナツコは射撃パターンを算出。


 〈エクリプス〉の現在位置。微少時間前の位置を観測。

 そこから機体各所が保有するエネルギーを算出。

 ブレインオーダーの反応速度から対応可能な回避ルートを算出。

 灰色に染まった世界で、敵機挙動を表す数式だけが動いていく。


 敵機が取り得る全ての行動パターンを数式化完了。

 演算期間を増やし、現時刻から2秒後までの敵機の動きを予測。

 予測された複数のパターンから、敵機のこれまでの動作からとりそうな選択肢を抽出。

 その全てのパターンにおいて回避も防御も不可能となる点を導出。

 あとはその点に向けて射撃するだけ。


 〈ヘッダーン5・アサルト〉に最適化された運動力学を元に、最も効率の良い行動パターンを演算。

 その行動を行うための最適入力を逆算。

 身体全体は特異脳の制御下にあった。神経伝達、筋速度確認。最適入力実行可能。


 完全に静止した時間の中で全ての計算を終えた。

 これから起こる展開は数学的に完全に保証されている。

 認識速度を落とす。

 止まっていた世界が動き出した。


 フィーリュシカの砲撃。

 合わせてナツコが、一見すると無茶苦茶な挙動で機体を暴れさせながら、3点制限点射で20ミリ機関砲を放った。


 42ミリ徹甲弾が最後尾の〈エクリプス〉正面装甲を捉える。薄い装甲は容易く貫かれる。

 ナツコの放った3発の20ミリ機関砲弾は、それ以外の3機の正面装甲に吸い込まれるように着弾した。

 威力は十分。〈エクリプス〉の装甲が砕かれ、内部の搭乗者を加害。いくらブレインオーダーが戦闘に特化した肉体を有していても即死だった。


「このまま前進」

「はい!」


 ブレインオーダーの部隊を一蹴した2人は敵部隊へ向けて前進を続ける。

 ナツコは〈ヘッダーン5・アサルト〉を通常設定に戻し、冷却剤で跳ね上がった機体温度を下げる。

 無茶な動作をさせたのが一瞬だけだったのでコアユニットも機体も壊れることは無かった。

 もう少し放熱能力が無いと長期戦は不可能だと判明したが、これについては作戦が終了してから。


「トーコが追いついた。援護に向かう」

「はい。行ってあげてください」

「ブレインオーダーと指揮官機を優先撃破。可能なら重装機の戦闘能力も奪って。他は後続に任せて良い。

 〈アースターガー〉を処理したらそちらの援護に戻る」

「分かりました。

 私は1人で大丈夫です」


 指示に頷いて2人は進路を分けた。

 フィーリュシカは後続のトーコと合流して東進。派手に暴れて敵の注意を引きつけながら、厄介な榴弾砲装備の〈アースタイガー〉撃破を狙う。

 いくら敵歩兵を倒しても、〈アースタイガー〉が健在なら逃げ場のない南側部隊は無事では済まない。どうしても排除する必要があった。


 ナツコは単独で南へ。大通りを機動走行で駆け抜けながら、発見した敵機を撃ち抜いていく。

 ナツコの元にはリルとカリラが合流。


 リルは高所から索敵をし、市街地内に隠れた敵へ向けて30ミリ砲弾を放つ。

 それで仕留めきれなくても、追撃の狙撃用ライフルは寸分違わず敵機の脆弱部を射貫いていった。


「側面敵機――〈エクリプス〉2機来てるわ!」


 リルが叫び、高度を急速に下げる。

 先陣を切っていたナツコが下がろうとするが、それをカリラが止める。


「こちらはお任せ下さいまし。

 あのような欠陥品、わたくしだけで十分ですわ」

「はい。任せます! リルちゃんもそっちを頼みます!」


 カリラの実力を理解していたナツコは〈エクリプス〉の相手を任せた。リルも居るし問題無いはず。

 今は何より味方部隊の救援が優先だ。

 真っ直ぐ駆け抜け、寄り道は控えながらも指揮官機だけは見つけると必ず撃破し邁進していく。

 残っていた敵兵は後続のタマキ、イスラ、サネルマ。そしてさらにその後に続くヴェスティの小隊がなんとかする。


 愚直にただ真っ直ぐ進むナツコの進路は、敵に簡単に予測された。

 防衛部隊がまとめられ、進路を塞ぐように展開される。

 このまま進めば敵中隊と戦闘しなければならない。されど迂回すれば、南方部隊の救援が間に合わない。


 ――多分、大丈夫。耐えてね。


 正面の敵は確認できるだけで40機。

 その後ろには南方へ攻勢に出ている部隊が存在するはず。

 予測される合計戦力は150程度。

 残弾数と、コアユニットの排熱が心配だが、行くしかない。


 ナツコは再び特異脳を覚醒させる。同時に機体設定を変更。

 静止した灰色の世界の中、放たれた銃弾を認識。

 即座に銃弾全ての運動方程式を導出。

 回避行動をとらなければ命中する数式が赤く、回避行動によっては命中する可能性がある数式が黄色く瞬く。


 〈R3〉に最適化された運動力学を元に回避パターンを導出。

 そのために必要な身体動作導出。

 肉体制御確認。神経伝達速度が若干足りない。脳から送る信号を強化して対応可能。確実に神経を痛めるが、我慢できるレベルだし、しばらくすれば治る。実行可能。


 回避パターン作成完了。

 動き出した時間の中で計算結果にしたがって行動する。過剰な制御信号を送りつけられた神経が悲鳴を上げるが、脳の方で痛覚を遮断。


 他から見れば転げ回っているとしか形容できない動きで、飛来した全ての攻撃を回避。〈R3〉の機体表面に傷はついても、重要区画も搭乗者にも一切のダメージは無し。


 回避行動をとりながら攻撃パターンを策定。

 20ミリ機関砲は残弾160。1機につき1発で撃破したいが、重装機はそうもいかない。

 それに誘導弾が飛来してきている。迎撃にも弾は必要だ。

 マイクロミサイルは個人防衛火器で処理。大型のものには機関砲を使わざるを得ない。

 軽装甲機体は最悪個人防衛火器か拳銃でなんとかする。

 エネルギーパックはまだ余裕があるので、必要ならDCSも使っていく。


 前提条件を決定すると攻撃パターンの策定開始。

 断続的に放たれる攻撃に対して回避パターンを組みながら、同時進行で攻撃パターンを組み実行していく。

 特異脳が熱を持ち、血流を通して身体全体が熱くなる。それでも熱くなるほどに計算能力が上昇していく。

 身体の方は大丈夫。問題は機体の方。


 緊急冷却剤を散布してコアユニット温度を無理矢理下げる。

 一時的にはどうにかなっても、このまま動かし続ければ熱暴走の危険がある。DCSの熱力学制御をつけて貰えば良かったと後悔するが、もう遅い。

 冷却塔にエネルギーを供給し続けとにかく温度を下げさせる。もう少しだけ持ってくれれば良い。


 撃破数が40機を突破。

 敵機は続々とやってくる。現在目の前に50機が展開中。だが〈R3〉のみ。装甲騎兵はこちらに来ていない。これなら問題無く突破できる。


 あらゆる攻撃を回避し、全ての防衛行動を無視して必殺の攻撃を叩き込む。

 敵機は増える一方だが、特異脳はただ”殲滅可能”という解を導き出す。

 撃破数が100機を突破。

 防衛についていた敵機のいくつかが逃走を開始。逃げる敵は追わない。でも指揮官機だけは絶対に逃がさない。

 後退しようとする指揮官機〈ヘリオス12B〉を発見。建物の死角に入られたが、建材の強度を計算。1発しかない対装甲ロケットを投射。3連タンデム弾頭の初弾が壁に穴を穿ち、2,3段目が指揮官機に命中。撃破。


 最後の緊急冷却剤を使用。ここから先は自然放熱と冷却塔で冷やすしかない。コアユニット熱暴走開始までおおよそ120秒。

 20ミリ機関砲弾を撃ち尽くした。機関砲と、空になった弾薬庫を投棄。次は倍の容量の弾薬庫を装備しようと決意。


 既に突破は近い。

 市街地を抜け、トトミ大半島との境、切り立った崖の下に味方部隊の旗が見えた。

 険しい山を表した部隊旗。紛れもなくトトミ大半島出身部隊のものだ。


 個人防衛火器で偵察機を撃破。

 だが突撃機〈フレアF型〉2機が進路を塞ぐ。振動障壁を有する〈フレアF型〉は個人防衛火器では撃破出来ない。

 ハンドアクスを引き抜く。接近戦に乗ってくれるなら撃破。駄目なら無視して後続に任せる。


 残念ながら乗ってはくれなかった。距離をとりつつ23ミリ機関砲で攻撃を仕掛けてくる。回避は容易だ。問題無い。

 ――敵機接近。駆動音から機種を特定。〈エクリプス〉が2機。


 機関砲弾が切れるタイミングを計られていた。

 建物の窓を突き破って現れた〈エクリプス〉は、ナツコとの一気に距離を詰める。

 相対距離僅かに10メートル。

 十分近づかなければ命中弾を出せないと判断したらしい。

 だが〈エクリプス〉相手なら個人防衛火器で火力は十分。


「振動障壁?」


 〈エクリプス〉の周囲を音の鎧が包んでいた。空気振動によって輪郭がぼんやりと揺れる。

 電子戦装備の搭載を切り捨て、振動障壁を搭載したようだ。

 これでは個人防衛火器が通用しない。

 だけど、これを無視することは出来ない。〈エクリプス〉を味方部隊の元まで引き連れて行ってしまったら、この救援作戦は失敗する。彼らはブレインオーダーに対する戦闘プログラムを有していないのだ。


 特異脳の演算能力を最大まで引き上げる。

 完全に静止した世界で状況を詳細に観測。

 左側面に〈エクリプス〉1機。後方にもう1機。

 右側面に〈フレアF型〉2機。

 相対距離は〈エクリプス〉が10メートル圏内。〈フレアF型〉は20メートル以上間合いを開けている。

 これならなんとか撃破出来そう。だが最大の問題は別にあった。


 ――流石に壊れるかな?


 コアユニットの熱量を計算。かなり危ういがギリギリで何とかなりそう。

 と言うわけで実行に移す。

 時間が動き出すと、アンカースパイクで急制動。〈エクリプス〉はその挙動に即座に対応するがそれが命取りだ。

 〈フレアF型〉は反応できずそのまま前進して距離を開ける。これで援護射撃に邪魔はされない。


 直ぐにアンカースパイク解除。ブースター点火、2歩踏み込んで右脚機動ホイール展開。完全に接地させず滑らせて機体を後ろに倒れさせる。

 くぐるように23ミリ機関砲弾を回避。そのまま左足で地面を捉え、身を捻りながらハンドアクスを投擲。

 

 ハンドアクスは機関砲弾の合間を縫って左側面の〈エクリプス〉頭部を捉える。振動障壁に威力を殺されるが、ヘルメットに対して真っ直ぐ突入したハンドアクスは止まらない。そのまま頭部に突き立つ。


 ブースター停止。スラスターで逆方向へ。強いマイナスGに意識が飛びそうになるも、脳内の血流を無理矢理増して耐えきる。

 急速後退。後方〈エクリプス〉との距離を一気に詰め、胸部へと後ろ蹴りを繰り出す。

 脚部が振動障壁によって減速させられるが、アンカースパイクの仮想トリガーを引く。

 突き出した金属杭は正面装甲を貫いた。


 即座に引き抜き、反転。〈フレアF型〉の攻撃をくぐりながらDCSの制御コマンドを叩く。


 >DCS 運動制御 : 加速


 同時にブースター点火。

 与えられた運動エネルギーによって、弾かれたように右方向へ飛んだ。

 瞬く間に距離を詰められた〈フレアF型〉は対応が間に合わない。


 蹴りを繰り出し、振動障壁を食い破ると同時にアンカースパイク起動。

 金属杭によって正面装甲を貫くと、直ぐに引き抜き最後の一機へ視線を向ける。

 敵機は23ミリ砲で応戦したが、全て回避されると継戦不可能と判断したらしくそのまま後退。

 追う能力もないのでナツコはそれを見逃した。


「ごめんなさい。急いでいたので」


 敵機から武器を回収。

 23ミリ機関砲は統合軍機で使えないようにロックが施されていたが、端末を繋ぐと暗号パターンを解読。やり方はカリラに教えて貰った。複雑な暗号だったが、特異脳の演算能力を使って強引に突破。残弾は心許ないが無いよりマシ。

 更に〈エクリプス〉から自分のハンドアクスと、振動ブレードを回収。これだけあれば最低限何とかなる。


 コアユニットが限界に近いのでこれ以上熱がたまらないよう、冷却塔の放熱能力内で駆動させて南を目指す。

 目の前に敵部隊。南側の味方部隊と交戦中。

 だがナツコの接近に部隊の半分が反転してきていた。


「もう少しだけ、頑張って」


 特異脳を使い、強引に敵部隊を突破。指揮官機と重装機だけ仕留めて、後は個人防衛火器で小破させて後退させる。

 23ミリ機関砲の威力は重装機相手でも通用した。流石に正面装甲は抜けないが、重装機の中では比較的防御能力の低い〈T-4〉、〈T-7〉あたりなら、脆弱部を狙い撃たなくてもそれなりにダメージを与えられた。

 ただその分銃身が長く、重く、取り回しが難しいのが厄介だった。

 作戦が終わったら、ちょうど良い武器をイスラにでも見繕って貰おうと決意する。


 ナツコは進路を阻んだ敵集団を突破。

 そのまま速度を落とさず味方部隊を攻撃中の敵部隊背後を突く。

 当然敵機は反転して迎撃してくるが、すっかり集団戦にも慣れていた。

 特異脳が戦闘を繰り返す度に成長し、対集団戦闘での最適な計算方法を導き出していたのだ。


 指揮官機へ23ミリ機関砲弾を叩き込み排除。敵部隊のど真ん中へと突撃し、機関砲を乱射しながら、進路を塞ぐ敵をハンドアクスと振動ブレードで排除する。

 敵部隊を瞬く間に突破。真っ直ぐ突き進み、崖下の窪地に立て籠もっていた味方部隊の元へ。


「ハツキ島義勇軍ツバキ小隊所属、ナツコ・ハツキ1等兵。救援に来ました!」


 転がるようにして窪地に飛び込むと、出迎えたのは若い女性下士官だった。

 ボロボロの〈ヘッダーン3・アローズ〉を装備した彼女は、ナツコへと奇異なものを見るような目を向ける。

 それも当然、ナツコは全弾撃ち尽くした23ミリ機関砲と、折れてしまった振動ブレードを投棄していた。

 手にしていたのは弾切れした個人防衛火器と、ひしゃげたハンドアクス。


 されどナツコは個人防衛火器を脚部に収納すると、ぴっと敬礼して告げる。


「あの曹長さん。突然なんですけど、武器を貸して頂けると――」


 口にしたところで、〈ヘッダーン5・アサルト〉のコアユニットが限界を迎えて黒い煙を吹いた。緊急冷却材を使い尽くしていたためどうすることも出来ず、予備エネルギーを使って装備解除するしか無かった。


「――ごめんなさい。機体も貸して頂けますか?」


 間抜けな発言に、曹長は肩を落とした。

 だが彼女たちを包囲していた帝国軍は撤退を開始。

 フィーリュシカとトーコが救援に駆けつけていた。残っていた敵兵は見る間に蹴散らされていく。


「お互い、命拾いしましたね……」


 ナツコも〈R3〉無しではどうにも出来なかったと、フィーリュシカ達の到着が間に合ったことに胸をなで下ろす。

 しかし呆れた表情をしていた女性曹長は、目に涙をたたえると、ナツコの身体を抱きしめた。


「――助けに来てくれてありがとう」

「あ、いえ、お礼なら、私たちを信じて送り出してくれたタマキ隊長とヴェスティさんに――あ、ちょっと待って! 潰れる! 潰れる!」


 〈R3〉の力で抱きしめられて、ナツコは危うく出してはいけないものを口から吐きかけたが、何とか一命を取り留めて救援にやってきたフィーリュシカと合流した。

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