第10話


「どうした?」


哉汰と紫呂もそれぞれの精獣と話をしている。

疵奈は何かに気付いたのか森を出ようと走った。


「疵奈!!」


2人は精獣を肩に乗せ、疵奈を追いかけた。


疵奈は無我夢中で走り森を抜けた。

迷宮の森を抜けるには、それなりの力の持ち主でなければ不可能。

哉汰と紫呂もたまに迷ってしまうほどなのに2人は驚きを隠せないでいたが、それよりも疵奈の様子がおかしい。


「哉汰。すぐ戻って。」


「何で?」


「良いから早く!!」


言い合いをしていると、疵奈が向かった街の方で爆発が起こった。


「哉汰。先に行く!!」


紫呂がホウキに乗り、飛んでいこうにも何かにぶつかって進めない。


「紫呂!?」


「結界?」


哉汰が近付くも同じく壁に当たり転けてしまった。

疵奈は2人を無視して走り出した。


「疵奈!?」


疵奈は2人が当たった壁を越え走り続けた。


「翼ぁー!!!!!」


何を感じているのか、疵奈は走りながら何度も叫んだ。

体は軽く浮くもののすぐに落ちてしまう。


『お下がり下さい!!』


「こんな時に助けられなくちゃ意味ないでしょ!!」


『いけません!!』


疵奈は石につまづき転んでしまった。


紫呂と哉汰の前にあった結界はいつの間にか無くなっていて疵奈に走り寄った。


「疵奈。乗せるから。」


そう言ってホウキを出した哉汰に紫呂が続いた。

2人は空へと上がった。


すると、疵奈の家の方は無事だったが、少し離れた街が焼け野原となっていた…。

そこには炎を吐くドラゴンが街を焼いているように見える。


「イオン。何してる?」


紫呂の精獣が勝手に元の姿に戻ろうとしている。


『俺が行く。』


「何でだよ!!」


『このままではすべて焼き尽くされるぞ。疵奈という娘が必ずかなめになる。失ってはならん。』


「なら皆で行けば良い!!」


『他国の者であろう。奴等はそう簡単には引かん。』


「誰かを殺すまでって事か?」


『そう考えるのが正しかろう。俺は死んでもまた生き返ることが出来る。だが、主等が死ねば、この世界は終わり。紫呂。』


「必ず帰ってくると約束しろ。」


『当たり前だ。』


紫呂は拳を強く握りしめた。


「待ってる。」


イオンは元の姿に戻り、焼け野原となっている街へ向かった。

魔獣は人を襲うものもいれば助ける者もいる。オリジナルとの関係性など気づく余地もない。

3人はただその風景を眺めていた。


豪雨ホーン。…一度森に戻ろう。」


紫呂はそう言うと森の方に戻った。

哉汰は黙って従った。

先程いたところまで戻るが誰も喋らない。


「…ごめんなさい。私が…。」


沈黙を破ったのは疵奈だった。


「イオンは疵奈を守れって言ってた。俺もそれは正しいと思う。」


「守られてばかりじゃ嫌だよ。何も出来なくて誰かが死んでいくなんて見たくない。」


「きっとそれが必要なことなんだよ。」


「…森からは出ないから少し1人になりたい。」


「…仲間だろ?言いたいことがあるなら言えよ。」


「紫呂。無理に聞く必要はないよ。」


「哉汰は甘すぎるんだよ!!いつ世界が壊れるかもわからねぇんだぞ!!」


「言われなくたって分かってる!!だけどどうすることも出来ないじゃないか!!」


「2人とも止めてよ!!私が悪いの!!それで良いじゃない!!誰も悪くない!!」


「そうやって自分は可哀想だと思って欲しいだけだろうが!!」


「…そんなこと…。」


疵奈が固まってしまった。


「悪い。頭冷やしてくる。森にはいるから。」


紫呂は立ち上がり何処かに行ってしまった。


「…ごめんなさい。私の周りは誰も死んでないのに分かったような口聞いて。」


「疵奈は悪くないよ。もちろん紫呂も。」


「でもっ…。」


「一度僕らから離れる?」


「…どうして?」


「この2日で色々ありすぎたからだよ。疵奈も落ち着きたいでしょ?」


「…やっぱり2人も離れていくんだね。」


「疵奈!!違うよ!!」


疵奈はそれだけを言い残し走って行ってしまい、哉汰は追うことが出来なかった。


えん。」


『何?』


焰は手のひらサイズから人が乗れそうなくらいのサイズになり、哉汰に寄り添った。


「本当に僕らが救えるのか?」


『他にいない。誰が欠けても出来ない。』


「分かるけど。」


『この世界で一番の苦しみや憎しみを背負うのはオリジナル。前にも説明した。』


「分かってるさ。」


『哉汰はどうしたい?』


「…止められるなら止めたいけど、紫呂も疵奈も本郷さんのことも好きだから失いたくないんだよ。」


いつも冷静な哉汰が弱気になっていた。

三角座りをし、そこに顔を埋めて話した。


『ただのワガママ。』


「分かってるさ。」


『哉汰。聞きたいことがある。』


「何?」


『親が死んだとき、覚醒しようとしたのに何で止めた?』


「…分からない。ただ駄目な気がしたから。答えになってないかな?」


『言ってることは何となく分かる。哉汰はいつだって優しい。疵奈や紫呂のことを一番に考える。それは例え自分を犠牲にしても。』


「悪い?」


『良いから聞いて。』


「はい。」


『僕がいた精獣達の世界は炎を守護する者ばかり。イオンに逢ったのだって哉汰に出逢った後。炎の主は大抵気が強くて粗削りわがままで自由奔放。だから哉汰みたいなヤツは始めて。僕も長く生きてるけど、どう扱えば良いか分からないときがある。』


「ごめん。」


『誰かには本音で接したりしないと辛くなる。これから先は更に。』


「…。」


哉汰は焰に体を預け少し目を閉じた。

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