超重装機〈アヴェンジャー〉

第213話 輸送出撃

「ツバキ小隊に対して物資輸送の命令が下されました。

 各員、出撃準備を整えて大隊第3格納庫前に集合してください」


 午後の作業が一段落した15時頃。招集を受けたツバキ小隊隊員を前に、タマキが命令を告げた。

 エノー基地に入ってから10日。ツバキ小隊としては久しぶりの出撃任務だった。

 端的な命令に各員は返事で応えた。

 タマキが質問を求めると、一番にトーコが手を上げた。発言許可を得た彼女は尋ねる。


「〈音止〉の修理は始めたばかりでとても出撃出来る状態ではありません。

 私は作戦に参加すべきでしょうか?」

「トーコさんはユイさんと〈音止〉の修理を続けてください。

 ユイさんも、それで構いませんね?」


 トーコによって無理矢理引きずられてきたユイは機嫌が悪そうであったが、更に機嫌を悪くして応える。


「構わない。

 アレの運び出しなんかにかかわってられるか」


 ユイはそれ以上話す気もなさそうだったが、タマキは重ねて問う。


「あなたはアレを何に使うか心当たりがありますか?」

「知るか。

 あんなもの、一応動くようにはしたが使うとなれば修理の比じゃないぞ」

「運用に難があると。

 統合軍内で使用可能ですか?」

「まさか。

 コゼットの小娘にアレが扱えるとは思えない。

 あるとすれば宇宙海賊のバカ共だろうが、何に使うかはまるで分からん。

 そもそもなんであんなものの運搬をやらなきゃならんのか。あたしにゃ理解に苦しむね」


 ユイも今回の件についてはかなり腹を立てているようで、タマキの要求に対して十分な回答を返した。

 ユイがそれきり何も喋らなくなると、タマキは他に質問がないかと隊員の顔を順々に見ていく。

 その機を待ってましたとばかりにナツコは手を上げた。


「輸送する物って何ですか?

 ユイちゃんは知っているみたいですけど」


 問いかけにタマキはどう答えるべきか宙を見上げて思案し、ややあってから回答する。


「大型機材の類いです。

 詳細については伏せますが、非常に貴重な品であることは間違いありません」

「なるほど」


 輸送物資について重要な点は伏せられたので、それはきっと機密なのだろうとナツコは理解した。

 ナツコの質問が終わったのを見ると、すかさずリルが挙手して尋ねた。


「輸送先は?」

「リーブ山地南西部方面です。詳細な位置は出立後通達すると」

「リーブ山地? なんでわざわざ敵地方面に大型機材運び出すのよ」


 リルの質問は最もだったが、タマキは明確な答えを返すことが出来ず返答を誤魔化す。


「そういうこともあるでしょう。

 現地で輸送科部隊が待機しているので、そちらに車両ごと引き渡すようにとの命令です」

「総司令官の命令なの?」

「そうなるでしょうね」


 リルは細めた目でタマキを睨んだ。

 端から見れば怒っているようだが、リルとしては「必要なら確認をとる」と合図したつもりだった。

 タマキもなんとなく理解しつつ、それは出来ないと答える。


「既に下された命令です」

「あんたは納得してるの?」


 重ねられた問いかけに、今度こそタマキは一瞬言葉に詰まった。

 それでも場を繕うように返答を絞り出す。


「不審な点はあれど、やるべきことは明白です」

「そ。

 あんたが良いなら良いのよ。

 ただ――」


 リルは言葉を句切って、タマキの表情を覗うようにして尋ねた。


「レイタムリットで輸送護衛についた結果どんな目に逢ったか、忘れてないでしょうね」

「無論です。

 ですから輸送任務と侮らず、各員万全の態勢で作戦に臨むように」


 リルは総司令官から降ってくる詳細不明な命令について意見したつもりだったのだが、タマキによってそれは隊員個人の作戦参加意識にすげ替えられた。

 タマキが士官である以上上からの命令に逆らえないと承知しながらも、リルは機嫌を損ねて鼻を鳴らし、それ以上作戦内容について苦言を呈するのを止めた。


「では出撃準備に移ってください」


 他に質問がないことを確かめたタマキはそう告げて、返事を受けると1人別方向へ移動を開始した。

 残りの隊員は準備のためまず宿舎へ向かう。

 ナツコは早足で移動しながら、横に並んだサネルマへと問いかける。


「今回の命令ってやっぱり変なんですかね?」


 サネルマは困ったような表情を浮かべながらも、小さく頷いた。


「あんまり大きい声では言えないですけどね。

 輸送科部隊が用意されているなら最初から取りに来れば良いじゃないかとか、大型機材の輸送を義勇軍がわざわざ車両借りてまでする必要があるのとか、不審な点はあります。

 でも、隊長さんが言ったとおり命令ですから。

 準備だけは怠らないようにしましょう」


 不安は拭えなかったが、それでナツコも作戦参加に向けて意識を改めた。


「そうですよね。

 何が起こるか分からないからこそしっかり準備しないとですよね!」

「そういうこと。

 何より久しぶりの出撃です。

 精一杯努めましょうね!」

「はい!」


 ナツコは元気よく返事をして、大股で宿舎へと向かった。

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