第16話


【疵奈SIDE】


疵奈は暗闇の中で横になり仰向けの形で浮いていた。


“私どうしちゃったの?”


疵奈はそんなことを思っていた。


『主。』


「…誰?」


『我が名はれい。』


「零…?」


『そう。主。貴方の力を返しに来ました。』


「そうだっ!!私っ。」


疵奈は目を開け、勢いよく体を起こした。

暗闇の中で立っているはずなのに浮かんでいるような感じになり、足をふらつかせた。


『無理はなさらないで下さい。』


「ありがとう。平気。…声の?」


『はい。お会いしたかった。』


「…ごめん。」


『なぜ貴方が謝るのですか?謝る必要があるとすれば我らです。貴方様を最後までお守りすることが出来ませんでした。』


「そうだ!!記憶。後、力も!!」


『記憶は力です。全てお話します。』


「はい。お願いします。」


疵奈はその場に座り、真剣な眼差しで零と名のる光の塊を見つめた。


『と言っても…何処から話せば良いやら…。』


「なら聞きたい。」


『どうぞ。』


「私は何者?」


『…主はアダム様とイブ様のお子様の血を引かれた方です。1番上のお兄様をお慕いしておられましたが、1番下の方も禁断の果実を食され、疵奈様の方が早く食されておられましたが、お兄様が振り向かれることはありませんでした。お名前までは存じ上げませんので分かりにくい表現とはなりますが…。』


「私達は果実を食べないと性別がなかったってこと?」


『はい。』


「わかったけど、その人は魔力が無かったはずだよね?」


『はい。言い伝えによれば魔力はありませんでした。ですが、王族の子孫に二度、疵奈様を含めますと三度生まれ変わりとされる方が現れ、その方々のお話によれば魔力はお兄様や妹様よりも強く、城では最強。開花するのが遅かっただけで本当は3人の中で1番力があったと聞いております。』


「…そうなんだ。」


『疵奈様がお生まれになり10歳くらいの頃、城では次々に王族が亡くなると言う不可解な事が起こりました。疵奈様だけ生き残られ、その後、城を乗っ取ろうとした中枢の者と戦い、疵奈様はお亡くなりになりました。』


「中枢!?」


『はい。この世界を統べる者達です。』


「力強かったんだよね?」


『はい。なぜ亡くなられたのかは定かではありません。ですが、疵奈様は悔いておられました。この世界や城を作ったのは王族。ましてやご自分はアダム様とイブ様のお子様の生まれ変わり。悔いや哀しみ辛さ恨み、全てを1人で抱え1人で戦いお亡くなりに。』


「でも生まれ変わったって事は何かをやり残したから?」


『それは我には分かりかねますが、謝りたかったのではありませんか?』


「誰に?」


『哉汰、美都、紫呂の3人です。あの3人は常に貴方のお側に付いていた者達ですから。ですから分かりやすいよう名も変えず再びあの時と同じ姿で会いに来られたのではと推測致します。』


「…その人達を置いて先に死んだの?」


『はい。1人で行くべきだと我にはそう言っておられました。』


「そっか。何か申し訳ないことしちゃってたんだ。」


『ですがきっと嬉しいはずですよ。生まれ変わりまた出逢えたこと。』


「そうだと良いな。私が死んだ後、3人はどうしたの?」


『疵奈様が残した力を借り、それぞれの精獣に力となる記憶を預け亡くなられました。彼等もまた歴代の中で最強とうたわれていた3人でした。』


「常に3人付いてたの?」


『はい。代々、炎、水、風を受け持ち、その頃の最強と言われていた3名が王族の護衛として付いておりました。』


「長い付き合いだったんだ。」


『はい。とても。』


「…今、城は?」


『あれから五千年近く経った今もまだ誰も居りません。精獣達が城だけはと守っております。』


「私の前の人は?」


『生まれ変わりとされるのは確かに王族の血を引く方ではありますが、城の今後を左右できるほどの権力をお持ちでない方も居られました。今は精獣が守るとは言っても住処すみかのようになっており、精獣達がひれ伏すだけの方は居られませんでした。ですが、疵奈様なら…出来ると思います。』


「私なら…。」


『はい。』


「それが美都が言っていた私が抱える重み?」


『…。』


「まだあるの?」


『はい。』


「…大丈夫だから教えて。」


『…はい。ですがお願いです。疵奈様。次は1人では行かないで下さい。』


「うん。約束する。」


『…1つは千年に一度の災いと言われている物です。』


「知ってるの!?」


『何が起こるかまでは検討も付きませんが、城も限界が近付き、この国に張ってある結界も危ういと思われます。』


「結界は今、誰が護ってるの?」


『精獣達です。疵奈様が城におられる頃に残された力の一部と共に守っております。』


「結界が破れたらどうなるの?」


『我が産まれてから一度も無かったので分かりません。ですが以前話されていたように天候や空気を左右する物である可能性もあります。』


「…。」


『疵奈様。』


「そんな心配そうにしないで約束は守る。」


『はい。』


「その2つ?」


『…すいません。もう一つあります。』


「何?」


『疵奈様は城におられる頃、常に国を作り直そうと考えておられました。』


「国を?」


『はい。今の国の情勢や、生活環境を造りあげたのは今生きる者達ですが、それを自分のせいだと考えておられました。』


「でも今を生きてる者達も何かしら目標や夢があるよ。壊すなんて…。」


『はい。ですが、その者達を産んだのは元を辿たどれば王族、アダム様とイブ様のお子様です。』


「…そっか。」


『疵奈様。今から我が持つ全ての記憶をお返しします。あまり時間もありません。』


「そうだね。どうすれば良い?」


『翼を起こして下さい。』


「翼を?」


『はい。今の貴方様なら可能です。』


「わかった。」


『疵奈様。』


「何?」


『必ず戻ってきて下さい。』


「約束は守るって。行ってきます。翼。」


綺麗な羽根が生えたかと思うと、羽根は疵奈を守るように囲んだ。

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