地獄がそこにある
「・・・・・そう。そんなに騎士様は私と遊ぶのが好きなのね、ふふふ」
「・・・・・」
何が私をそうさせるのかは、もう分からない。ただどんなに心が壊れても、絶対に壊せないものが、あったような気がした。
だからもしかしたら、私に地獄を強いているのは。
私自身なのかもしれない。
「それにしても騎士様は本当に素敵ね。ここまで耐えたのは騎士様が初めてよ。まあそれは、もうとっくの前からの話だけど」
しゃがみ込んで私の顔を覗く。やつは本当に感心したように私を見つめた。
「私は騎士様と遊べればそれでよかったけど・・・こうなると言わせたくなっちゃうわね。本当に騎士様は私を楽しませてくれる・・・最高だわ」
淀みなく、やつは言葉をつなげる。
「でも不思議ね。どうして騎士様はそこまでするのかしら。そんなに姫様のことが大切?そんな価値がある?」
お前に何が、分かる。
姫様は、私の。
・・・・・。
「まあ、いいわ。お喋りはこの辺にしましょう。騎士様ももう、待ちくたびれたでしょうから、ね?」
私の頭を掴みながら、やつは続ける。私は歯を、体を、心臓を震わせながらその言葉を聞く。
「今日は何がいい?せっかくだから騎士様に選ばせてあげるわ。四肢を引き千切るか、生きながらに臓器を取り出すか・・・どっちがいい?」
「・・・・・・・・・・・お願い・・・・・・・・許して・・・・・・・・・」
「だーめ。姫様のこと教えてくれないなら、騎士様はただ、死ぬだけよ?」
「・・・・・・・・ぃ、ゃ・・・・・」
「はい時間切れー。そんな騎士様には両方しまーす」
やつは私の右手首を掴み、ぐいっ、と引っ張り上げる。するとやつの握った部分が光り始める。
「ひぃぃ!!まって!!まってぇぇえええええ!!」
「はい、ぱーん」
やつの言葉と同時に、私の右手首から先が弾け飛んだ。ちょうどやつの言葉通りパーン、という音と共に。
「ひいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「そんなに叫ぶことないじゃない。騎士様はもう何度も経験してるでしょ?痛くない痛くない」
「痛い痛い痛い痛いぃ!痛いのぉ!!許してぇ!!」
「まだ誰にも見せてない魔法がたくさんあるの。騎士様にだけ特別に見せてあげるわ。だからわがまま言わないの、ね?」
「ひいいいいい!!いやあああああああああああ!!」
「今のは爆破魔法だけど今度は・・・ほら!」
やつが左手首を掴むと、再びやつの握った部分が光り出す。先ほどのような突発的な痛みではなく、じわりとした痛みが全身に広がる。それは次第に強くなり、想像しがたい激痛に変わる。
見るまでもなく、左手に襲いかかる感覚で理解した。
私の左手が、溶けている。
「ほら見て騎士様、融解魔法よ。騎士様の左手、骨だけになっちゃった」
「ぎぃいあああああああああああああ!!やめてええええええええええ!!」
じゅうう、という肉が焼け焦げる音がする。その肉がぼたぼたと、地面に落ちる。それが私の手であると、できることなら信じたくない。
「お次は透過魔法で・・・」
やつは私の胸に手をあてる。するとその手が私の体の中へと飲み込まれていく。
「ひいいいいいいい!?」
「今までも何度か使ってたんだけど・・・直接見せるのは初めてね。ほら、私の手が騎士様の体の中に入っちゃったわ。このまま臓器に触れると・・・」
「うぐrgう゛ぇあpl」
「あはっ、吐くほど気持ち悪かった?」
生きたままに臓器に触れられる感覚に、私はたまらず吐いてしまう。形容しがたいその感覚は、痛いとか気持ち悪いとか、そんな言葉で語れるものではなかった。
「どんな感じ?教えて騎士様」
「ぁ・・・、が」
「おーしーえーてーきーしーさーまー」
ぐちゃぐちゃぐちゃ、とやつが私のお腹の中をかき回す。
「あげえええええあああああああああああああああああああああ」
「わお、聞いたことない叫び声。いい反応だわぁ。・・・あ、これ心臓かしら」
やつの手が左胸辺りを弄る。
「これに触ったらどうなるのかしら。触るだけじゃなくてぇ、握り潰してみようかしら」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
「ま、今はやめときましょう。それは最後に、ね」
「ぁ・・・・・・・・・・ぁあああ」
「さあ騎士様、まだまだ遊びましょう?私と一緒に・・・・・」
「ゆる・・・・・・・・・・・・・・・・・・し、て・・・・・・・・・・・」
悪夢は終わらない。
地獄に底はない。
私が死ぬまで。
私が死んでも。
終わらない。
やつは嬉しそうに、拷問を続ける。嬉々として、飄々として。私はその狂気をただただ受け入れる、玩具になるしかなかった。
何があっても壊せない、何かを守るために。
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