第207話 第2次統合軍反攻作戦終焉

「〈ハーモニック〉突出してます!」

「攻撃する」


 レールガンの物理トリガーが引き抜かれる。

 射出された砲弾は〈ハーモニック〉コクピットブロック側面に命中。振動障壁ごと装甲を貫いて、コクピットブロックを完全に破壊した。


「後退。

 拡張パーツ取り外しを」

「ちょうど弾も尽きたな」


 イスラとナツコはフィーリュシカにとりついて、手早くレールガンと〈イルマリネン〉拡張パーツを取り外す。

 既に持ち込んできた弾薬ケースは使い尽くしていた。


「機体の受領に向かう。

 合流地点を設定」


 フィーリュシカが戦術マップ上にポイントを設定する。

 小隊内で共有された情報を見て、補給班のトーコ達は進路修正。

 3人も合流地点に向かって移動を始めた。


「先行するぜ」

「私は護衛につきます」

「任せる」


 役割分担は明白で、指示を受けることなく各々で行動に移る。

 合流地点には直ぐに到着した。住宅地内にある駐車場で、装備変更準備を進め、補給班が到着すると物資積み下ろしを手伝う。


「〈アルデルト〉はこちらに。

 〈イルマリネン〉は傷つけていないでしょうね」

「問題無い。

 修理可能」

「ちょっとお待ちになって!

 傷をつけないように言ったはずですわ! 修理可能かどうかは問題ではありません!」


 〈イルマリネン〉を回収しに来たカリラは、フィーリュシカの機体を隅々まで調べて機体に複数の傷があるのを見て憤怒した。

 しかしイスラに「修理可能なら良いじゃないか」となだめられ、早く装備交換するよう促されると素直に従った。


 〈アルデルト〉の格納容器が積み降ろされ、〈イルマリネン〉を装備解除したフィーリュシカに装備させていく。

 装着装置は運べなかったので手作業による装備だ。しかし技術者が2人も居れば造作も無いことだった。


 カリラは〈イルマリネン〉を〈アルデルト〉の入っていた格納容器に収め、更に拡張パーツとレールガンを、別の格納容器に収納する。


「ひとまずこれで目的達成ですわ」

「私の25ミリ狙撃砲はどちらに?」

「その辺に積んでありますからご自分で積み下ろしなさいな」

「え、ええ……」


 やることをやりきってすっかりカリラは積み荷に関して興味を無くしてしまったようだった。

 かわりにトーコが〈音止〉を操作して、積んであった25ミリ狙撃砲と砲弾ケースを降ろした。

 ナツコは礼を言ってそれを受け取り、早速左腕に装備。元々装備していた12.7ミリ砲は右腕にうつした。


 フィーリュシカ用の88ミリ砲と大量の砲弾も積み降ろされた。

 88ミリ砲弾はまずフィーリュシカの機体に限界まで積み込み、次にイスラの機体にも積めるだけ積んだ。

 この時点で既に過剰な量であったが、〈音止〉に同乗していたユイが「フィーの武装を増やした方が戦果が出る」と意見したらしく、もう1箱88ミリ砲弾が積まれていた。


 積載量に余裕のあるナツコの〈ヘッダーン5・アサルト〉にも積みこみ、更にはカリラの所属班をサザンカからザクロに変更して〈ヘッダーン3・アローズ〉にも積んだ。

 それでも余った砲弾は行く当てがなくなり、持って帰ることになりそうだったがフィーリュシカがそれを引き留める。


「砲弾はいくつあっても足りない。

 ユイが持てば良い」

「このあたしに荷物持ちをしろと?」

「効率的」


 フィーリュシカの意見を受けて、トーコは後部座席へと視線を向けて語りかける。


「いいんじゃない?

 こっちは残ってる武装降ろして後方待機するだけだから。

 それに、フィーの近くの方が半人前の後部座席より安全でしょ」

「安全なのはもっともだが、このあたしに荷物持ちしろというのが気に食わない」

「元々ユイが積み込んだ砲弾でしょ」

「うるさい奴め」


 不機嫌そうにしながらも、ユイは〈音止〉のコクピットを開けて這い出した。

 出て行く間際にトーコへと、残りの荷物を積み降ろしたら安全圏まで下がって待機しているよう言いつけ、コクピットブロックの縁で足を滑らせて落下。

 すんでの所で〈音止〉の手に捕まり、そこから更に落下するとナツコに受け止められた。


「慣れないときはワイヤー使うと安心ですよ!」

「バカの忠告なんぞ聞きたかない。さっさと降ろせ」


 ふんぞり返ったユイは地面に降ろされると、残っていた砲弾を手に抱える。


「重いぞ」

「88ミリですからね。

 これ使ってください」


 ナツコは88ミリ砲弾用の弾薬ケースを渡す。

 ケースに砲弾を格納して、機体のハードポイントへ固定してしまえば持ち運びが楽になる。

 ユイは偵察機装備なのでケース一杯には砲弾を積み込めないが、それでも余っていた88ミリ砲弾は全部積み切れた。


「重いぞ」

「撃てば軽くなるので。

 ユイちゃんの砲弾から使いましょうか」


 操作に慣れないユイに荷重限界ギリギリのまま操縦させたら事故が起きかねない。

 ナツコの提案は班長のフィーリュシカにも受け入れられて、積み下ろし作業を全て終えるとトーコと別れた。


「ええと、カリラさんがザクロ4。ユイちゃんがザクロ5ですかね」

「それでいい。

 直ぐに狙撃地点へ向かう」

「はい!

 ――ええと、ユイちゃんのサポートは……」

「わたくしが引き受けますわ」


 先ほどは観測班でユイのサポートをしていたカリラが名乗りを上げる。

 ユイは不満そうにしながらも、カリラのサポートを受け入れた。


          ◇    ◇    ◇


 ツバキ小隊はサザンカとザクロの2つの狙撃班によって、進軍する帝国軍へと、市街地内を移動しながら攻撃を仕掛けた。


 サザンカの狙撃手はリルで、〈Rudel87G〉に搭載された30ミリ速射砲で動きの遅い機体を狙っていく。

 腰に火砲を懸架する〈Rudel87G〉は狙撃向きではないし、30ミリ速射砲も連射速度と携行性能を重視した軽量砲のため精度は高くないが、それでも戦果を上げた。


 30ミリ砲は直ぐに弾切れを起こしたため、補給を受けるまでの間はサネルマが狙撃手を引き継ぐ。

 対空40ミリ機関砲の威力は十分ではあるが、サネルマの長距離狙撃技能はそこまで優れたものではなく、狙撃というよりか一撃離脱に近い攻撃だった。

 戦果は僅かだったが、それでも数発命中弾が出た。

 補給が行われるとリルが狙撃手に返り咲き、腕に装備した25ミリ砲と脚部30ミリ速射砲を使い分けて、十分な戦果を上げた。


 一方のザクロの狙撃手はフィーリュシカとナツコが担った。

 イスラとカリラで観測と護衛に88ミリ砲の装填までこなせるようになったため、手の空いたナツコも狙撃手として攻撃に加わった。

 フィーリュシカの88ミリ砲は放たれる度に帝国軍の指揮官機や、こちらの機動防衛部隊の脅威となっていた4脚装甲騎兵を打ち倒す。


 ナツコの射撃は落ち着いて狙える環境ならば命中弾も出せるのだが、フィーリュシカがほとんど狙いもつけずに攻撃しては直ぐ移動指示を出してしまうので、それに合わせるとなかなか有効な攻撃は出来なかった。

 それでも高い認識能力で、潜んでいる敵の狙撃手を見つけては位置情報を共有する。

 そのおかげでツバキ小隊はもちろん、大隊も敵狙撃手に攻撃されることはなく、存分に遅滞作戦に集中することが出来た。


 大隊を始め、周辺部隊による帝国軍援軍に対する遅滞作戦は成功を収めた。

 統合軍前線部隊は〈パツ〉残骸を守る帝国軍部隊を突破。

 防衛ラインの崩された帝国軍は瓦解し、なだれ込んだ統合軍部隊が迅速にコアユニット回収に向かう。

 完全に占領下に置かれた〈パツ〉残骸から、6脚重装甲騎兵〈I-H17〉2機によってコアユニットが引き出され、大型輸送車両へと積み込まれた。


          ◇    ◇    ◇


『統合軍がコアユニット奪取に成功した。

 コアユニットが作戦区域から運び出されるまで遅滞作戦を継続せよ』


 大隊長からの指示に、タマキは部隊へと狙撃の継続を告げる。

 目標を指揮官から、突破力のある重装機・中装機へ変更して、とにかく数を減らすことに努める。

 フィーリュシカのおかげで多くの前線指揮官を無力化出来ている。

 後は単独戦闘能力の高い〈R3〉と装甲騎兵を削り取っていけば、援軍部隊は戦闘継続不可能となるだろう。


「しかし降下艇の撃ち漏らしが増えてきたぜ。

 後ろに1つ墜ちた」


 イスラが空を見上げて愚痴る。

 対宙砲の連射速度には限界がある。

 事前に備蓄されたエネルギーを吐き出してしまえば、1発ごとにエネルギーを惑星内部から抽出しなければならない。

 既にレイタムリット基地からの対宙砲だけでは、降下艇を全て処理出来なくなっていた。


「あれはデコイ。問題無い」


 フィーリュシカが冷静に告げて、狙撃が続行される。

 降下艇にデコイを混ぜるのは常套手段だ。

 最初に多数のデコイを突入させ、対宙砲のエネルギー備蓄を削ってから本命の降下艇を投入する。


「問題無いならいいさ。もう1つ墜ちてきそうだ」

「あれは降下艇」


 フィーリュシカは徹甲弾の装填を命じた。

 直ぐにイスラが装填を行い対宙砲と対空砲の攻撃を掻い潜った、摩擦熱で赤々と染まる降下艇へと照準を定める。


 間髪入れずにトリガーが引かれる。

 撃ち出された88ミリ徹甲弾は、高度1000メートルに位置していた降下艇後部を撃ち抜いた。

 コアユニット保護機構を撃ち抜かれた降下艇は、臨界爆発を起こし空中でバラバラになって地表に叩き付けられる。


「生存者0。

 問題無し」

「そりゃ素晴らしいこった。

 だが次から次に来るぜ」


 対宙砲火をくぐり抜けた降下艇が次々に地表へと降下していた。

 降下艇1隻につき1個中隊の歩兵運搬能力がある。

 そんなものが作戦行動中の背後にいくつも落ちてくれば混戦になる。

 既に最前線の統合軍部隊が乱戦に巻き込まれつつあった。


『コアユニット回収部隊付近に降下艇落下。

 至急救援を』


 司令部より優先命令が出されるが、後方の遅滞作戦に投入されている大隊は作戦を継続。

 しかし、総司令官より直々に大隊へと通信が入った。


『惑星トトミ総司令官より第401独立遊撃大隊。

 至急コアユニット回収の援護に向かって。

 あなたたちが一番突破力がある』

『了解』


 カサネは直ぐに返答し、遅滞作戦を他部隊へ引き継いだ。


『これより第401独立遊撃大隊は転進。

 コアユニット回収の援護に向かう』


 大隊の方針が転換されたことで、ツバキ小隊も行動を開始する。

 タマキは比較的コアユニット回収部隊に近いザクロ班へと指示を飛ばす。


『ツバキ1からザクロへ。

 先行して北上。引き続き狙撃班として本隊の援護に当たって。

 地表到達した降下艇は優先排除。敵歩兵部隊が合流する前に無力化を』

「承知した」


 フィーリュシカは応えて、班員へ移動の指示を出した。

 ユイは指示に対して悪態をつく。


「あの小娘に良いように使われてるだけだ。

 一体何様のつもりなんだあいつは」

「総司令官様でしょう?

 どうして〈パツ〉のコアユニット回収にここまで執着しているのかは分かりませんけれど。

 あなたは何かご存じですの?」


 問われたユイは顔をしかめて応えた。


「知らん。

 あんなもの〈アーチャー〉の砲撃で撃ち抜いちまえば良かったんだ。

 そのためにわざわざ位置まで特定してやったんだぞ」

「ご愁傷様。

 回収しろというのですから何かしら価値があるのでしょう。

 ほら、早く移動しますわよ。

 砲弾撃ち尽くして身軽になったのですからサポートは要らないでしょう」

「分かってる」


 ユイは不機嫌を振りまいて、機体をぎこちなく動作させた。

 ザクロ班は北上し、道中降下艇を1隻撃ち落としながら、狙撃位置についた。


 コアユニット回収部隊は車両が損傷し、身動きがとれなくなっていた。

 援護のため周辺に展開している帝国軍部隊の指揮官を狙撃し、指揮能力を奪っていく。

 乱戦になれば指揮官の有無は戦力に大きく影響を与える。

 フィーリュシカは中隊長を確実に仕留め、可能ならば小隊長も無力化する。


 援護を受けた大隊は地表に到達した帝国軍部隊を各個撃破しながら、コアユニット回収車両まで到達した。

 大隊の輸送車両がコアユニット牽引を引き継ぎ、レイタムリット方面へと移動開始する。


『コアユニット奪取確認。

 サザンカはこのまま車両に随伴します。

 ザクロは引き続き狙撃を』


 タマキからの通信にフィーリュシカは了解を返した。

 直ぐに敵部隊への攻撃位置へ移動しようとするが、ユイが出遅れる。


「移動を」

「構うな、先に行け」


 ユイは手を振ってさっさと行けと示すが、フィーリュシカは振り返り立ち止まった。

 されど、カリラが後押しするように告げた。


「このおチビちゃんはわたくしにお任せくださいな」

「しかし」

「さっさと行け。お前の仕事を忘れるな」

「承知した」


 ユイに叱咤され、フィーリュシカはナツコを伴い先行して移動した。

 遅れたユイにはカリラが付き添い、イスラもそちらの護衛につく。


「動きがおかしいぞ」


 ユイが苦情を述べたのでカリラは機体チェックを開始。

 ユイの身体に合わせてフレームを削っていた機体が、過剰に積んでいた88ミリ砲弾の重量で歪んでいた。


「子供向け調整したのをすっかり失念していましたわ」

「脚部だけ微調整すりゃ動くだろう。

 ちょっとそっち支えてろ」


 イスラが機体にとりついて脚部装甲を取り外す。工具で脚部フレームの調整を行い、直ぐに通常動作可能になった。


「しないとは思うが戦闘機動は厳禁だ。

 帰ったらちゃんと直してやるよ」

「だからおもちゃは嫌いなんだ。

 ん? こんな時に何のようだ。――巡宙艦だと?」


 機体の動作を確認したユイだが、唐突にこめかみに手を当てて呟いた。

 巡宙艦という言葉にカリラが問い返す。


「どういうことですの?」

「帝国軍のバカ共、巡宙艦を大気圏突入させてやがる」

「気でも狂ったのか?

 いくら何でも無謀すぎるだろ」

「同感だね。

 あんなもん対宙砲で1,2発撃ち抜きゃ墜ちる。

 ――駆逐艦も来てるのか?」

「「飽和攻撃」」


 イスラとカリラが同時に呟く。

 対宙砲は惑星防衛の要。巡宙艦だろうが、宇宙空間から大気圏に飛来してくる物は問答無用で撃ち落とす。

 それでも突破するのであれば、対宙砲の連射能力の低さを利用して、物量作戦で間隙を突くしかない。

 降下艇の突入における基本戦術を、帝国軍はあろうことか巡宙艦と駆逐艦でやってきた。

 既に人類が製造技術を失った、再建不可能な宇宙戦闘艦が、無数の赤い軌跡となって降り注ぐ。


「合流を急ぎましょう。

 ほらおチビちゃん。しっかり走りなさいな」

「分かってる。急かすな愚か者め」


 3人はフィーリュシカの元へと急ぐ。

 いざというときに付近に彼女が居るのと居ないのでは大違いだ。


「駆逐艦が対宙砲火を抜けた」

「抜けたらどうなるんだ?

 大気圏内で動ける宇宙艦は限られてるはずだよな?」


 イスラの問いかけにユイは頷いてから応える。


「降下艇と一緒だ。墜ちてくるだけさ。

 違うのは、墜ちる前に攻撃してくるってことくらいだ」


 大気圏内に突入し、真っ直ぐ〈パツ〉残骸の元へ落下していた帝国軍宇宙駆逐艦。

 それが船体から淡い光を発したかと思うと、数多の光線が地表へ向けて放たれた。

 光線の着弾地点に膨大な熱量が生まれ、爆発を引き起こす。


 3人の目前。高層住宅にも光線が命中した。

 複合材料の建材が一瞬で気化し、熱膨張による暴風が炎を伴って吹き荒れる。


「まずい! このまま降りるぞ!」

「しっかり捕まっててくださいまし!」


 辺りが炎に包まれるのを見てイスラは建物中腹から飛び降りた。

 カリラはユイの手を引いてそれに続く。

 壁面を蹴って減速をかけながら、倒壊寸前の建物にワイヤーを射出し、なんとか落下の衝撃を殺しきり着地する。


「崩れてくるぞ! 全速前進! 突っ切ろう!」

「戦闘機動厳禁って聞いたぞ」


 危機的状況にありながらもユイは確認をとる。

 その手を引いて前に突き出したカリラは、背後から機体を押しながら答えた。


「壊れるの覚悟で動かして。

 故障しましたらわたくしが担いで差し上げますわ」

「あいよ」


 ユイが機動ホイールを展開するとカリラはブースターを噴射。

 2人は一塊になって崩れ落ちる建材を避けつつ前進した。


「降下艇来てますわ!」


 カリラの〈ヘッダーン3・アローズ〉に積まれた対空レーダーが降下物の接近を感知する。

 報告に空を見上げたイスラが、降下艇よりも1周り大きな落下物を見て叫ぶ。


「ありゃ駆逐艦だ! 攻撃来るぞ!」


 駆逐艦側面が小さく光る。

 それはエネルギー収束砲の発射光ではなく、レールガンが着弾した光だった。

 側面を撃ち抜かれた駆逐艦だが、摩擦熱で自壊する寸前に淡い光を発した。

 今度こそエネルギー収束砲の光だった。

 駆逐艦の主砲と、舷側に配置された副砲から光線が放たれる。


 3人の周囲に複数の光線が着弾した。

 赤熱した道路や建物が膨れ上がり、瞬く間に爆発する。


「回避!」

「ちょっとおチビちゃん!?」


 熱風が吹き荒れ、高層建築が瓦礫の塊となって降り注ぐ。

 そんな中にあってユイだけが回避行動に遅れた。

 不安定な状態にあった脚部を全速動作させたため、関節から白煙が噴きだしていた。

 ユイの真上から、巨大な瓦礫が落下する。


「こんな時にあなたという人は!」


 ユイを背中にかばったカリラが、真上へ向けて対空マイクロミサイルを全弾投射。

 誘導無しの直線投射されたマイクロミサイルは、1発だけ瓦礫に命中したが、破壊するには威力が足りない。


「こんのっ」


 カリラは後ろ蹴りで、ユイの機体を安全地帯へ蹴り飛ばした。

 逃げ遅れたカリラの頭上に瓦礫が降り注ぐ――寸前、イスラがカリラへと体当たりして、機体を弾き飛ばした。


 瓦礫が降り注ぎ、粉塵が舞い上がった。

 カリラは地面に伏せたまま小さな瓦礫を機体で受け止める。

 やがて瓦礫の雨が収まると身体を起こした。


「お姉様、ご無事ですか!」


 カリラの叫びに答えるように、小さくイスラの声が返る。


「ああ割と」


 返答に一安心したカリラは立ち上がり、今度はユイへと声をかける。


「おチビちゃんは大丈夫でして?」

「大丈夫な訳あるか。

 機体が動かないぞ」

「手加減してる余裕がありませんでしたから。

 動作停止しているようなら安全確認してから装備解除してくださいまし」

「クソ。だからおもちゃは嫌いなんだ」


 巻き上がった粉塵が、徐々に晴れていく。

 カリラは地面に転がっていたユイの姿を見て、機体は動作停止しているが中身は無事そうだと安堵した。


「仕方がありませんから対空レーダー投棄して担ぎますわ。

 お姉様、ミサイルランチャーだけでも持って――お姉様……?」


 風が吹き抜け、粉塵が流れていく。

 大きな瓦礫の下にイスラの姿があった。

 砕けた舗装道路の溝を、血と〈R3〉の潤滑油が伝う。


「お姉様!!」


 顔を真っ青にしたカリラが慌てて駆け寄る。

 しかしイスラは落ち着いて返した。


「そんなに大声出すこたない。

 生きてるし意識もちゃんとしてる」

「ですがお姉様――!!」


 巨大な瓦礫は、イスラの右脚を叩き潰していた。

 俯せになったイスラは顔を上げて、虚ろな目をカリラへと向けた。


「だから偵察機なんて嫌だったんだ。

 こんなことなら無理してでも〈空風〉直せば良かった」

「喋らないで、じっとしていて下さい。

 直ぐにどかしますから!」


 駆け寄ったカリラは瓦礫の下に手を入れ持ち上げようとするが、それはとても軽対空機に持ち上げられる重量ではなかった。

 カリラは頭の中ではそれを理解出来ても、必死に瓦礫を持ち上げようと試みる。


「降下艇がきてる。

 さっさとこの場を離れねえとやばい。

 天才お嬢ちゃん、さっくりやっちゃってくれ」

「直ぐにどかしますから――」


 尚も諦めようとしないカリラに、イスラは優しく声をかけた。


「いいんだ。どうせ潰れちまってるし。

 あと動かされると痛い。早く麻酔打ってくれ」

「そんな、お姉様、ですが――」


 悲観に暮れ混乱するカリラをどかして、装備解除したユイがイスラの元にしゃがみ込んだ。

 瓦礫に潰された右脚を見て、医療パックを取り出すが、直ぐには処置せず確認をとる。


「言っとくがあたしゃ医師免許なんて持ってないぞ」

「知ってるよ。

 だけどあんたなら大丈夫だ。やってくれ」

「麻酔効くまで待ってる余裕はない」

「後から効いてくれりゃいいさ。

 ――ほらカリラ、医療パックを。

 あとナツコちゃん呼んできてくれ。

 雑に担がれるよか担架の方が良い」


 指示を出されてもカリラはその場を動けなかった。

 それでもイスラと目を合わせ、痛みを我慢しながら微笑んでみせる彼女の顔を見ると、医療パックを取り出してユイへと預けた。


「お姉様をお願いします」

「頼まれた」


 医療パックを預けるとカリラは通信を繋ぎながら、ナツコの元へと駆け出した。

 残ったユイは自分の医療パックとカリラの医療パックから麻酔を取り出して、イスラの右脚へと注射する。


「上手くやるが、恐らく痛い」

「我慢するさ。

 ところで、まともな手術したことはあるのか?」

「少なくともここ最近はない。

 だが安心しろ。あたしゃ天才だ」

「心強いね」


 ユイは工具で機体フレームを切断し、電子メスを取り出した。


          ◇    ◇    ◇


 帝国軍は巡宙艦、駆逐艦まで動員した敵前強行降下を敢行。

 統合軍の構築した野戦陣地を破壊し、数的優位に立つものの、統合軍はカサネ率いる大隊の活躍もあって〈パツ〉コアユニットの回収に成功。

 レイタムリット地方のエノー前線基地まで運び込んだ。


 ツバキ小隊は重傷者1名。

 大隊の護衛として、共にエノー前線基地まで後退した。


 〈パツ〉攻略作戦及びコアユニット回収作戦は、多大な被害を出しながらも、その作戦目標を達成せしめた。

 しかし第2次統合軍反攻作戦は、当初の目標であるラングルーネ基地奪還が困難となり、戦略目標を達成することなく終焉を迎えた。

 


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