第4話


お店の中は小さな外観からは思いもしないほど大きなお店で、本が壁際にびっしり敷き詰められ、それはそれは高い天井まで伸びていた。

そして奥の棚には小箱が敷き詰められていた。


「凄い…。」


「本は好きかな?」


「はい。大好きです。」


疵奈は大量の本に目を輝かせながら店内を見回している。


「見て回って構わんよ。」


「ありがとうございます。」


疵奈は自分の好きな本に惹かれ人見知りなど忘れてワクワクしながら歩き回った。

しばらくすると、先程の男性がお茶を持ってきてくれた。


「…あのっ。」


疵奈は本に集中していて、初めてのお店に入ったことを忘れていた。


「構わんよ。本達も久しぶりのお客さんが来たと喜んでおる。」


「…ありがとうございます。」


疵奈はイスに腰かけ、出されたお茶を飲んだ。


「あの…お名前…聞いても…あっ。わっ、私は天瀬と言います。」


本郷ほんごうじゃよ。」


「…ほっ本郷さん。」


「強張らんでも何もせんよ。ただの老いぼれじゃて。」


「…はい。」


「一般民の子か?」


「はい…。本郷さんは…魔法使いの方ですか?」


「もう大分使っておらんがな。杖もホウキもそこにある。」


本郷が指さす方にはカウンターがあり、水晶玉が置いているすぐ横に杖、端にホウキが立てかけてあった。


「見ても良いですか?」


「構わんよ。」


疵奈はまた嬉しそうにホウキと杖が置いてあるカウンターに行った。


「…触ってみても良いですか?」


「構わんよ。杖は持ち主か杖を持たん魔法使いにしか反応せんで問題ない。」


「ありがとうございます。」


疵奈が杖に触れると大きな揺れが起こった。


「何じゃ!?」


さすがの本郷も驚き立ち上がった。


「天瀬さん。杖をわしに。」


「はい。」


疵奈は本郷に近付こうとしたが、揺れが激しくて転んでしまい、天井近くの本が大量に落ちてきた。


「天瀬さん!!」


本郷は疵奈を守ろうとするが近付けない。


アタート。」


もう少しで本が疵奈に降りかかる所、誰かの声がした。


「何してんだ?爺ちゃん。」


「大丈夫ですか?」


聞き慣れた2つの声。


「あれ?天瀬さん?」


伏せていた疵奈は呼ばれて顔を上げると、そこにいたのは紫呂と哉汰だった。


「ケガは?」


「あっ…大丈夫です。それより本郷さんと杖!!」


「杖も儂も無事じゃよ。」


杖は疵奈が転んだ拍子に本郷の近くに転がっていた。


「すまんな。紫呂。戻してくれるか。」


「へーい。リート。」


紫呂は浮いている本に向かい手を開いた。


「…ごめんなさい。」


「気にしなさんな。で。お前達はどうしたんじゃ?」


「あっ。杖折れたんだよ。」


「またか?」


「仕方ねぇじゃん。」


紫呂はローブの中から折れた杖を出して見せた。


「全く。お前達の杖は特別製じゃと言うといたじゃろ。」


「ごめんて。」


本郷は立ち上がり奥に入っていった。

紫呂はイスに座り、哉汰は疵奈に手を貸して3人でテーブルを囲む形となった。


「何してたんだ?今日って休みだろ?」


「…かっ買い物に…。」


「こんな方まで?」


「良いじゃん。紫呂。別に来ちゃいけないって事はないんだから。」


「店の前にいたもんで儂が入れたんじゃよ。」


本郷は道具を取りに来たのかカウンターの下をあさっている。


「へぇー。」


「それにしても紫呂。」


「何?」


「何度折れば気が済むんじゃ。少し説教せねばの。」


「げっ。」


「はよ来んか。天瀬さんは少し待ってておくれ。」


疵奈が返事を返す間もなく、本郷は奥の部屋に紫呂を連れて行った。


「…。」


「家の手伝いとか?」


「…はい。」


疵奈は少し落ち込んでいるように見えた。


「僕達ね。本当は杖がなくても魔法が使えるし、ホウキもなくても空が飛べるんだよ。内緒だけど。」


哉汰はそう言って笑ってみせた。


「えっ…それって…。ここは本屋じゃないんですか?」


「表向きは本屋だよ。でも本郷さんは腕の立つ杖作りの職人さん。まぁそれなりの力を持った人にしか知られてないけどね。どうして?」


「…寂しそうだったので。」


「そうでもないと思うよ。本郷さんは周りから変わり者とか頑固とか言われてるけど、そんな事ないし、気にしてないみたいだし。好き嫌いで杖作る人だから。」


「そうなんですか。」


「そう。いつも来たら話長いけどね。昔のこととか色々知ってるから面白いよ。」


「…そうなんですね。」


「本好きなの?」


「はい。…あの。」


「何?」


「…。」


疵奈は手を握りしめながら深呼吸をした。


「ゆっくりで良いよ。今日は夕方の警備まで何もないし、本郷さんと話でもするつもりだったから。」


「…優しいんですね。」


「僕?」


「はい。もちろん瀧川さんも。」


「紫呂が?」


「杖を無理矢理折ったように見えたので…。」


「ははっ。正解。紫呂って恥ずかしがり屋だからさ。面と向かって話相手に来たよとか言えないんだよ。」


哉汰は楽しそうに笑った。


「…私、…変かもしれない…んです…けど。」


哉汰は笑うのを止め、真剣な眼差しで疵奈を見た。


「…一度……高いところから飛び降りたんです。」


「うん。」


「…その時、記憶は定かじゃないんですけど…微かに…体が浮いたような…感じになって。」


疵奈は途切れ途切れながらもゆっくり話した。

哉汰はそれを真剣に聞いている。


「やっぱり…私、変ですか?」


その声は微かに涙声が混ざっていた。

だが、瞳は真剣でまっすぐ哉汰を見ていた。

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