第11話


【紫呂SIDE】


しばらく走ると、湖があり、そこで足を止めた紫呂。


「やっぱ俺弱いな。」


そう呟きながら湖を眺めていた。



【疵奈SIDE】


少し走ると洞窟のような所があり無我夢中で入っていった疵奈。

入ってすぐ石につまづき、その場に座り込んだ。


「…風。」


洞窟の奥の方から風が吹いていたのに気がつき、疵奈は奥へと進んだ。


しばらく進むと微かな光と人の声がした。

だが、その声は怒号と悲鳴にしか聞こえない。


疵奈は恐る恐る近付き、人1人がギリギリ通れるような小さな穴から覗いた。


「いい加減にしやがれ!!てめぇが吐かねぇと何も出来ねぇだろぉが!!!」


「本当に何も知らないんです。…ぎゃぁああああぁ!!!」


両手足を縛られ、血だらけで細い女の子を何度もムチで叩いている大柄な男性とその後ろにも2人ほど居るように見える。


その空間はランプが1つあるだけの岩牢いわろう

目をこらして見ようにも見付かる恐れもあり、疵奈はその場から動けないでいた。

どうにか助けられたらと思うが、何が出来るわけでもない。


疵奈は自分の無力さを悔やみ、ただ見付からないようにすることしか出来なかった。



【哉汰SIDE】


しばらくえんに体を預け休んでいると、下に落ちていた木の葉を舞い上げる風の音で目を覚ました。


「…焰。」


『少しは落ち着いた?』


「…本当に少しだけどね。」


『少しでも良くなればいい。探しに行かないのか。』


「そうだね。」


哉汰は少し寝たことで吹っ切れたのか、いつもの雰囲気まで回復していた。


「焰。久しぶりに乗せて。」


『乗れ。』


「行こう。焰。まずは紫呂だ。」


『珍しい。娘から行くと思った。』


「そうしたいけどさ。僕は強がりなだけだからね。紫呂が傍にいるのが分かってるから出来ることの方が多いんだよ。紫呂のおかげで色々出来てる。紫呂が無茶してくれるから出来てるんだよ。」


『何かあった?』


「別に。ただ夢見てたかも。」


『…夢?』


「そう。夢。何かあった?」


『覚醒が近いのかもしれない。』


「疵奈の?」


『そこまでは分からないがな。』


2人は話ながら焰が紫呂の方角を匂いで辿った。



【紫呂SIDE】


湖の傍で寝転がっていた。


「…そろそろ戻るか。」


『紫呂。』


「イオン!?何処にいるんだよ!?」


紫呂はイオンの声に勢いよく起き上がり、周りを見渡した。


『すまない。痛手を負った。炎は消せたしヤツは倒せたけど姿を現せる状態じゃないんだ。許せ。』


「声が聞けただけで良いさ。」


『魂の揺れを感じた気がした。大丈夫なのか?』


「平気だよ。さんきゅ。」


『娘は無事か?』


「…ああ。大丈夫だ。」


『紫呂。嘘だな。お前は嘘をつくと声少し高くなる。』


「んな事ねぇよ。」


『まぁ良い。今は問題なさそうだ。』


「イオンの声が聞けたからな。」


『紫呂。俺は今はまだ水の傍でしか話は出来ない。』


「良いよ。約束は守ってくれた。姿が見えなくても一緒にいるって事だ。」


『…強くなったな。出逢った頃より遥かに強く。』


「…哉汰や疵奈のおかげだ。もちろんイオンも。俺が滅茶苦茶出来るのは傍に2人がいるのを分かってるからかもしれない。」


『なら行け。俺はずっと傍にいる。』


「イオン。」


『何だ?』


「また話せるよな?」


『当たり前だ。』


紫呂はいつもの好奇心旺盛な子どものような顔に戻っていた。


「…どうやって探すかだな。…そうだ!!」


紫呂は目を閉じ集中した。

前にお揃いで買ったネックレスは、紫呂と哉汰の念が込められているので場所を探せるためだ。


「哉汰はこっちに向かってる。けど疵奈は洞窟…?」


紫呂は悩みながらも疵奈がいる方向へ足を向けた。



【疵奈SIDE】


あれからずっと拷問は続いていた…。


「私には…何も出来ない…。」


疵奈は人1人が入れるくらいの隙間に匍匐前進ほふくぜんしんで進んだため、動こうにも動けないでいた。


「気付かれるかもしれないから動けない。…結局、自分が一番可愛いんだ。紫呂の言ったとおりだよ。」


『それ以上、心を闇に囚われないで下さい。』


疵奈はハッとした。


「…話せるの?」


『貴方の覚醒も近付いています。ですが心が闇に囚われそうな今、危険と思い、出て参りました。』


「貴方が私の精獣?」


『そうなります。』


「私はどうすれば良いの!?」


『今はまだ絶えて下さい。』


「だけど死んじゃうよ。」


『彼女は死にません。』


「…もしかして!?」


『はい。彼女が最後の1人。風閒かざま美都みとです。』


「どうして!?尚更助けないと!!」


疵奈は驚いて大きな声を出してしまったので両手で口を塞いだ。


『どうかされましたか?』


「助けようにも見付かったら意味ないでしょ!」


小声ながらも叫ぶように話した。


『精獣との会話は聞こえませんよ。』


「それは貴方だけでしょ!?」


『いいえ。私は貴方の心の中で話をしているのです。貴方もまた心の中で話しています。声など外には聞こえません。オリジナルは別ですが。』


「…良かった。」


疵奈は安堵のため息をついた。


「ねぇ。知ってたら教えて。岩牢は迷宮の森の中にあったって事?」


『はい。中枢の者や、他のレプリカは知らないでしょうが、岩牢はユピテルから遥か離れた場所にあり、地下を通ってしか来られません。』


「知らずに迷宮の森の下に岩牢を作ってたの!?ならここは?」


『昔誰かが逃げるためにでも作ったのでしょう。それか野犬の仕業か。そこまでは知りません。』


「そっか…。」


『…2人が来ました。少しだけ音を聞こえなくします。その間に下がって下さい。』


「…もっと話したい!!」


『今は優先すべきを。』


「…はい。」


疵奈は声が途切れると、真剣な面持ちで後ろに下がった。

所々で岩肌が崩れたが、気付かれた気配はない。

後ろに下がってしまい、ある程度の空間まで戻った。

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