第13話


本郷の店に着くと、ユピテルからの使者はまだ来ていない様でいつもと変わらない風景ではあったが、それは魔法使いの方だけで一般民の店の方は燃えてしまっているところが多かった。


4人は裏口に降りて、いつも開いている扉から入った。

疵奈は既に羽根を美都に返していた。


「こんにちわ。」


「おお。疵奈ちゃん。よう来たな。」


「本郷さん。大切なお話があるんです。すぐにお店を閉めて貰えませんか?」


本郷は裏で杖を大切そうに触っているところだった。

真剣な眼差しの疵奈を見ると本郷はすぐに店を閉めた。


「これで誰も入れん。」


そう言いながら裏口の鍵も閉めた。

疵奈が来るとき、言われてたように店内を確認した。



「本郷さん。オリジナルの杖の木は何ですか?」


「…どうしてそれを?」


「答えて下さい。」


「…良かろう。昔、美都と取りに行った神の木とも言われておる。そのすぐ近くにある湖に住む龍のヒゲで出来とるよ。」


疵奈が安堵のため息をつくと、2人が先に姿を現した。


「本郷さん。ここもすぐユピテルからの使者が来ます。お店の内部ごと場所を変えて貰えますか?」


「構わんよ。皆で決めたんじゃろ?」


「はい。」


「始めるぞ。」


哉汰と紫呂はもっていた細い棒のような物を床に突き刺した。

しばらくすると店内は緑色の何かに囲まれた。


「哉汰、紫呂。今の物を何処で!?」


「やっぱり知ってたんだ。本郷さん。」


それはオリジナルだけが使える龍の鱗を細く加工した物で特別な術式の際に使う物だった。


店内が全て緑色に変わると、美都が姿を現した。


「お爺ちゃん。」


「美都!?」


「ごめんね。」


「お前が謝る必要はない。悪いのは全て奴等じゃよ。」


「お爺ちゃん。実は私の杖を取りに来たの。」


「もちろん取ってあるとも。」


本郷は抜け出した方法など聞かずに、他の箱とは明らかに違う箱から大切そうに杖を出した。


「よう絶えてくれたの。」


「一番辛いのは私達じゃないからね。」


「…どう言うことだ?」


「私の知ってるオリジナルのこと。全てお話します。」


「知ってたのか!?」


「はい。岩牢に入る前、お爺ちゃんから渡され読んだら燃やすようにと言われた本が全ての歴史がつづられ、中枢の者がほっする物が全て書かれた物でしたから。」


「なら話せば良かったんじゃないの?そこまで拷問を受け続ける必要があったとは思えない。」


「そこまで聞くとそうだと思います。ですが、その本には先程お爺ちゃんが言っていた龍の居場所、オリジナルの見分け方、レプリカでも使用が出来るオリジナル特有の攻撃魔法等々、後は歴史が記されている物でした。それを中枢の者達に話せばどうなるかなど目に見えていましたから話しませんでした。」


「待って。龍は簡単に人前に姿を現すの?」


「いいえ。その時には既に私に力の欠片のような目覚めがありましたので、出逢えただけのこと。中枢の者に知れようと姿は現しませんが、容赦がない者達ですから森を焼く可能性もありました。」


「だから言わなかったの?」


「はい。」


「けど、そこまでする意味があるのかよ。死にかけたんだろ?」


「はい。千年に一度の災いの話はご存知ですか?」


「何となく。本当かは知らないけど前の時は神聖な森が死んだとか。」


「はい。本当のことです。疵奈さん。ここからのお話、貴方には辛いかもしれません。よろしいですか?」


「…はい。」


「美都よ。先に力を戻しなさい。話の途中に何かあってからでは戻すにも時間がかかる。」


「はい。」


美都は本郷に言われると、店内部の空間を迷宮の森の奥に降ろし周りから見えなくなる結界を張った。


「風ってそんなこと出来るんだな。」


「2人にもそれなりの能力はあるはずです。私は記憶が先でしたので可能であっただけの話ですから。」


「美都。」


「…はい。疵奈さん。」


「はいっ。」


「貴方の力の解放を行えば、貴方が一番辛い記憶を持たなければいけません。それを許して頂けますか?」


「許す?」


「はい。これを行えば疵奈さんには全ての記憶が戻ります。私が知る歴史もきっと見えるでしょう。ですが、その記憶はあまりに辛く、また昏睡状態となります。1日で戻る方もいれば1ヶ月かかる方も居られます。」


「…死ぬわけじゃないんですよね。」


「それは決してあり得ません。ですが、強い心を持たなければ帰ってこられない事はあります。」


「待てよ!!」


「紫呂。」


「何で落ち着いてられるんだよ!!哉汰!!」


「歴史も何も知らないけど疵奈には何かあるとは思ってた。僕らが何か言ってどうにかなることじゃないって事だよ。僕も変われるなら変わってあげたい。」


「簡単に言わないで下さい。疵奈さんと私達では天と地の差があるのです。貴方方が変わろうとも1ヶ月以上、いいえ一生かかるでしょう。」


「疵奈が王族の血族って事?」


「…はい。ですが、それを中枢の者が知っているのはおかしな話です。」


「憶測だろ?オリジナルを見たことはないけど、どの国にも王は存在する。それなりのオーラでも持ってたからじゃないのか?」


「なるほど。それならありますね。」


「美都。」


「ごめんなさい。長々話過ぎました。」


「…私なら大丈夫。これで誰かを助けられる力が手に入るのであれば尚更。」


疵奈は迷いなくそう言った。


「杖を出して下さい。」


美都以外の3人はそれぞれ杖を出した。


「杖の先端を集わせ、私に続いて下さい。」


3人はそれぞれ呼吸を置くと杖の先端を集わせた。


「我の誠の力を示せ。」


「「「我の誠の力を示せ。」」」


「我、汝と共に生き」


「「「我、汝と共に生き」」」


「再び闘う」


「「「再び闘う」」」


「誠の力、再び我に戻したまえ。」


「「「誠の力、再び我に戻したまえ。」」」


呪文が終わると、紫呂を青い光が、哉汰を赤い光が、疵奈を純白の光が包んだ。

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