⑤最近佐藤は毎日モツを食っている

「いやぁ、まさかアッチのトラックが襲ってくるとは思わなかったね」

「そーだね」


 昼休み。学食にて。

 向かい合って座ると同時に佐藤が一仕事終えたような調子で話し出した。俺はというと、なんかもう疲れてとても投げやりな返事を返すのが精いっぱいだ。


「やぁ、お二人さん。邪魔するよぉ~」


 そしてどこからともなく現れた女神が俺の隣に着席する。

 おかしい。さっきの回転丸ノコ騒動の後に控えめに言ってボッコボコにしたばかりだというのに。


「なぁに~? 勇人?」


 俺の視線をどう捉えたのか、女神はくねくね身体をよじらせ始めた。

 ムカつく。見た目だけなら可愛いのがとてもムカつく。

 

「女神さんは今日は何を頼んだんですか?」

「よーっす、佐藤。今日はピラフぅ~、あんたは今日も麺モツ?」


 無言の俺をよそに佐藤と女神が気安い会話を交わす。こいつらの神経はいったいどうなってんだ?

 女神の奴は学食では必ず炒メシを食っている。野菜食えよ、野菜。いや、こいつの食生活は……いいや。一方、佐藤はいうと『麺モツ』なるものを食している。なんとなくだけど最近ずっとソレばかり食べている気がする。


「どうしたの、勇人?」


 醤油ベースの一人モツ鍋にちぢれ麺を合わせたものが麺モツだ。俺も食べたことがある。たしかに旨いんだが、どうしてこれが通年レギュラーメニューにあるんだろうか。ウチの学食の七不思議だ。

 佐藤はハフハフと小動物のような仕草で麺モツを食べ始めた。赤い汁にモツの脂がきらめく様は食欲をそそるものだ。本来であれば。


<ね、勇人。佐藤はどうしてあんなことの後にコレが食えるのかしら?>


 突然、頭の中に女神のささやきがこだました。言わんとすることは分かるが念話テレパシーしてくんなよ。


<いや、あんなことの後だからじゃないか? 補給、みたいな?>

<うへぇww共食いwwぶぅっっ!>

<……死ねよ、お前>


 二、三回くらいなぶり殺しにされても文句言えない発言をする女神に辟易へきえきしているとまた頭の中で音が響いた。今度はメール着信のような音だ。続いて聞き覚えのある声が続く。


<結城勇人、あなたの見立ては正しい>

<天使先輩?>

<その子は女神の被害に遭った日は必ずその食品を摂取している。つまり習慣>


 なるほど。気分的なモノかもしれないけど。なんだか食べたくなるってことか。


<しかし、流石ですね>

<なにが?>

<よく観察してる>

<いつも見てる、から>

<いや、まあ、それは>


 知っています。それが天使先輩の仕事だって。あと、念話テレパシーまで使ってさも遠くから見守ってる風に語ってるけどすぐそばに居ることも。

 俺たちは長机の端っこ、通路に近い場所に陣取っている。そして天使先輩は通路挟んですぐそば、窓際の二人掛けの卓で食事している。彼我ひがの距離は2メートルもないだろう。念話テレパシーじゃなくて普通に話しかけろよ。


<先輩、前にも言いましたがコッチ来ません?>

<それは駄目。観察行為が歪む。対象との距離は保たれるべき>


 そう言って先輩は窓の方をぷいっと向いてしまう。ちなみに先輩はいつもカ〇リーメイトを食べている。なんだ? 天界の関係者は野菜が嫌いなのか?

 そんなことを考えていると先輩がこちらに振り返った。


<……あげないよ?>


 そしてカ〇リーメイトをさくさくさくとリスのような仕草で食べ始めた。


<いえ、結構です>

<そう……>


 心なしか残念そうな先輩の声。しかしまた彼女はカ〇リーメイトの封を切るのだった。天使ってよくわかんないな。


「「…………」」


 ゲシッ! ゲシッ!


「痛っ! なにすんだ!?」

「天使見ながら食べる日替わり定食は旨いか? コノヤロー」

「勇人、こういうのは僕も感心しないな」


 脚蹴りを入れられギョっとして振り返ると女神と佐藤が俺をじっと見つめていた。


「ええ~?」


 なにこの理不尽?

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