ツバキ小隊のこれから
第133話 ツバキ小隊の決断
ツバキ小隊を乗せたトレーラーは、何とか統合軍からの補給を受けることが出来、レイタムリット基地まで後退した。
『監察官の不在』を盾に統合軍からの要請を無視し続けていたツバキ小隊は、レイタムリット基地に入るやいなや管理ゲートで統合軍より包囲されたが、サネルマが「ニシ中佐の指示を受けている」と申告をすると確認がとられ、カサネが口裏を合わせたらしく無事に通された。
カサネとの面会時間も設定され、それまで基地内で待機するよう指示を受けた。
通された駐車場にトレーラーを停め、隊員達は外へと出る。
指揮官不在のためその動きに覇気が無く、副隊長のサネルマが急かすが全員が整列するのに時間を要した。もしタマキがこの場にいたら檄を飛ばしていただろう。
「ええと、皆さん整列して下さい。大切なお話があるので、整列。あれ? ユイちゃんは?」
数を数え1人欠けていることに気付いたサネルマ。
尋ねるとトーコが答えた。
「寝てるって」
「ええ……。困りましたね……。そういえばトーコちゃん、ユイちゃんの所属ってどうなってるか把握してます?」
「整備士としてツバキ小隊所属扱いになってたはずだけど、詳しいことは」
トーコは肩をすくめる。
ユイの所属について正式にどうなっているかはタマキしか把握していなかった。
「うーん、どうしましょう。全員に話しておきたかったんですけどね。でもユイちゃんはあんまり興味ないかも知れないし……。どうしたら良いですかね?」
「私に聞かれても。連れてきた方が良いなら引っ張ってくるけど」
「それは――やめておきましょう」
決定権を持つ人間が不在のため誰にも何も決められなかった。
それでもサネルマは副隊長として皆の前に立って、これまで口をつぐんできたここに来た目的について話す。
「こほん。不肖、サネルマ・ベリクヴィスト、ツバキ小隊副隊長として隊長さんより命じられました。レイタムリット基地まで後退し、現地でカサネ・ニシ中佐と面会し、ツバキ小隊の次の監察官派遣を要求せよと」
「あいつがそう言ったのか?」
タマキの命令に、イスラが顔をしかめる。
「あいつは救援中の味方を見捨てて逃げるよう命じたんだ」
「逃げるよう命じたのは事実です。ですが隊長さんは仲間を見捨てるつもりはありませんでした」
「じゃああの命令は何だったんだ」
「それを今から説明します。よく聞いて下さい。他の皆さんも」
サネルマはラングルーネ基地攻略作戦中に起こった出来事を話す。
統合軍から即時撤退命令が出されたこと。救援を継続しようとしたら中隊長に咎められたこと。命令無視をした場合にはツバキ小隊を解体すると脅されたこと。そして、タマキが単独で命令無視の罪をかぶることを選択したこと。
聞き終わってからイスラはゆっくり手を上げた。
「つまり何か? あいつはツバキ小隊を残すために、1人で命令無視して救援に向かうつもりだったのか?」
「そうです。ですが皆さんが撤退命令を無視してしまったので、単独で中隊長の下へ暴れに――説得しに向かいました。皆さんから中隊長の目を逸らすために」
「今どこにいるんだ?」
「それは分かりません。命令無視で後送された事だけは確かです」
イスラは握った拳に力を込める。タマキの真意を見抜けずに、義勇軍特例を切り出した。そんな自分を責めるように口を開こうとする。
だがイスラより先にリルが前に一歩踏み出し口を開いた。
「それで、サネルマはどうするつもりなのよ」
「先ほど言った通り、次の監察官の派遣を要求し、その指示に従うよう命令を受けています」
「あんたはそれで――」
リルの言葉をサネルマは遮る。
「良いとは思ってません。隊長さんからはツバキ小隊を守るように言われました。ツバキ小隊として、故郷を取り戻すために出来ることをしろと。
わたしはその言葉に従おうと思います。
これからカサネ・ニシ中佐との面会があります。そこで隊長さんの復帰を要求したい。
ハツキ島を取り戻すのには、隊長はあの人でないといけないんです。わたしたち7人、ユイちゃんも含めて8人がツバキ小隊ではありません。隊長さんを含めた9人でツバキ小隊なんです。わたしはそのツバキ小隊を守りたい。
でも、それをわたしの独断では決められません。皆さんの意見を聞かせて下さい」
その提案に、前に出ていたリルが一番に答える。
「当然よ。最初に命令無視したのはあたしよ。タマキがそれで罰を受けることも、ツバキ小隊を除名されることも間違ってる」
「私も賛成です。ツバキ小隊を作ってくれたのはタマキ隊長です!」
「私もナツコに賛成。ツバキ小隊をまとめられる人間なんて、宇宙中探しても他にはいないもの」
ナツコとトーコも賛成し、続いてフィーリュシカも意見を述べる。
「次の監察官派遣を要求することと、隊長殿の復帰を要求することは矛盾しない」
「そうだ。あのお嬢ちゃんにはまだ利用価値がある」
トレーラーから顔を出したユイも意見した。
そのユイにサネルマは整列して下さいとやんわり述べたが、それを無視してその場で続ける。
「あたしゃ何処の馬の骨とも分からん奴に〈音止〉の運用を任せるつもりは無いぞ」
ユイなりにタマキのことを認めていた発言に、トーコも薄らと微笑んだ。
隊員達の視線は、まだ意見を出していないカリラとイスラへ向く。
「わたくしは何処までもお姉様について行きますわ!」
カリラが思考放棄したことで最後に残ったイスラに注目が集まった。
イスラはやれやれと肩をすくめて見せる。
「サネルマ副隊長殿に2票。少尉殿と話したいこともあるしな」
全員の意見の一致を見てサネルマは満足そうに微笑んで、そのつるつるの頭を下げた。
「皆さん、ありがとうございます! 何とかニシ中佐にお願いしてみます!」
「いや、副隊長殿1人じゃ不安だ。あたしもついてくよ」
イスラが同行を申し出ると、堰を切ったように他の隊員も続いた。
結局ユイ以外の全員が同行を願い出て、サネルマもそれを了承した。
「ではツバキ小隊として面会に向かいましょう。ユイちゃん、お留守番は任せます! 知らない人が来てもトレーラーのドアを開けたらいけませんからね!」
「うるさいハゲめ。子供扱いするな。あたしゃお前なんかよりずっと大人なんだ」
ユイは手をひらひら振ってトレーラーへ引っ込んでいった。
トーコは不安そうにしていたが、ナツコに「大丈夫ですよ!」と根拠の無い意見を言われるとそう思い込むことにした。
「ベリクヴィスト兵長」
その時駐車場に、カサネの副官、テレーズ・ルビニ少尉がやってきた。
ツバキ小隊とは顔見知りの彼女は、サネルマの姿を見つけると真っ直ぐ歩いてくる。
「面会の準備が出来ました。自分が案内します」
「はい、よろしくお願いします」
サネルマがその後に続き、更に隊員も続く。
その様子にテレーズは足を止めて尋ねた。
「面会はベリクヴィスト兵長が行うと伺っていますが」
「いいえ。ツバキ小隊として面会します。駄目でしょうか?」
テレーズは少しばかり悩む素振りを見せる。
だがハツキ島出身のテレーズにとってはツバキ小隊は家族のようなものだ。
何より、ツバキ小隊の我が儘を聞くことにはすっかり慣れていた。
「いえ、問題はありません。用意した会議室が少し狭いかも知れませんが、大丈夫ですよ。では皆さん、着いてきて下さい」
微笑むテレーズに礼を言って、ツバキ小隊は面会のためタマキの兄、カサネ・ニシ中佐の待つ会議室へと向かった。
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