⑥天使先輩はマジで天使

「よぉ~し! 学校終わりだ、終わりぃ~!」


 放課後。校門前で俺は開放感に包まれていた。


「なんか勇人テンション高いね?」

「そりゃ、そーさっ‼」


 本日女神は俺を二回襲撃しその両方を失敗、その後に巻き込まれた人の回復をしている。つまり四回も奇跡を行使したことになる。経験則だが一日に使える奇跡の回数は限界だろう。そしてそれは女神の襲撃のない放課後を迎えられるということだ。


「自由と安らぎ。自分を縛るものと脅威がないってことだ。無害っていいなぁ‼」

「あはは、そうだねぇ」

「勇人! 勇人! 転生したら女神特典でっ! チートマシマシで楽々異世界ライフ送れるわよ?」

「ははは、お前は黙れよ、害悪」

「うう……! 勇人が冷たい!」

「自業自得」


 女神がなんかほざいてるけど、放っておこう。女神は奇跡切れだし、天使先輩だっている。これなら女神も俺に手出しできないだろう。

 俺が天使先輩を先輩として敬っているのは設定上高学年だからだけでなく、女神の抑止力になってくれるからだ。天使先輩、マジ天使!


「なあ、佐藤! ゲーセン行こうぜ? ゲーセン」

「ええ? 僕達だけで? いいのかなぁ……?」

「じゃあ、カラオケ!」

「うーん」


 女神襲撃の可能性が常に付きまとう生活を送っている俺は部活をせず、放課後の寄り道も滅多に出来ない。必要のない自主規制だと言えばそこまでなんだけど、街中でトラックが天から落ちてきて被害が拡大するのは避けたいからね。

 そんなわけで久方ぶりの自由を手にした俺ははっちゃけたかったのだ。

 けど基本真面目な佐藤は首を縦に振ってくれない。こうなれば天使先輩を誘うか? 

 などと考えを巡らせていると俺たちの後方で女神が素っ頓狂な声を上げた。ああ、またこいつか。


「ええーーっ⁉ あんた、また昇進したのっ⁉」

「そう。来月から私の階級はドミニオンズ」


 どうやら天使先輩が昇進したらしい。出会ってからこれで二回目だったか?

 先輩が言うには『あのダメ女神が頻繁に騒ぎを起こすから評定が稼げている』のだそうだ。理由はともかくめでたいことだ。

 よし、ここは天使先輩の昇進祝いって名目で遊びに行こう。


「なあ、天使先輩 ――」

「ドミニオンズ先輩っ‼ 酒っ! 奢ってくださいっ‼」


 女神、テメェ……!

 普段の態度などはどこへやら。女神は三下コバンザメへと成り下がっていた。酒のためにここまでおもねるなんてプライドってものがないのだろうか。


「先越されちゃったね」

「くそう……!」

 

 女神は飼い主にフリスビーを投げて投げてとねだる犬のような様子で天使先輩にすり寄っている。

 なんだこの胸のムカつきは。納得いかねぇ……!

 そんな俺の心中を察してからなのか天使先輩が鞄の中から何か投げて寄越した。


「先輩、コレは?」

「誰かにとがめられたらソレを見せればいい。それで誰も文句を言えなくなる。私には、コッチがある」


 それは天使先輩の生徒手帳だった。なるほど確かに天使高位存在の身分証明ならどこへでも遊びに行けるに違いない。

 そして先輩を見ると彼女は新しい生徒手帳を手にしていた。名前の欄には『天使・D・天華』の文字が刻まれている。


「先輩……‼」

「そっちが遊び終わるまでの安全は保障する」


 まじかよ‼ ドミニオンズ先輩かっけぇ‼

 それから俺と佐藤は門限ギリギリまで放課後を満喫したのだった。

 ドミニオンズ先輩マジ天使‼

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