第6話


「お茶が入ったよ。紫呂。いつもの棚から茶菓子を持ってきてくれんか?」


「人使いが荒いよな-。」


「すぐそこじゃろうに。」


「へーい。」


紫呂は適当な返事をして立ち上がり、本郷はお茶を置くとゆっくり座った。


「本郷さんは大丈夫なんですか?」


「何がじゃ?」


「オリジナルの子孫だから。…あれ?その時の他のオリジナルの方は?」


「さっきの話になるけど本郷さんは、オリジナルの中での最高位。王族の血を引くオリジナルの子孫なんだよ。」


「え!?じゃぁ王族の話もご存知なんですか!?」


「すまんの。儂は知らんのじゃよ。」


「…そうですか。」


「知りたいなら自分の精獣に聞けよ。」


「…すいません。」


「紫呂。」


哉汰が紫呂の頭を叩いた。


「いってぇー!!」


「次余計なこと言ったら加減しないからね。」


「あっ覚醒まだなのか。悪いな。」


「こちらこそ…すいません。」


疵奈は申し訳なさそうに肩を落とした。


「天瀬さんは悪くないから。とにかく危ないことはしないって約束して。」


「…分かりました。」


「それだけは絶対に約束して。」


「あと先程のオリジナルの覚醒がわかったのになんで避ける必要があるんですか?」


「僕達もよく知らないんだよね。ごめん。」


哉汰は何度も念押しした。

その後は他愛もない話をした。

普通学校のことや、杖作りのことなどを話していた。


「さぁ。そろそろ2人も警備の時間じゃろ。紫呂の杖は明日には直しておくとしよう。」


「長々とお邪魔してしまってすいません。ありがとうございます。」


「そうじゃ。天瀬さん。」


「はい。」


「えっと…何処へやったかな。」


本郷は棚を漁り始めた。


「おー。あった、あった。これを持っておくといい。」


本郷が出してきたのは綺麗な杖。


「え!?頂けません。」


「これを使えるのはオリジナルだけじゃ。哉汰や紫呂も同じ物を持っておる。必ず助けてくれる。」


「…ありがとうございます。」


「持ち歩くだけで隠しとけよ。」


「はい。」


疵奈は大切そうに上着の内ポケットにしまった。


「本郷さん。また来ますね。」


「お前達は忙しいじゃろ。暇なときで構わんよ。天瀬さんはいつでもおいで。」


「ありがとうございます。」


3人は店を出て高台に向かった。

哉汰は最後の念押しと言わんばかりに無茶をしないようにと今日の事は他言無用だと疵奈と約束した。

疵奈は嬉しそうに家に帰っていった。


「ただいま。」


「おかえりなさい。今日は遅かったのね。」


「うん。面白いお店があったから。」


「それは良かったわ。」


「部屋にいるね。」


「はーい。」


母親といつものような会話を交わすと自分の部屋に入り、杖を出した。


「…私が…。」


疵奈は大きく深呼吸をして布団の上に座り、目を閉じた。


“お願い。話がしたいの。出てきて…。”


疵奈は心の中で念じた。

だが、どれだけ待とうとも反応は返ってこなかった。


目を開けて深呼吸をすると布団に大の字に寝転がり、杖を眺めた。


「大丈夫なのかな?」


杖を真横に置き、天井を眺めていた。


「疵奈。」


「はーい。」


母の呼ぶ声に疵奈は言われた通り杖を隠し持って台所に行った。

そこには父親が帰ってきていた。


「おかえりなさい。お父さん。」


「ただいま。疵奈。母さんも座って。」


「はい。」


母が座ると父親は話を始めた。


「実はな仕事場が異動になった。ここからでは遠いんだ。」


「何処にですか?」


「ユピテルの方に人手が足りなくてね。一般民で優秀な人はどんどんユピテルの仕事を任せられてるんだよ。」


「良かったじゃないですか。認められたって事ですよね。」


「だが疵奈は転校にもなるし、引っ越しもあまりしたくないみたいだったから返事は待って貰ってるんだよ。どうしたい?」


「…私は…。」


急なことで疵奈は混乱してしまった。

ユピテルとは中枢の人達がいる大きな塀の中にある場所。

魔法使い達も主な仕事場としている場所だ。


「すぐに決めなくても良いよ。1週間の時間は貰ったからね。」


「…はい。…外に出てきてもいい?」


「何処まで行くんだい?」


「高台の所。」


「あそこまでなら構わないよ。警備の人がいるかもしれないから気を付けるんだよ。」


「はい。」


高台の木までは5分程度。

疵奈はトボトボと歩いて行った。


「疵奈か…?」


「…紫呂さん。」


「どうした?こんな夜中に。」


疵奈は俯いたままだ。


「…。」


「哉汰呼ぶか?」


「…。」


疵奈は黙ったまま木の根元に座り込んだ。


「親とケンカでもしたか?」


「…してないです。」


「ならどうした?…俺は哉汰みたく優しい言い方とかは出来ねぇぞ。」


「…。」


「疵奈。高いところ大丈夫か?」


「…平気ですけど。」


「よし。手貸して。」


紫呂が手を差し出すと、何の迷いもなく掴んだ。


アタート。」


2人の体がゆっくり浮き上がり、高いところにある太い木の枝に乗った。


「すごい。」


「少しは元気出たか?」


「…すいません。」


「別に。」


「ここからだとユピテルも見えるんですね。」


「この木はさ、国で最も高いって言われてる場所なんだってよ。一般民は階段とかないと登れないだろうけどな。」


疵奈は嬉しそうに木の枝の上に立った。


「落ちるなよ。」


「はい。」


嬉しそうに周りを見回す疵奈。


「紫呂さん。」


「ん?」


「私、…ユピテルの近くに引っ越さないといけないかもしれないです。」


「は!?何で?」


「ユピテルの方が人手不足でお父さんが異動になるかもしれないって。」


「ビビった。バレたのかと思った。良いんじゃね?俺と哉汰はユピテルに住んでるわけだし。何か問題でもあんのか?」


「…本郷さんに逢えなくなるから。」


「一生逢えないわけじゃねぇじゃん。」


「…そうですけど。」


疵奈は哀しそうに空を見上げた。




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