第18話
目が覚めると、心配そうに覗き込む3人の顔。
「ただいま。」
疵奈はゆっくり起き上がり、いつもの笑顔を見せた。
3人はとても嬉しそうに抱きついた。
「行こう。先にユピテルだよ。本郷さんはここに居て。結界がある今ここが1番安全だから。」
3人はただ疵奈の言葉に従った。
「あっ。次は一緒に行こう。1人は私も淋しいからさ。」
外に出ようとしていた疵奈は思い出したように言うと、3人に手を差し伸べた。
「「「おかえりなさい。」」」
「ただいま。次こそ守ろう。私達の大切なモノをね。」
疵奈が先頭に家から出た。
本郷は4人の背中を見送った。
「飛んでいくと時間かかるから。」
紫呂、哉汰、美都の3人が手を繋ぎ合って輪を作りその真ん中に疵奈が立て膝になった。
「起きて。
疵奈の翼だけは特別で瞬間移動が可能だ。
黄緑色の綺麗な光が4人を包むと、すぐに消えてしまった。
ユピテルは大きな壁の中にあった。
到着すると、4人はそれぞれ水と風の力に囲まれ他からは見えなくなっていた。
「言うの忘れてたね。ありがとう。美都。紫呂。」
「いつものこと。」
「本当に変わってなくて嬉しいです。」
4人は互いのみ見えるような姿のままユピテルを動き回る。
「疵奈。中枢に用があるんだろ?」
「うん。だけど何かおかしい…。」
「疵奈の直感はいつも当たるからね。ついてくよ。」
疵奈は3人の話など聞かずにうろうろと歩き回っては休憩している兵や職員の話に耳を傾けていた。
兵や職員の話はいつもと変わらないような世間話しか聞こえてこない。
「美都。私が寝てからどれだけ経った?」
「1週間は経っています。」
「…そうだよね。」
「どうかしたのか?」
「あの岩牢から美都を連れ出して1週間。迷宮の森は遠いけど2日もあれば絶対帰ってこられる。ましてやレプリカと言えど魔法使い。何でこんな静かなの…?唯一、捕らえていた最後のオリジナルが消えて、候補の2人まで消えたのに…。」
「その前にすることがあったとか?」
「千年に一度の災いに関してでしょうか?」
4人はその場に座り込んで考えた。
「街の方だけかもしれないよ?」
「それはないよ。声がしないもん。」
「疵奈。あんまりそれ使わないで。」
疵奈には心の声や自然の声を聞くことが出来るのだ。
「大丈夫だよ。長い間、休んでたんだもん。それに木や風、土や人の心の声が聞こえるのが心地良いの。」
「なら良いけど。」
「その力が戻っておられるならば私は疵奈様の直感に従います。」
「あー…。」
「俺も同感。」
「僕もだよ。」
疵奈はゆっくり深呼吸をした。
「先に城に行く。」
「「「はい。」」」
「翼。力の分身1つ貸して。」
「貸してって。貴方の力ですよ。」
「ごめん。そうだった。」
疵奈は1枚羽根を抜くと、地面に刺した。
そして他の3人も同じようにした。
「念のためだよ?」
刺した羽根は光の塊となり、宙に浮いている。
他の者達には見えないようだ。
「1人では許さない。」
「そうでした。」
4人は個々の分身のような物を置いて笑い合うと、城に急いだ。
「何が起こっているというの?胸騒ぎしかしない。」
「疵奈。結界だ。」
気付いたのは先頭を走っていた紫呂だった。
「相当強い結界ですね。」
「私と同じくらいの力を持ったものがいたってこと…?」
「疵奈。今は先を急ごう。」
「…ごめん。そうね。」
疵奈が結界の一部を破り中に入った…。
まるでお姫様と王子様が暮らすような景色が広がるはずの城が荒れ果てていた…。
「どうゆう事だよ…。」
「私達は一体何に従っていたの?」
水と風の結界が解かれ周りから疵奈たちが見えるようになった。
城は仕事をしているものが多く今の時間帯であれば国の中で一番人口密度が高い。
その為か無惨な死体があちらこちらに散らばっていた。
「この1週間で襲撃されたということでしょうか…?」
「哉汰と紫呂が少し前までは出入りしてたからそう考えるのが
4人は先程作った光の塊を呼び寄せた。
「零。出ていて。」
「焰お願い。」
「風閒。お願いします。」
「瀧。」
それぞれが傍に精獣を呼び出した。
ゆっくり城を見渡すが生き延びている者は今のところ居ない…。
そして階をあがっていく。
『石の力感じる?』
「零も?あまり感じないのよ。どうゆう事なの。」
「ドラゴンの気配がするぞ。」
「どうしてこんな所で!?」
4人は急いで気配の強い方に向かった。
「生きてる人がいる!!
「生きてる人いるなら加減しようよ。」
「美都。助けに行ける?」
「お任せ下さい。」
「紫呂、哉汰。」
そこは5階ほどの高さがある場所。ドラゴンは穴に埋まっている状態だった。
「あれ?」
「自分の魔力忘れてたとか言わないでよ。」
「…あははっ。
「疵奈様っ…。」
「美都…。どう?」
「私の力ではなんとも…。」
「何か話せますか?」
その女性は静かに首を横に振った。
「俺たちを使いたいだけ使いやがって自分たちが襲われたらこれかよ。」
「やめなさい。紫呂。城の外にあなたの帰る場所はありますか?」
その女性は震えながら小さく頷いた。
「美都。家まででいい。お願い。」
「分かりました。」
美都は羽を1枚抜き家までは姿を消せることを説明し、その女性を逃がした。
その女性は必死に何かを訴えようとしているが恐怖が勝り声が出ないでいた。
「これからは良き行いを。今の私に言えるのはそれだけです。」
疵奈がにこやかにそう言うと女性は何度も頭を下げて城から出た。
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