第155話 超重装機〈アヴェンジャー〉

「〈アヴェンジャー〉は乗員保護を犠牲にした分、超重装機にふさわしい防御力と、重装機並みの機動力を持ち合わせていますわ。絶対射線上に立たず死角から攻撃を。

 機関銃程度では脆弱個所を狙い打たない限りはじかれますから、わたくしの56ミリとサネルマさんの40ミリが頼りですわ。

 ただし必要以上に機体を損傷させないように! 1撃で乗員のみ仕留めてくださいまし」


 最後の忠告は主にカリラが変態機である〈アヴェンジャー〉をコレクションしたいがためだった。当然それをリルは無視する。


「くだらない。機体がどうなろうと仕留めたらいいのよ」

「そういう問題ではありません! ちょっとリルさん! あ、このチビ!!」


 後退しながら転回を続け周囲へとにらみを利かせていた〈アヴェンジャー〉。

 リルは荒野にできた亀裂の中を飛行してその背後をとると、一挙動で構えた12.7ミリセミオートライフルを発砲する。放たれたシーカー弾は先端の粘着部分で〈アヴェンジャー〉コアユニットへ張り付くと、アンテナを展開し強力な誘導信号を放ち始める。


「サネルマ、全弾投射で仕留めて」

「誘導弾なんて絶対いけませんっ! どこが損傷するか分かったものではありませんわ!」

「ごめんなさいカリラちゃん。隊長さんから急ぐように言われてるから」


 サネルマは叫ぶカリラを無視して、肩にかついだ4連装地対空誘導弾を全弾発射する。本来は対空兵装だが、リルが設置した誘導シーカーに従って、打ち上げられた誘導弾は方向を修正し〈アヴェンジャー〉へと襲い掛かる。


「させませんわ!」


 暴走したカリラが誘導弾を撃ち落とそうと56ミリ速射砲を放つ。だがそれはあろうことか〈アヴェンジャー〉の足元、至近距離に着弾し、回避行動を妨害する。


「たまには仕事するじゃない」

「こんなつもりでは! 避けて!」


 カリラの期待に応えるように、敵機は76ミリ砲を飛来する誘導弾へと向ける。即座に放たれた砲撃によって先頭を進む誘導弾が空中で爆発。その余波が周りの2発を巻き込んだ。

 最後の1発は爆発をかいくぐり敵機に肉薄。だが敵機は左手に持った近接戦闘用バトルアクスを振りかざし、飛来する誘導弾に対して横なぎに払った。

 高速で飛来した誘導弾の横腹を斧がとらえる。その一撃は誘導弾の軌道を逸らし、さらに〈アヴェンジャー〉の転回速度を増幅させる。

 右腕で構えた100ミリ砲がサネルマの方へと急速に指向する。サネルマはブースターを使用し最大速度で射線から逃れようとするが、砲口が追いつくより早く、100ミリ砲が放たれた。

 攻撃はサネルマを狙ったものではなく、射線上には誰もいなかった。

 だがその砲撃の瞬間に〈アヴェンジャー〉は小さく跳躍。砲撃による強い衝撃は超重装機の巨体を空中で振り回した。


「こいつ、なにを――リルさん!」


 カリラが敵の目的を察して叫ぶ。

 空中で回転した〈アヴェンジャー〉はバトルアクスから手を放す。誘導弾は機体後方で爆発。100ミリ砲の反動と、爆風によって驚異的な速度で転回した〈アヴェンジャー〉の左腕、76ミリ砲は地面すれすれを飛行しているリルへと指向。次弾装填完了と同時にトリガーが引かれた。


「このデカブツ――」


 フラップ展開、スラスター制動、さらに飛行翼で横風を垂直に受け、急速に速度を落としたリルは地面へと突っ込む。

 その目前で76ミリ榴弾が炸裂。間一髪地上に降り立ったリルは地面を蹴って緊急後退したが、榴弾の破片が機体を加害。コントロール不能に陥った機体は荒野の亀裂へと落下した。


「リルちゃん! 今救援に向かいます!」


 近くにいたナツコが急いでリルの落下点へと向かう。その時間を稼ごうとサネルマが40ミリ砲で攻撃を仕掛ける。


「この相手強いですよ! 手加減して戦える敵じゃないみたいです!」

「ただでさえ乗員保護皆無な機体ですのに、あの体勢で100ミリ砲撃って無事なはずありませんわ。やむを得ません、畳みかけますわよ!」


 敵に対して時計回りにカリラが機動し、反時計回りにサネルマが機動。100ミリ砲がカリラに、76ミリ砲がサネルマへと指向するが、地形を利用して射線を切りつつ隙を見ては攻撃を仕掛ける。


 その間にリルの元へたどり着いたナツコは、荒野の亀裂の出っ張りにかろうじて引っかかっていた彼女を機体ごと引き釣り上げて、亀裂内の窪みへと横たわらせる。


「大丈夫ですか、リルちゃん」

「ん――ちょっと衝撃で意識失いかけただけ。中身は無事よ。機体は、修理が必要みたいだけど」

「すぐ手当てします」

「無事だって言ってるでしょ。そんなことよりさっさと戦闘に戻って。カリラの下手糞は命中弾出せないだろうし、サネルマ1人にしておくと不安だわ。あんたがいって援護してやって」

「でも――」

「でもじゃない! あんたがここに居たって出来ることは何もないわ。だったら、あいつらと一緒に戦うべきでしょ。タマキの命令を忘れたの?」


 言葉を受けたナツコは頷いた。タマキは〈アヴェンジャー〉の足止めを命じた。だとしたら、やるべきことは決まっていた。


「リルちゃんはここでじっとしていてください。敵を追い払ったらまた迎えに来ますから」

「そうよ。さっさとあのデカブツを始末してらっしゃい」

「はい!」


 亀裂の入口へワイヤーを射出したナツコは、25ミリ狙撃砲を構えると飛び上がった。

 その寸前に56ミリ徹甲弾が飛来し、あわやというタイミングで急制動をかけて緊急回避。


「あ……。無事でして?」

「だ、大丈夫です! リルちゃんも無事でした。はやく敵を倒しましょう!」


 内心かなり驚いていたナツコであったが、すぐ戦闘へと意識を向ける。

 カリラとサネルマが敵の両側面をとっていたことで、ナツコは無防備な背後をとれていた。狙撃砲を構え、コアユニット排熱口を狙う。


 〈R3〉としては規格外に大型な機体。それを動かすコアユニットはとても大きく、さらに排熱のための空間も広い。

 排熱口を加害してしまえば、巨体を動かし続けるのに必要な排熱が行えず、コアユニットが熱暴走して動作停止する。


 ナツコにとってそれは外すはずもない巨大な的だった。徹甲弾を装填し、構えると同時に発砲。相対距離300メートルから放たれた徹甲弾。だが着弾の寸前、敵は100ミリ砲を放った。砲撃の反動で着弾点がずれ、徹甲弾は排熱口側面の保護版を削る。


「威力は十分。ちゃんと当てれば、止められる!」


 ボルトを動かし次弾装填。

 しかし攻撃を受けて敵は、ナツコを優先排除目標に定めた。

 カリラとサネルマの攻撃を無視して急速に76ミリ砲が背後へとむけて指向し始める。


「ナツコさん、気を付けて」

「はい! 私が注意を引き付けているうちに攻撃を! こっちは大丈夫です!」


 機動力においては雲泥の差がある。いくら〈アヴェンジャー〉が全力転回しようとも、〈ヘッダーン5・アサルト〉を捉えることはできない。

 敵は常軌を逸した動きでその転回速度を速めてくるが、それでも敵単体に対して意識を集中していたナツコはそれすら見切る自信があった。


 だが肝心の集中力は警戒任務での疲れから、ほんの少しの外乱で途切れるような状況だった。

 装填完了した25ミリ狙撃砲を構えたナツコは、見据える先、標的の姿に、意識を乱された。


「あの時の……どうしてあなたがここに――?」


 〈アヴェンジャー〉はアンカースパイクを作動させ、足をねじるようにして無茶苦茶な転回をやってのけた。76ミリ砲の砲口が急速にナツコへと指向する。


「ナツコちゃん危ない!!」

「っ!!」


 サネルマの叫びが届くと同時、意識の集中を再開したナツコ。

 76ミリ砲の砲口と、これまでに見た弾道情報から軌道を計算。だがそれはあまりに遅すぎた。脳が回避不能を告げると彼女も覚悟を決め、25ミリ砲で胸と頭部を守るようにして目を強く瞑った。


 砲撃音。そしてほぼ同時に爆発。

 直撃コースをとっていた砲弾が、彼女の目前で突如爆ぜた。それは時限信管によるもので、生じた金属片は爆発と慣性によって彼女へ襲いかかる。

 金属片が深々と突き刺さり、盾にした25ミリ狙撃砲が大破。爆発の衝撃と金属片に襲われて機体ごと後方へと吹き飛ばされ、亀裂へと吸い込まれる。


「ナツコちゃん!」


 岩陰から飛び出したサネルマが〈アヴェンジャー〉へ向けて40ミリ機関砲を乱射する。

 その全てが分厚い正面装甲に阻まれる。


「私は無事です! 救援は要りません!」


 サネルマの声にナツコが応答する。

 彼女は〈ヘッダーン5・アサルト〉のセルフチェックを実行したが、正面装甲と左腕部の破損を除けば機体動作は可能。

 歪な壊れかたをした25ミリ狙撃砲が左腕基礎フレームに食い込み、そのままにしておく訳にもいかず外そうとするがなかなか外れなかった。ただそれさえ何とかなれば戦闘継続も可能な状態だった。


 〈アヴェンジャー〉はサネルマの攻撃を装甲で受けながら、背後からのカリラの砲撃を見もせずに避け、顔だけ動かして2人を見比べる。

 そしてサネルマの方が脅威だと判断したのか、前進を開始し76ミリ砲をそちらへ指向させ始めた。


「後ろが隙だらけですわ!」


 一瞬100ミリ砲の射線から逃れたカリラは、姿をさらすと〈アヴェンジャー〉背後、コアユニット排熱口を狙って攻撃を試みる。

 しかし狙いを慎重につけようとするあまり、仮想トリガーを引く頃にはそこに敵機の姿はなく、放たれた砲弾は彼方へと消えた。

 次弾発射しようとするが100ミリ砲が指向し始め、慌てて亀裂へと身を投じた。


「止まって!」


 サネルマは76ミリ砲の砲口から逃れるよう機動しながら40ミリ機関砲を放ち続ける。

 だがそれを〈アヴェンジャー〉は回避するでも逸らすでも無く、全て正面から受けきった。

 これまで戦ったどんな敵とも違う戦い方。

 それは死というものに一切の恐怖を感じない、機械のような戦いであった。


 〈アヴェンジャー〉は背後へ向けていた100ミリ砲を発射。その衝撃を受けて空中を舞い、急速に転回した76ミリ砲を放った。

 緊急後退をかけるサネルマ。

 砲弾はその目前の地面に着弾し、飛散した金属片が〈ヘッダーン4・ミーティア〉を襲う。

 爆風と金属片に襲われ地面を転がったサネルマは、最後の力を振り絞って荒野の窪みへと体を隠す。


「――脚部破損。火器管制とレーダーもやられました」


 報告を受け、サネルマが無事だったことに安堵したカリラ。

 だがこれで1対1。カリラとて、自身の射撃技能が普通より少しばかり下手なことは把握していた。距離をとって戦っていたら勝ち目は無い。


 幸い、〈アヴェンジャー〉は100ミリ砲と76ミリ砲を放った直後。それにスラスターも無く、鈍重な機動力しか持たないにもかかわらず空中にいる。

 接近戦に持ち込むのは今しか無かった。


「後はわたくしにお任せ下さいまし!!」


 飛び出したカリラはブースターを全力燃焼させ〈サリッサ.MkⅡ〉を最大速度まで加速させた。

 重量級の機体が唸りを上げ〈アヴェンジャー〉へ迫る。

 対する敵機は着地するが、あまりに重い質量による衝撃から着地後は自由に動けない。それでも無理矢理アンカースパイクを作動させ、76ミリ砲をカリラへと指向させた。


「行きますわよ!!」


 機体の最高速度まで加速したカリラは右手に装備した56ミリ速射砲を――目の前で構え盾にした。


『バカな奴。あんたが一番雑魚だったわ』


 〈アヴェンジャー〉から聞こえる、幼い、されどトゲのある、相手を見下したような声。

 指向した76ミリ砲は正確にカリラを捉えていた。


 砲撃音が響き、雨粒が払われる。

 撃ち出された76ミリ榴弾は、〈サリッサ.MkⅡ〉正面に着弾――しなかった。

 〈サリッサ.MkⅡ〉に積み込まれた深次元転換炉が甲高い音と共に緑色の光を上げ、臨界寸前で作動して物理法則を書き換え、機体前方の空間を歪める。

 次元の狭間に阻まれた砲弾は、ねじるように軌道を逸らされあさっての方向へ飛んだ。


『深次元障壁!? 統合軍にこの技術は――』

「統合軍には無くても、わたくしにはありましてよ!!」


 深次元転換炉は全力動作を続け、〈サリッサ.MkⅡ〉周辺の万有引力定数をカリラの都合がいいように書き換える。

 見かけ上は本来の質量の半分となった機体は、全力動作するメインコアユニットによって加速され、機体限界を超えて突撃機並の速度で〈アヴェンジャー〉へ肉薄する。


「この距離なら外しませんわよ!」


 突きつけられた56ミリ砲。ゼロ距離で構えられたそれが火を噴き、盾にされた100ミリ砲を打ち砕く。

 敵は受けた攻撃によって後退。カリラは躊躇無くそれを追撃する。


「のろまが! 止まって見えますわ!」


 左手に持ったハンドアクスが振るわれ、100ミリ砲の残骸を払う。更に踏み込んだカリラは〈アヴェンジャー〉へと蹴りを繰り出す。

 脇腹にめり込んだ左足は同時にアンカースパイクを起動。炸薬によって撃ち放たれた4本の金属杭が正面装甲に突き刺さる。


「こんなものでは終わりませんわよ!!」


 アンカースパイク解除。敵機を後ろへと蹴り出し、装填完了した56ミリ砲の砲身が損傷した正面装甲へ叩き付けられる。即座に発砲。超重装機の重厚な装甲が、徹甲弾の直撃を受け破裂した。


 それでも〈アヴェンジャー〉搭乗者は意識を保っていて、76ミリ砲を地面へ向けて発砲。反動で徹甲弾の軌道を逸らし急所を回避させると、その勢いを持ってカリラへ右ストレートを叩き込む。


「近接戦闘でわたくしに勝てるのは、宇宙でただ一人、お姉様だけでしてよ!」


 ぎりぎりまで引きつけた攻撃をカリラは左手で受ける。触れた瞬間、深次元転換炉による万有引力定数書き換えが〈アヴェンジャー〉右腕に作用し、パンチの威力を半分にする。

 軽くなった一撃をくぐり抜け、距離を詰めたカリラは再び蹴りを放つ。

 徹甲弾によって破裂した腹部を狙った真っ直ぐな蹴りは、その攻撃を予想し盾にされた76ミリ砲に突き刺さる。


『甘いわ』

「わたくしの台詞ですわ!」


 カリラは攻撃を受けられると予想していた。

 彼女はアンカースパイクを作動させず76ミリ砲を踏みつけ跳躍。質量を半分にされた機体が飛び上がると、強制脱離させた56ミリ砲の砲身を両手で持ち振りかぶった。


 その瞬間、臨界を迎えた深次元転換炉が強烈な光を放ち、爆炎と黒煙を上げた。

 書き換えられていた万有引力定数が物理法則に従い、一瞬で本来あるべき値に修正される。

 突撃機並の速度で宙に舞った〈サリッサ.MKⅡ〉が、重装機の質量を伴って〈アヴェンジャー〉へ襲いかかる。


「砕け散れええええ!!!」


 振り下ろされた56ミリ砲が、防御のため構えられた敵機両腕を打ち据えた。

 超重装機の装甲が砕け、両腕基礎フレームが搭乗者の腕ごと歪に変形する。

 だがカリラは着地と共に更に1歩踏み込み、無防備になった〈アヴェンジャー〉へと蹴りを叩き込んだ。

 装甲を失った腹部に突き刺さった蹴り。即座にアンカースパイクが起動され、4本の金属杭が基礎フレームをへし折り、内蔵へ致命的な損傷を与えた。


「この程度なら修理可能ですわ。この機体はわたくしが責任を持って保管しますからご心配なく」

『――あんたなんかにこの機体はもったいないわ』


 勝利を確信していたカリラの表情が驚愕に歪む。

 生きていられるはずの無い傷を与えたはずだった。

 〈アヴェンジャー〉搭乗者の、粉々に砕け散ったはずの両腕が〈サリッサ.MkⅡ〉の足を掴み持ち上げ、体勢を崩した所へと回し蹴りが繰り出された。


 カリラは正面装甲を強く打ち据えられ地面を転がり、衝撃に意識が混濁した。

 立ち上がろうとするが、限界を超えて稼働させられた機体各部が異常を訴え安全装置が作動される。

 安全装置を全て解除し、最後の力を振り絞って体を起こす。

 そのカリラへ向けて、敵機は対装甲拳銃を向けた。


『さようなら。未完成品――』


 引き金へ指をかける寸前、敵は状態をのけぞらせた。

 飛来した40ミリ徹甲弾が〈アヴェンジャー〉の頭部。機体一体型のヘルメット前面を抉る。


『あいつ――。まあいいわ。あたしの仕事はお終い。命拾いしたわね。精々お母様に感謝なさい』


 敵は攻撃を放ったナツコを一瞥し、カリラへ向けて捨て台詞を残すと煙幕を展開した。


「ま、待ちなさい!」


 カリラが叫ぶが〈アヴェンジャー〉は煙のなかへ消えていく。

 その場にナツコが駆けつけて、カリラの機体を支えた。ナツコはサネルマが装備していた40ミリ機関砲を右腕に装備していた。


「わたくしは大丈夫ですから、あいつを追って!」

「それが、さっきので40ミリ砲弾が最後でして……」

「ああもう! サネルマさんが無駄弾ばかり撃つから! 少しは射撃の腕を磨いて頂きたいものですわ」


 相手も負傷しているとは言え、ナツコに近接装備のみで〈アヴェンジャー〉を追わせることは出来なかった。

 カリラは観念して、機体の非常用コンソールを開くとレバーを引いて装備強制解除を行う。

 動作不全を起こした機体から解放されたカリラは、先ほど蹴りつけられた腹部を触って傷が深くない事を確かめると、〈アヴェンジャー〉が消えていった方向を見つめて叫んだ。


「あれはわたくしがコレクションすべき機体でしたのに!!」

「え、ええ……まだ諦めていなかったんですか……。ともかく、敵は追い返したので任務は一応成功です。タマキ隊長の所へ向かいましょう。あ、リルちゃんとサネルマさん、2人とも怪我は大したこと無いみたいです」


 2人についての報告をしたのだが、カリラは全く別のことを思い出して素っ頓狂な声を上げる。


「あ!! お姉様! お姉様は無事ですの!?」

「それが通信が繋がらなくて。さっきまで動いてたんですけど……。カリラさんのも駄目ですよね? あ、確かリルちゃんの通信機はちゃんと動いてたはずです」

「直ぐにあのちびっ子を助けに行きますわよ!」

「え、ええ。いや、助けには行きますけど……そうですね。直ぐ行きましょう!」


 〈R3〉がまともに動くのはナツコだけだったので、亀裂の中に居るリルを助けられるのも彼女だけだった。

 放っておく訳にも行かないので、まずはリルを救助しに落下地点へと向かう。


 カリラはすっかりイスラの事ばかり気になるようだったが、ナツコはどうしても〈アヴェンジャー〉搭乗者の事が気になる。


 敵はナツコもサネルマも殺すことが出来た。

 だというのに、わざわざ攻撃をぎりぎりで外して武装や機体だけ壊れるよう調整した。

 それに――


「……やっぱりあの人、あの時私を助けてくれた人です」

「ほらナツコさん! 早く下りておチビちゃんを回収してきて下さいまし!」

「直ぐ行きますよー。私も機体故障しているのであんまり急かさないで下さい」

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