第7話
紫呂はどう答えるべきかと頭を悩ませていた。
「親父さんって何の仕事してんだ?」
「シーチェにいます。」
シーチェとは街の民がユピテルに異動するための契約をしたり、ユピテルへの仕事を頼みに来たりするところである。
他にも色々と行っているが、仕事としてはユピテルに一番近い支部のような所だ。
「そっか…。」
「紫呂。戻ったよ。」
「おかえり。哉汰。」
「今日はそろそろ休憩…疵奈!?」
「上がって来いよ。」
「
哉汰は2人が乗る木の枝の隣の枝に乗った。
「親父さんがシーチェの人間でユピテルに呼ばれてるんだと。」
「引っ越すって事?」
「まだ確定ではないんです。でも…今日の話を聞いた後なので断るのも怖くて。」
「一般民にまで頼るってどこまで焦ってんだよ。」
「…仕方ないのかもしれないけどね。」
「何か知ってんのか?」
「さっき
「は!?何で!?」
「中枢の人達も限界って事だよ。違いがあるって言っても目に見える違いはないからね。王族ともなれば尚更だよ。誰が王族かなんて僕達も知らないんだから。」
「優秀な一般民を拷問しようってのか!?」
「そこまでは分からない。でも行かなかったらって言うのも視野に入れてると思うよ。」
「…そんなっ。」
「疵奈。明日も休みだよね?」
「…はい。」
「また本郷さんの所に来られる?それかここ。」
「ここなら来られると思います。」
「なら今日は遅いから帰ろう。」
「でも私の力さえ覚醒すれば何か見えるかもしれないんですよね!?」
疵奈は涙目になっていた。
「焦ってもダメ。約束したはずだよ。無茶はしないって。」
「けどっ…。」
「疵奈。遅くなっても大丈夫?」
「…はい。」
「哉汰。あの話ならまだ止めろ。」
紫呂は真剣な顔をしていた。
けれど、哉汰もまた真剣だった。
「これ以上話して何になるんだよ。覚醒もしてない。心も不安定。真実を話しても壊れるかもしれないだろう!?」
「紫呂の言うことも分かるよ。だけど千年までもう時間はないに等しい。中枢の思惑通りな気がするのは僕も嫌だけど、1人でも多く覚醒を早める方法をやっていかないと何ともならないよ。」
「止めて下さい!!!」
疵奈が2人の言い争いを止めた。
「ごめん。」
「悪い。」
「私の方こそすいません。でも2人のケンカは見たくないです。」
「疵奈はどうしたい?」
紫呂と哉汰は顔を見合わせ微笑むと枝に腰かけた。
「私…ですか?」
「そう。疵奈はどうしたいの?」
「私は…。」
疵奈は下を向いてしまった。
「きっと今までずっと自分のことは後に考えてたよね。」
哉汰に言い当てられたのに驚いたのかまっすぐ哉汰を見た。
「きっと疵奈の両親も疵奈のワガママが聞きたいと思うよ。」
「…私は…。」
「疵奈言ってたよね。話すことで嫌われたくないって。僕は絶対疵奈を裏切らない。1人にさせない。」
「は!?俺もだよ。」
「だから僕達を信じてよ。疵奈。」
哉汰の笑顔はいつも見透かすような笑顔だ。
「…私…ここに居たい。本郷さんとももっと話したいし、2人とも仲良くなりたい。でも…。」
「でもとか言わない。」
「…はい。」
「居ればいいよ。お父さんだけ異動になったとしても守るから。」
「私も…2人を守りたい。私にそんな力があるなら守りたい。」
「大丈夫だよ。疵奈。風閒さんの事もちゃんと考えてる。疵奈は覚醒に集中してくれる?それが僕らを守るって事だから。」
疵奈は強く頷いた。
「信じる…。」
疵奈は小声で呟き、2人は笑顔で見ていた。
「そうだ。紫呂。今日買った石は?」
「ある。」
紫呂はポケットから石の着いたネックレスを出した。
「やるよ。」
「え?」
「この国の護り石なんだってさ。僕らも同じ物買った。」
そう言って2人は首からしてる青い石のネックレスを見せた。
「綺麗…。…私何もない!」
「良いじゃん。」
「そうそ。貰える物は貰っとけ。」
「…ありがとう。」
疵奈は嬉しそうにその青く光るネックレスを付けた。
「後は疵奈が決めればいいよ。その石には僕らの呪文が
紫呂が声を上げて笑った。
「何さ。紫呂。」
「いや。今の言葉、無茶しても良いって聞こえるから。用心深い哉汰にしては珍しいと思ってな。」
「僕らが元々無茶しかしないからね。」
「確かにな。」
「…良いの?」
「何が?」
「約束したのに。」
「仕方ないからね。疵奈は人のために動く子だろうから。」
「…ありがとう。」
「ただし。」
「はい。」
「無理矢理な無茶はしないこと。」
「それ一緒だろ。」
3人は楽しそうに笑い合った。
「2人はどうやって覚醒したの?」
「どうだっけ?」
「僕は普通に生活してたらいつの間にか覚醒してたよ。」
「良く覚えてんな。」
紫呂は頭を悩ませた。
「思い出せなかったら全然大丈夫です。」
「悪い。また思い出しとくよ。」
「はい。」
「後、聞きたいことは?」
「時間良いのかよ。」
「大丈夫です。…えっと…さっき話そうとしてたことって何ですか?」
「…。」
2人は黙ってしまった…。
「ごめんなさい。話したくないとかなら全然大丈夫なので。」
「紫呂。」
「好きにすれば?俺、便所。」
紫呂はいきなり素っ気なくなり、身軽に木を降りていった。
「あの…。」
「大丈夫だよ。ただ残酷な話になるけど平気?」
「…はい。」
哉汰は呼吸を整えてから口を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます