第8話
「昔の話にはなるんだけどね。知っておいた方が良いことでもあるから。」
疵奈は枝に座り直し、真剣な眼差しを向けた。
「僕と紫呂は元々近所で本郷さんとも力が目覚める前に知り合ったんだ。」
哉汰は思い出しながら話し始めた。
「僕らが本郷さんと出逢った時はまだユピテルの外に住んでいて、風閒さん一家はユピテルの近くに住んでたんだって。」
疵奈は静かに話を聞いている。
10年近く前、本郷のお店は小さな哉汰と紫呂にとっては遊び場も同然。
本郷は美都と同じくらいの2人をとても可愛がった。
小さな2人にとっては平凡でとても幸せな暮らしだった。
だが事件は起きた。
中枢の命令で風閒家に何人もの魔法使いが現れ、一家を連れて行き、拷問が始まった。
両親、そして美都には両手足を拘束されムチで叩いたり、殴ったり、食事を与えなかったりで、しばらくしてレプリカの力しかなかった美都の両親は亡くなった。
だが覚醒もしていなかったはずなのに美都だけは生き延びていた。
美都の両親が亡くなった話は本郷の耳にまで届いたが、事故と言うことになり本当のことは知らされなかった。
美都を引き取ろうにも出来ないと言われ、怪しく思った本郷が調べると真実が見えてきた。
本郷は怒りを露わにして、ユピテルに乗り込んだ。
許可のない者がユピテルに入ることは出来ず、無理矢理入ろうとしていた本郷は攻撃を受けた。
それを少ししてから知った哉汰と紫呂はすぐにユピテルに向かった。
その時、2人は既に魔法が使えたのでホウキに乗り急いでユピテルに向かった。
だが幼い2人が魔法を使える事で中枢の者達は2人を捕まえ牢獄に入れ、2人にも拷問を開始した。
しばらくして、2人に覚醒の
もちろん2人はすぐユピテルの外にある家に向かった。
お互いの両親とも面識があったので構わず家に入った。
最初に向かったのは紫呂の家。
扉を開け、声を上げても反応がなく異様な臭いに2人は恐る恐る台所の方へ向かった。
そこは血の海と化していた…。
イスの近くと台所に無残に散らばる血肉や骨。
獣にでも食い荒らされたような感じで、微かに残る指や顔の一部は見るに堪えない物だった。
紫呂はその時に奇声を上げ、完全に覚醒した。
哉汰は急いで自分の家も見に行ったが、似たような感じだった。
そして2人は思い出したかのように本郷の店に行った。
表には鍵がかかっていたので、裏口から入ると息絶えそうな本郷が血まみれで横たわっていた。
紫呂は精獣に言われるがまま翼を出し、1枚抜くと本郷の手を刺した。
魔術に死にかけの者を
本郷が落ち着いてから少しの間話をすると、2人はユピテルに戻った。
ある強い思いを胸に秘めて…。
話が終わる頃、紫呂が姿を現した。
疵奈は怯えるどころか怒りを露わにしていた。
「疵奈?」
「やっぱり助けよう。風閒さん。」
そう強く言い放った。
「疵奈。話聞いてたのか?向こうにはまだ隠してる物がある可能性があるんだ。それが分かるまでは待て。」
「でもっ…。」
「疵奈は恐がると思ったよ。」
そう言って笑う哉汰。
「無理に笑わないでよ。哀しいときは泣いても良いんだよ。辛いときは頼って良いんだよ。」
「…まさか疵奈に言われるとは思わなかったよ。」
「…哉汰。」
哉汰は下を向き、静かに涙を流した。
それを見た紫呂は隣に行き肩を貸した。
「哉汰。あの時、ありがとう。お前も泣きたかったんだよな。」
「紫呂が暴走しようとするからだろ。僕まで泣いたら誰が止めるのさ。」
「だからありがとう。」
紫呂も少し泣いてるように見えた。
「疵奈。」
「はい。」
「オリジナルは1人でも欠けると千年に一度の災いを止められなくなる。無茶はしてもいい。でもそれだけは絶対忘れるな。」
「分かった。」
「俺も哉汰も、もう誰も殺したくない。だから無茶すんなって言ったんだ。」
「うん。」
「…変わったな。」
「何が?」
「今の話聞いて自分の中の迷いが消えた感じだ。」
「なら話して良かった。」
哉汰は今まで絶えていた分泣き続けた。
紫呂はそんな哉汰に肩を貸したまま。
疵奈はその光景を嬉しそうに見ている。
「紫呂。知ってたら教えて。」
「おう。」
「千年に一度の災いって何が起こるの?」
「可能性として一番高いのは結界だ。」
「結界?国を守ってる結界のこと?」
「そうだ。割れるのかもしれないし、消えるのかもしれない。それがどうなるかはまだ分からない。けど結界がもし消えたり割れたりしたら魔獣やもっと多くの国から攻撃される可能性だってある。」
「待って。今、私達や周りの国の他にも人がいるってこと?」
疵奈達が住む地はいくつかの国があるが、それ以外は何も無いとされている。
「ただの憶測だ。精獣の話、じいちゃんの話と古い本を読んで哉汰と俺で最悪の場合を想像しての話だ。」
「…そんなことになったら皆死んじゃう…。」
結界は空気や天候、ここの人々が生きるため最も重要なを物だとされている。
「そうならないための俺達だ。」
紫呂は強くそう言った。
「最も最悪な場合を考えた方がこっちも策を考えられるからね。中枢の人達はいつだって叩けるけど今は覚醒が先。」
哉汰が落ち着いたのか話に加わってきた。
国を守る結界の外には誰も出たことはなく、外に国があったとしても誰も知らない。
そのようなことが書かれた歴史の本も何処にも存在しないのだ。
3人はこれからのことを考えることにした。
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