⑦突撃!我が家のクソ女神

「じゃあな、佐藤」

「わざわざありがとね。勇人も気を付けて」


 佐藤の家の前。街中で遊んでからの帰宅だが日は長くまだまだ明るい。少し遠回りになるが俺は佐藤を家まで送っていくことにしたのだ。


「大丈夫! 大丈夫! 家はすぐそこだぜ?」

「うん……それはそうなんだけど」


 女神の襲撃が今更あるとは思えないし、外はまだ明るいんだ。不意打ちなんてくらわないさ。そもそも女神の奴は天使先輩にたかりに行きやがったのだ。だから安全だし、それでいいのだ。

 佐藤もそれは知っているだろうにと思ってると、不意に佐藤が口を開く。


逢魔おうまが時、だよ。勇人?」

「おうまぁ、がぁ?」


 どうしたんだ、いきなり? なんか聞いたことはあるような単語だけど。


「逢魔が時。こういう時間はね、簡単に連れてかれちゃうんだよ?」


 ああ、ゲームにあったなぁ。妖怪的な連中にさらわれる~なんて感じの奴が。


「勘弁してくれよ。女神以外のトンデモに狙われてたまるか」

「それは確かにそうだね」


 そう言って互いに吹き出し、ひとしきりクツクツと身体を揺らしているうちに夕日は更に傾いていく。

 ああでもさ勇人、と佐藤がなにかを思い付いたようだ。その声につられてそっちを見ようとしたが夕日に目がくらんでしまった。 


「         」

「ええ? なになに?」


 してやられた。佐藤はたまにこういうことをする。きっと俺が笑っているあいだに場所とタイミングを調整してたんだろう。一瞬だけ見えたアイツの口元はにんやりしてたし間違いないな。


「普通に『車とかに気を付けて』って言ったんだよ」

「ええ~?」

「それこそいまの勇人みたいに『眩しい!』ってなったら事故も起こるでしょ?」

「それは、そうだけど」

「女神さんばっかりに気を取られてると、危ないかもよ?」

「……へーい」


 お手上げだ。いま俺は完全に佐藤に踊らされてる。これ以上の追及は無駄だ。

 

○●○●○●


「うぅむ」


 今度こそ佐藤と分かれ我が家を目指しながら俺は首を捻っていた。さっきの佐藤の言葉が気になって後ろ髪引かれる思いってやつだ。こうなったら今からでも引き返して聞き出すか?


「いや、やめとこ」


 なんだかんだで門限が近い。ここは素直に帰るべきだ。人間素直が一番だ。


「はいじゃあ、右ヨシ、左ヨシ、右ヨシ……っと」


 俺は明日の佐藤との会話のネタ作りに指さし確認をしながら自宅へと向かった。

 ふふ、あいつの困り顔が目に浮かぶぞ。


「右ヨシ、左ヨシ、右ヨーシ」


 正直家までの距離が短くて助かった。これは流石にアホっぽい。こんなのあのポンコツ女神だってやらないぞ、多分。


「……あいつ、まだ先輩と飲んでんのかな?」


 家に到着して玄関ドアに手を伸ばすと不意に女神の顔が頭に浮かんだ。おいおい、これじゃ俺が寂しがってるみたいじゃないか。まったく、我が家にはちゃんと出迎えてくれる愛犬がいるのにどうかしてるぜ。


「ただい ――」

「ゆ、う、とぉ~♪」

「まがぁぁぉぉぅっ⁉」


 そして玄関をドアを開けると、コバルトブルーが視界できらめき衝撃が俺をお出迎えした。


「ありゃ? クリーンヒット? 勇人、タルんでるわよ?」

「へっ、へっ、へっ……」


 したたかにドアに頭をぶつけ、星がちらつくなか周囲を見る。

 俺を出迎えに来た白い柴犬しばいぬに先んじて胸に激突してきたのは女神だった。

 綺麗なあお髪を揺らしながらキョトンとした顔で俺の様子をうかがうさまが最高に憎らしい。


「おかえりなさい、勇人、ご飯できてるわよ♪」


 佐藤、やっぱり俺の敵はこいつ女神に違いないぜ。

 それとクソ女神。料理上手な新妻風に言ってるけど、それを作ったのは母さんだからな?

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