ブレインオーダー

第143話 紅の魔女

 その異変が最初に確認されたのは、レイタムリット基地とボーデン基地の中間地点。海岸沿いの道と山中を通る高規格道路を結ぶ、バイパス線沿いにあるHI拠点であった。

 そこは元々ヘッダーン社の流通倉庫があった場所だが、度々戦場となったため倉庫は形を保っていなかった。しかし残っていた土台と建材を有効活用し、簡素ではあるがこの地方の積雪にも耐えうる拠点が設営されていた。


 第1次統合軍反攻作戦。ラングルーネ基地攻略の失敗の後、統合軍は攻勢を中断し周辺拠点の防衛に専念することを決定。

 HI拠点にも1歩兵中隊が配備され帝国軍の攻勢に備えていた。

 ある凍えるように寒い日の明け方。偵察にあたっていた中隊所属の〈ヘッダーン4・スカウト〉が4機、突然ロストした。

 休んでいた中隊長はたたき起こされ、直ぐさま後方の大隊司令所へ連絡。同時に防衛態勢を整え、周辺拠点へも敵機接近中の速報を入れた。


 中隊の主力は重装機〈フォレストパックⅢ〉と突撃機〈ヘッダーン4・アサルト〉。

 偵察機も全て投入され敵機を捜索するも、前線へ向かった機体が次々にロスト。

 報告を受けた大隊長はただ事では無いと、連隊長へと連絡をとり装甲騎兵部隊の派遣を要求した。


 緊迫する空気のなか、いよいよ銃声が拠点まで響き、中隊所属機が次々とロストしていく。

 中隊長は情報収集に努め、その結果驚くべき結論に至った。


 敵は単機。

 重装機を破壊可能な火砲と、高速な突撃機と同等の機動力を持つ、帝国軍の新型機体。

 指揮官機並の電子戦装備を搭載し、ステルス機構とレーダー錯乱装置、通信妨害装置を備えていた。

 そしてその機体は深紅に塗装されていて、一面の銀世界で紅一点、異彩を放っていた。


 敵が単機であることを確認した中隊長は、迎撃部隊を繰り出す。

 重装機による弾幕展開と、突撃機の機動力を活かした一撃離脱の波状攻撃。

 だが、その全ての攻撃を敵機は回避し尽くした。

 その上で敵の攻撃は確実に中隊所属機を撃破する。

 敵機の23ミリ機関砲は、有効射程ギリギリであろうとも回避機動を先読みしたように正確無比に放たれ、突撃機はもちろん、重装機までも脆弱部分を撃ち抜かれる。


 援軍として装甲騎兵〈I-K20〉が到着する頃には中隊は壊滅状態にあった。

 装甲騎兵の接近を見た敵新型機は後退を開始。

 だが同時に帝国軍の攻略部隊が進軍を開始し、HI拠点は陥落した。


 新型機と言えたった1機に中隊を壊滅させられたことから統合軍は情報を伏せたが、それでも兵士の間で噂となって広まっていった。


 深紅の機体を装備した、銀髪と赤い瞳を持つ女。

 いかなる攻撃も通用せず、いかなる防御も意味を為さない。

 統合軍兵士を蹂躙し尽くすその殺戮兵器を、兵士達は”魔女”と呼んだ。

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