5章
本物
「・・・・・ん、んん・・・」
「目が覚めたみたいね、姫様」
「!?」
その声に、私は飛び起きる。が、実際に飛び起きることができた訳ではない。体を跳ねさせるとガシャン、という音がして、私の動きを遮った。
「・・・・!?何、これ・・・・・!?」
見れば、私の体は椅子に縛り付けられていた。手足はもちろん、体も満足に動かすことができない。一体何故こんな状況に陥っているのか、私は記憶を遡る。だが遡るよりも早く、目の前の女性を見ただけで、私は全てを思い出す。
「あ、あなた、一体これはなんのつもり!?」
「何のつもり?ふふ、さあ、何のつもりかしら」
目の前にいるのは、魔女。シルファの心を引き裂いた、最低最悪の魔女。
「何があったのかは思い出せたかしら?自分がここにいる理由、分かる?」
「・・・あなたが連れてきたんでしょう?私を、こんなところに」
「せいかーい。よく分かってるわね、姫様。そう、私があなたをここに連れてきたの。騎士様の代わりにね」
「シルファは・・・シルファは無事なの!?」
「安心して姫様。騎士様には何もしていないわ。今頃お城のベッドで気持ちよく寝てるんじゃないかしら」
「・・・・・」
言い回しは気に入らないが、シルファが無事なら私はそれでよかった。いや、この魔女の証言などアテにはできないが、だからと言って自分の目で確認できる術を、今の私は持っていない。だからその言葉を信じるしかなかった。そしてそれ以前に、自分が無事であることが不思議だった。意識が途切れる前、死ぬほどの痛みを感じていたのだが、今はそれがない。そもそも後頭部に傷を負ったような感覚自体がなかった。まさかこの魔女が手当をしてくれたとは考えにくい。一体どういうことだろう。
「ここは、どこなの」
「私の隠れ家のひとつよ。騎士様の時と同じ場所にしようかと思ったんだけど、あそこはもう制圧されちゃっててね。別にみんな殺して取り戻してもよかったんだけど、面倒だったからここにしたわ。こっちの方が色んなものがあって楽しいしね」
魔女は笑顔で答える。言われて辺りを見渡すと確かに、薬品やら小さな生き物が入った小瓶やらがそこら中に置いてあった。私はそれを、酷く不気味に思った。
「さて、無駄話もいいけど、そろそろ本題に入りましょう?もう私、我慢できないわ」
向かいの椅子に座っていた魔女が立ち上がり、私に近づいた。
「どうして私が、姫様をここに連れてきたか、分かる?」
「・・・・・」
私は沈黙を口にする。にやにやとした魔女の表情が、私に恐怖を持ちかける。
「姫様は騎士様のためなら何でもできるのよね」
「・・・・・それが、何だと言うの」
気を失う直前にした会話を、魔女は繰り返す。
「姫様はこう言っていたわよね。『私は何があっても貴方の味方よ。私だけは絶対に、貴方を裏切らないわ』って」
「それが、何・・・!?」
「・・・・・・・・・・・・・それが本当か、確かめさせてほしいの」
「・・・・・え?」
「私ね、正直騎士様には驚いたわ。最後の最後まで、絶対に口を割らなかった。どんなことをされても、姫様、あなたの居場所は、あなたのことは、何も喋らなかった」
「・・・・・・・・・」
「だから驚いたの。こんな深い絆で結ばれた者同士が、この世にいるんだって。自分のこと以上に相手のことを大切に思える人が、いるんだって。私は本当に驚いたわ。こんな絆が、この世界にあるってことに」
魔女は続ける。
「だけどね、私は思うの。もし騎士様の愛がただの一方通行だったら、こんな悲しいことはないんじゃないかって。絆って言うのはお互いが、お互いに愛し合ってこそ、絆と呼べるんじゃないかって。そう思うの。だから、だからね」
魔女は。
私の瞳を覗き込んで、言う。
「今度は、姫様の番」
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