第12話


しばらくすると…。


焰の背中に乗った2人が来た。


「こんな所で何してんだよ!?」


声を上げたのは紫呂。

疵奈は咄嗟とっさに自分の手で紫呂の口を塞いだ。


「疵奈?」


「私の精獣が教えてくれたの。そこの人1人が通れる穴から岩牢が見える。あんまり大きい声出すと聞こえるかもしれない。風閒さんだって。」


「覚醒したの?」


疵奈は首を横に振った。


「まだだけど、話してくれたの。」


3人はこそこそ話した。

先程の紫呂の声は聞こえていなかったようだ。


「どうする?」


「まだ拷問受けてた。ユピテルから大分遠いから問題ないかもしれないけど、殺したくない。」


疵奈の話に2人も悩んだ。


「ねぇ。迷宮の森って野犬とかいるのかな?狼とか。」


「凶暴なのがいるって授業で言ってたよ。一般民は特に危ないから絶対に近付こうとしない。レプリカでも厄介だって。」


「焰って遠吠えできないかな?」


「逆に居場所がバレるかもしれないだろ。」


「でも穴の大きさは人1人が通れるかどうかしかないんだよ。何年も前からあるなら空気穴みたいな感じだと思ってるのかもしれない。」


「疵奈。そこ行かせてって。」


哉汰に言われ、疵奈が退くと焰は野犬ほどの大きさになっていた。

そして構わず、穴に顔を突っ込み可能な限りの威嚇を始めた。


炎乃矢ウズージェン。」


爆発ポグバル。」


シェーン。」


攻撃の音と、岩が崩れる音が激しく響いた。

しばらくは拷問をしていた者達も攻撃して応戦していたが、焰が遠吠えすると血相を変え逃げ出した。


「大丈夫!?」


『行った。』


焰が顔を引くと、疵奈が心配で傷がないか確かめるようにしてきた。


「疵奈?」


「ごめんなさい。他に方法分からなかったからケガとかない?私の声って聞こえてる?」


焰は頷く仕草を見せると、哉汰の肩に戻ってしまった。


「怒らせた?」


疵奈はビックリして、申し訳なさそうに哉汰に聞いた。


「全然。恥ずかしかっただけだと思うよ。普段は素っ気ないし、面倒くさがりだけど照れ屋なだけだから。」


『黙れ。』


「焰も大丈夫だってさ。心配してくれてありがとうって。」


「良かった。」


『余計なことを。』


疵奈はまた迷わず、匍匐前進ほふくぜんしんで行こうとした。


「疵奈。先に行っても通れないかもしれないから壊さないと。」


「そっか。ごめん。」


「俺が行くよ。あいつらは戻ってくる可能性があるからな。」


そう言って紫呂が入っていった。


水爆発ムイポグバル。」


ドゴォーン…。

砕けた穴から中に降りると、無残な姿の少女がいた。


「誰?」


「俺は紫呂。風閒かざま美都みとか?」


「私は何も知らない。」


「もう大丈夫。助けに来たから。水刀ムラサメ。」


紫呂は手を刀に変え、四肢の鎖を切ると、自分が着ていたローブを少女にかけた。


「ちょっと我慢しろよ。濁流マッディ。」


岩牢の中に水が溜まり始めた。

先程の兵達が逃げた方には頑丈そうな扉があり、しばらくすると降りてきた穴に辿り着いた。


「疵奈。」


「大丈夫。」


先に美都を通し、無事を確認すると紫呂も戻った。


「ちょっと待ってて。」


紫呂はまた笑顔で穴に入った。


爆発ポグバル。」


ドゴォーン…!!!!!!


先程よりも遥かに大きい音が響いたかと思うと、紫呂が出てきた。


「何したのさ。」


「とりあえず離れよう。迷宮の森の奥に行けば誰も来ない。」


「でも風閒さんは歩けないよ。」


「「つばさ。」」


紫呂と哉汰がそう言うと背中から綺麗な羽根が生え、哉汰が疵奈に、紫呂が美都に手を差し伸べた。

美都が驚きもせず手を掴むと、疵奈も同じようにした。


しばらく木々の間を飛んで森の奥まで来ると、4人は地上に降りた。


「急に悪かったな。」


「助けてくれてありがとうございます。」


「…もしかしてとは思うけど覚醒してる?」


哉汰は真顔で聞いた。


「はい。仲間ですよね?水と…。」


美都は哉汰と疵奈を交互に見ている。


「炎だよ。」


「貴方が…ご無事で良かった…。」


美都は疵奈に近付き手を取った。


「オリジナル同士は覚醒すると分かるわけじゃないの?」


「…精獣に聞いてないですか?紫呂と…。」


「ごめん。哉汰だよ。穂村哉汰。」


「ありがとうございます。哉汰は攻撃系です。私が守護するのは風。どちらかと言えば癒やしとか防御の方を得意としています。風関係の防御を得意とする力は気配も簡単に消せます。」


「色々知ってそうだね。」


「その前にお爺ちゃんの所に連れてって下さい。私1人で行こうにも今、逃げてきたばかりではありますが危険です。」


「本郷さんのこと?」


「知っているのですか?お爺ちゃん、あれから大丈夫でしたか?」


「…何もなかったよ。」


「優しい嘘をありがとうございます。とにかく早くしましょう!!」


「待て。今行けばお前を探してる奴も多い!!」


「一番に行くのは多分お爺ちゃんの場所です。その前に助けに行きたいんです。」


「連れて行こう。」


疵奈が美都の見方をした。


「けど疵奈。どれだけ危ないことか分かってる!?」


「分かってる!!だけど今動かないと結局同じだよ!!」


「…分かったよ。」


「もちろん作戦はあるだろうな。」


「もちろんです。私は姿を消す事が出来ます。」


「待て。お前だけが姿を消せても意味ないだろ。疵奈はともかく、俺と哉汰はオリジナルの兵士としてユピテルにいる。」


「最後まで聞いて下さい。私は姿を消す術をもってます。それが風特有の力です。私の一部に触れていれば他の者も数名ですが消す事が出来ます。お爺ちゃんの所までは問題なく行けます。」


「なら私が本郷さんと話す。」


「考えてる時間はないよ。行こう。」


3人は翼を生やし、美都から渡された羽根を持ち、疵奈は哉汰が連れ本郷の店に急いだ。

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