#3

 性行為の後、ぼくたちは全裸になって、ベッドに横たわる。

 彼女は、昔の映画の用心棒の大男が手の中でふたつのクルミを転がすように、ぼくの睾丸をもてあそぶ。

 ぼくたちはそうして、静かに過ぎてゆく時間を味わう。

 彼女の持ってきた音楽を聴きながら。


 エリック・サティ。

 その神秘的な代表曲、「ジムノペディ」をドビュッシーがオーケストレーションした楽曲。


 「シャルル・デュトワ。モントリオール交響楽団」

 と彼女が教えてくれる。

 彼女のひんやりした指が、デュトワの指揮にシンクロして、睾丸を転がす。

 憂いの中に、透明な神秘性をたたえたこの曲は、寄せては返す湖の透きとおった波のような静けさで、部屋とぼくらの心を満たす。


 「古代ギリシャの美男子アポロンと、酒聖バッカスをたたえて催されたお祭り、ジムノペディア。人々はそのお祭りを全裸で行ったそうよ。いまのわたしたちみたいに」


 でも、そんな風に、玉をもてあそんだりはしなかったのでしょう?


 フフ、と彼女は笑った。「そうね。でも、神々を称えるためにはね、日常ではダメなの。非日常に身をおいて、心を開放しなくちゃね」

 彼女はそういって、睾丸への静かな愛撫をとめ、ぼくの竿へ手を伸ばした。


 ぼくの顔を覗き込み、その顔色を見ながらそっと、その手をストロークさせる。激しくはしない。あくまでソフトに。ピンポイントに指先を使い、ぼくのウィークポイントを巧みに攻め立てる。

 ぼくの目は潤み、呼吸が浅くなり、吐息に声が混じる。

 彼女の指先はまるで手際のいい手品師のようにうなだれていたものを勃起させ、興奮をつかさどり、やがて、絶頂へと導く。ミセス・メルセデスの手のひらの中へと。本日二度目の、ぼくのクライマックスが放たれる。


 「あなたの逝く時の顔が好き」

 と、彼女は言う。「わたしを心から求めているその顔を見ていると、本当に満たされる」と。


 モントリオール交響楽団は、最初から最後まで、高揚など一切なく、その神曲を演奏しきった。

 ぼくはもう、とうの昔に、彼女がぼくのことを好きかどうかなど、考えることを放棄した。

 射精後の重い疲労の中で、彼女の指先の冷たさだけが、リアルとファンタジーをつなぎとめている。







 ぼくらの偶数週水曜日のジムノペディアは、いつもこうして終わる。

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