第3話
その日の授業が終わり、帰り道にまたあの木の根元に座り込んでいた。
「ここ好きなの?」
そこに現れたのは昨日出逢った優しい口調の哉汰だ。
疵奈は驚いてまた逃げようとしたが、今日は話したい欲の方が強かったので向き直った。
周りを見回してみる疵奈。
「紫呂なら今日は居ないよ。夜には戻ると思うけど。」
「…。」
疵奈は静かに頷いた。
「紫呂と話がしたかったなら言っといてあげるよ?」
今度は首を横に振る。
「喋れないとか?」
「…っ。」
頑張って声を出そうにも何を聞けば良いのかも分からない。
「僕達はこの辺の警備を任されてるんだ。君は魔法学校の生徒?」
「…ふ…普通学校…です。」
「そう。力の欠片が見えた気がしたから。ごめんね。」
「…いえ。」
「僕の名前は
「…天瀬…きっ…疵奈…です。」
「良い名前だね。紫呂は
「…はい。」
「学校って楽しい?」
「…。」
「言いたくないかな。…家族は?」
「…。」
疵奈は
「じゃー…。魔法使いになりたいと思う?」
「はい…。」
「普通学校ってどんな事勉強してんの?」
「…どんな?」
「あー。ごめん。僕も紫呂も8歳で力が開花してるから何も知らないんだよね。」
「…え?…もしかして…オリジナルの…?」
疵奈は目を輝かせた。オリジナルは国の宝のような神のような存在だからだ。
「一応近いとは言われてるから普段は自由にしてるんだ。今は他のオリジナルを探すために必死になってるから人手不足なんだよね。だから警備の手伝い。」
「…オリジナルは1人じゃないんですか?」
「違うよ。何人いるかはその年によって違うみたいだから知らないけどね。」
「…。」
疵奈は前に学校の屋上から飛び降りた時の事を聞こうか迷っていた。
「大丈夫?」
「…はい。」
「しばらくは毎日いるよ。」
優しい笑顔を見せる哉汰。
疵奈はイジメられるかもしれない恐怖と、哉汰になら話したいと言う思いの間で揺れていた。
哉汰もそれに気付いたのか何も聞こうとはしない。
ただ高台の木の傍で2人は立っているだけ。
「哉汰ぁー。」
遠くから聞こえる声。
「紫呂。ここに居るよ-。天瀬さん。紫呂が苦手なら行って。僕達2人はしばらくの間、この辺りの警備を言われてるからまた話したいときに話せるよ。」
「…。」
疵奈は声の方に目を向け立ち止まっていた。
「いた。」
「お疲れ。紫呂。」
「あれ?…昨日の?」
「…こっこんばんわ。」
「よっ。」
紫呂は怯えながら挨拶する疵奈に笑顔を返した。
「今日は何だったの?」
「この間の話し合いサボったからみっちり怒られた。」
「サボるからだよ。でも案外早かったね。」
「オリジナルの探し方とかの話だけじゃん。アホらしい。んな事より今の状況見ろっての。」
「でも探さないと災いは何が起こるか分からないよ。」
「分かるけどさ。人種差別とかいじめの方も結構大事だろ?」
「まぁね。」
「いいよな。中枢の連中はイスに座って文句言えば良いだけだから。」
疵奈は黙って話を聞いていた。
「あっ、悪い。」
先に気付いたのは紫呂。
「いえ。…こちらこそ立ち聞きしてしまって…あの、申し訳ないです。」
哉汰は少し微笑みを見せた。
「慣れた?」
「何が?」
「紫呂には言ってない。」
「あっそ。」
「あの…すいません。」
「何で謝るの?君は何も悪くないよ。」
「…はい。」
「聞きたいことは聞けそう?」
「…すいません。今日は帰ります。」
「そっか。気を付けてね。」
疵奈は何度も振り返り頭を下げ、その場を後にした。
「話してたのか?」
「少しね。」
「哉汰も気になる?」
「紫呂ほどじゃないだろうけど。」
疵奈は帰り道で色んな事を考えていた。
「聞いたら…どうなるんだろう。」
独り言を呟きながら足取りは少し重かった…。
家に着き、自分の部屋に入った。
疵奈の部屋は大量の本が並んでいた。
窓際にある机の上にも片付かない本の山。
その本は世界の歴史であったり、魔術であったり。勉強のためにあるような本ばかり。
「話したい…けど怖い。私はやっぱり普通に話したり出来ないのかな…。」
そんなことを呟きながら布団に横になった。
翌朝。
今日は学校が休みの日。
いつものように朝早くに起きて、まずは家のお手伝い。
掃除をしたり、洗濯をしたり。
それが終わると今度は街へ行った。
疵奈の家は街から少し離れた所にある。
まずは高台の木に寄り道。
「いつもありがとう。」
少しの間、木に寄り添うと街に向かった。
街には市場が並び、野菜や果物、魚や肉が売っていて少し離れたところに魔法使い達の日用品ともなる杖やホウキ、魔術本や、魔法薬の材料など色々置いてある。
少し離れた日用品売り場の方は魔法使いの方が多いが、一般民も興味本位で来る者も珍しくはない。
一般民が購入しても使えないので魔法使い達も気にとめなかった。
疵奈もお店の外観を見て中に入ったり、眺めたりしている。
ふと気になるお店の前で立ち止まった。
外観は古く、ボロボロの屋根や蜘蛛の巣が張られ、窓ガラスも曇っている。
なぜかは分からなかったが、疵奈はそのお店に見とれていた。
「見ていって構わんよ。」
中から白髪交じりの眼鏡をかけた男性が出て来た。
「いえ。あの…。」
「話相手でもなってくれんか?」
「はい。」
言われるがまま疵奈はお店の中に入った。
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