第5話 Recovery Install 霧ヶ谷Side

―Recovery Install― 霧ヶ谷Side


  僕は走馬燈を見終えた。半年前の事故のことが鮮明に思い出された。

 ああ、そうか。琴音はもう……。

 僕が後ろを振り返ると正体無き殺人鬼はもういなかった。

 ふと気づくと琴音の死体も消えていた。

 携帯を見ても、不幸のアプリなんて影も形もない。

 妄想ごっこは終わったのだ。

 僕はゆっくりとダイニングへ向かい、包丁を取り出す。柄を両手で握って、それを首にあてた。

 ひんやりとした金物の感触が、少し気持ちいい。

 もう――走馬燈はいらない。


「僕は――これから死ぬ」


 呟いて、何故か微笑む。

 不思議なことに絶望や自暴、諦観といった負の感情は一切沸いてこないのだ。

 あるのはただ、開放感。

 やっとこれで自由になれる。

 もう、自分を騙さなくて済む。

 琴音の死の呪縛を消し去り、

 不気味なアプリから解放され、

 ありもしない殺人者の影は霧消し、

 不幸な自分にやっとお別れを言うことができる。

 さぁ。今まで僕を支えてくれた不幸と決別しよう。

 今までずっと僕を殺そうとしてくれてありがとう、不幸きみ

 けど。

 尻ぬぐい位は自分でやるよ。

 さようなら、不幸ぼく


「ああ、なんて救われる話なんだろう」


 僕は包丁を握る手に力を入れた。

 室内に鮮血が飛び散った。

 綺麗な赤だった。

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