心底願う

 だから私は。


 彼女の望みではなく、私自身の望みのままに。


 彼女に近づいた。


「シルファ・・・・・・・・!」


 そして私は。


 彼女を思いっきり、抱きしめた。


「ひぁ・・・・・あ、あぁ・・・・・!」


 怯える彼女を、それでも私は、強く抱きしめた。そうせずにはいられなかった。

 そうじゃないと、もう。


 私が、壊れてしまいそうだったから。


「もういいの、シルファ。私のために、自分を犠牲にしなくていいの・・・!もう、頑張らなくていいから・・・誰も貴方を、傷付けたりしないから・・・・・!」


 拙いながらも、私は必死に言葉をつなげる。彼女の悲鳴が、嗚咽が、少しずつ小さくなっていく。


「もうこんなことはしなくていいの。もし何かが貴方を傷付けるなら、私が守ってあげるから・・・!怯えなくていいの、怖がらなくていいの・・・!もう辛い思いをする必要なんて、ないの・・・・・!」


「・・・・・・・・・・」


「だからお願い・・・・・もう自分を、傷付けないで・・・・・何があっても、どんなことがあっても、私が、貴方を、守るから・・・・・・!!」


 力強く、彼女を抱きしめる。気付けば彼女は怯えることも悲鳴をあげることもせず、私に身を任せていた。私に、触れることを許してくれた。だから私は自分の欲望を貪るように、そのまましばらくの間、彼女を抱きしめていた。彼女の温もりを、感じていた。


 彼女から体を離すと、先ほどまでの狂気が消え去っていることに気付く。体は震え目は虚ろで、やはり私のことを認識していなかったが、先ほどのように床を舐めるようなことはしなかった。ただ小さく、謝り続ける。


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・またよご、汚して、しま、って・・・」


「大丈夫、貴方は何も気にしなくていいわ。全部私が綺麗にしてあげるから。だから謝らなくていいの」


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」


 謝り続ける彼女の頭をそっ、と撫でる。それを彼女が拒絶せずに受け入れてくれることが、今は喜ばしかった。


 私は一旦彼女から離れ扉の前に立つ。


「アイシア様、ご無事ですか?」


「ええ、大丈夫よ。心配かけたわね」


「いえ、とんでもございません」


「食事の前に濡れた布を数枚持ってきてほしいんだけどいいかしら」


「はい、かしこまりました」


「あとシルファの着替えもお願い。大至急で」


「はい」


 そう言うと執事は本当に一分もしないうちに頼んだものを持ってきてくれた。いつも仕事が早いとは思っていたが、どうやら私が思っている以上だったらしい。それらを受け取り、私はシルファのもとに戻る。

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