13回目の死と

「騎士様?もう死んじゃった?」


「・・・・・・」


「ふふふ、生きてはいるみたいね」


 13回目の拷問を受け続け、ついに私は事切れる寸前に差し掛かった。意識は朦朧とし、痛いと痛くないの区別がつかない。そもそも全身の感覚が、何処にもない。自分の体に、自分がいない。そもそも私の体は、今どれだけ残っている?


「叫び声を上げてくれないんじゃつまらないわね。じゃあそろそろ今回は終わりにしようかしら」


 これでようやく、13回目が終わる。でも、何の意味もない。ただ指でカウントされるだけの、無に等しい時間だ。今回も、そして、その次も。


「それじゃあやっぱり最後は、心臓を握り潰してあげるわね。だから騎士様元気出して?これで終わりだから、最後にいい悲鳴を聞かせて頂戴?」


 なんと言われようが私は反応しない。もう死んでいると言っても間違いではないのだから。ただほんの少しだけ、意識がそこにあるだけだ。


「駄目よ騎士様、ちゃんと私の言うこと聞いてくれないと・・・・・・あら?」


 やつが、何かに反応する。それがなんであるか、私には分からない。


「参ったわね、こんなことになるなんて」


 やつが、私から目を逸らす。


「できればもう少し騎士様と遊んでいたかったけど、まあ、今回はこれくらいにしておきましょう」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」


「なかなか優秀ね、騎士様の仲間は。その子たちも捕まえて遊んであげてもいいけど、ここは騎士様の矜恃に敬意を表して、引いてあげるわ」


 やつが突然、何かを言い出す。それを私は、虚ろな意識の中で聞く。


 一体、何を言っているのか。


 わから、ない。


「サービスとして、騎士様の体も元に戻しておいてあげるわ。もちろん心の方は治せないけど、ね。騎士様は本当の意味で元に戻れるかしら。楽しみだわ」


 何が、どうなって。


 何、が。


「それじゃ、姫様によろしくね」


 その言葉を最後に。


 やつの声は、聞こえなくなった。


 姿も、どこにも。


 いなくなった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 気づけば痛みは消え、全身の感覚を感じることができた。だけど意識は虚ろなままで、混濁している。その意識の中で私は、何かを聞いていた。


 足音だ。誰かの。


 誰?


 やつの、足音じゃない。もっと別の、誰かの・・・・・。


「・・・・・!!いた!こっちだ!」


 誰、だ?


 途切れ行く意識の中で、誰かの声を聞いた気がした。


 酷く懐かしい、誰かの声を。


 その声は、なんとなく。


 悪夢の目覚めを、地獄の終わりを。


 感じさせる。


 そんな気が、した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る