第9話


「ねぇ。いくつか試したい事があるの。」


「何かあんのか?」


「出来るか分からないけど…。」


「やってみよう。可能性があるなら尚更ね。けどさすがに明日だよ。僕達はここに居るから。」


「…いつ寝てるの?」


「覚醒してからは寝ても寝なくても平気になったんだよ。」


「逆に大変。」


「やることは山ほどあるから楽だけどな。」


「とにかく。明日起きたらで良いから来て。」


「うん。」


疵奈は嬉しそうに帰って行った。



家に着くと夜中にも関わらず母親が起きていた。


「おかえり。」


「ただいま。」


「大丈夫?」


「うん。お母さん。私ね、ここに残りたい。ワガママかもしれないけど、友達も出来たの。」


「そう。構わないのよ。言ってくれてありがとう。」


「お母さん…。」


疵奈は母親に抱きつき、しばらくすると部屋に戻って寝た。



翌朝。

とは言っても昼頃。

疵奈は眠い目をこすりながら降りてきた。

父親はユピテルの人手不足の関係で簡単な仕事が大量にシーチェに回されているため休みなどない。


「おはよう。」


「おはよう。」


母と挨拶を交わし、顔を洗いに行く。

服は着替え終えていたのでテーブルに着き朝ご飯を食べた。


「疵奈。」


「何?」


「あまり夜更かししないようにね。」


疵奈は朝が弱い。


「うん。ごめんなさい。」


「疵奈にも苦手な事あったんだな。」


その声に驚き、目が覚めた。

疵奈が座る場所の向かいに座るのは紫呂と哉汰。


「何で!?」


「遅いから大丈夫かと思って近くに来てたら母親がどうぞって言うから邪魔した。」


「男の子のお友達だとは思わなかったわ。お父さんが知ったらヤキモチくわね。」


「お母さん。」


「ダメだった?」


「…ダメとかじゃないけど…。ごめん。すぐ用意するね。」


疵奈は急いでご飯を食べ、一度自分の部屋に入ったかと思うとすぐに出てきた。


「ご飯くらいゆっくり食べなさい。」


「あっ。ごめんなさい。」


「でも疵奈が楽しそうな方が大切だもんね。気を付けてよ。」


「ありがとう。」


「お二人もまた来て下さいね。」


「ありがとうございます。」


「いってきます!!」


3人で家を出て高台に向かった。


昨日と同じように太い木の枝に登る3人。


「まさか来るとは思わなかったよ。」


「居場所は分かるけど相手の状況が分からないのが難点だからね。覚醒したら通信テレパスが使えるから良いんだけど。」


「杖は?」


「もう取りに行った。」


紫呂は直った杖を見せながら言った。


「そっか。」


「で?まずはどうするんだ?」


「うん。私、高いところから飛び降りた時に声が聞こえたの。もう一度話したくて何度も語りかけてるんだけど、反応がないから。」


「…だから枝から飛び降りるっての?」


「そう。」


紫呂と哉汰はアイコンタクトを交わすと下に哉汰が降りた。


「良いよ。」


疵奈は深呼吸をしてから飛び降りた。


だが何も起こらないまま地面まで着いた。


「何度か試してみたら?もう少し高いところからとか。」


2人も協力的だった。


だが何度飛び降りても声は聞こえない。


「あの時だけだったのかな…。」


少し休憩するために木の上に乗った。


「その時、死にたいとか思ってたんだろ?」


「…うん。」


「それが関係してるとかねぇの?」


「あるの?」


「まぁ精獣は主を守るのが仕事みたいな感じだからね。」


「…そっか。」


「後は?他に声が聞こえたときとかないのか?」


「…前に洗濯してたとき聞こえた。」


「洗濯?」


「僕達が近寄ったとき?」


「そう。話したかったけど…出来なくて。その時、聞こえたの。」


「疵奈の精獣は恥ずかしがり屋なのか?」


「精獣にも性格とかあるの?」


「あるよ。源としてる力もある。僕の場合は、狼で力は炎。性格は冷静で面倒くさがり。」


「俺の場合は龍で水。相当やんちゃ。それぞれ源としてる力が一番得意だったりするんだ。」


「私は何だろう…。」


「迷宮の森行くか。」


「何しに?」


「ここでは目立ちすぎるから俺達の精獣を出そうにも出せないからな。」


「それなら賛成。疵奈、今日の予定は?」


「大丈夫。」


「なら行こうぜ。」


紫呂がそう言うと、どこからかホウキを出して来た。


「羽根で飛ぶとバレるからね。」


そして哉汰も同じようにホウキを出した。


「疵奈。乗って。」


「…重いよ。」


「関係ないよ。早く。」


疵奈は恐る恐るホウキに乗り、哉汰に捕まった。


「そんなに抱きつかなくても落ちないよ。スピードも出さないしね。」


「…ごめん。」


「行くよ。」


2人が軽く前屈みになり、木を蹴るとホウキは空高く上がった。


「すごい。」


「そんなに喜ぶならもっと早く乗せてあげれば良かったね。」


疵奈は目をキラキラさせて喜んだ。


「重くないの?」


「全然。」


2人は迷宮の森と言う魔獣が出ると噂のある誰も立ち入らないところへ向かった。


空を飛んでいると人は小さく見え、ユピテルや他の街を見渡せた。

迷宮の森までは結構な距離があるのだが、以外と早く着いた。


「こんなに近かった!?」


「歩いたら1日はかかるよ。」


「そっか。」


森の中程で2人は降りた。


「さてと。」


ホウキをしまうと早速2人は腕に手をかざし、精獣を出した。


「元の大きさに戻れ。」


えん。君もだよ。」


2匹の精獣はそれぞれ水と炎に包まれ、森の大きな木と変わらない大きさに戻った。

疵奈が見上げていると2匹は顔を近付けてきた。


『主っ。逃げて下さい!!』


「お願い。話をさせて!!」


『とにかく今は逃げて。』


急に声を発した疵奈に2人は驚いていた。

そして2匹の精獣も様子がおかしい。

周りを警戒しているのか、すぐに手乗りサイズに戻ってしまった。

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