#2


 ―――――もうぼくが、まともな人付き合いをやめて、どれぐらいの時間が経ったろう。


 仕事はしている。PCとインターネットさえあれば、オフィスになど通う必要はない。

 性欲は、ミセス・メルセデスに完全にコントロールされてしまった。したがって、ガールフレンドを作る理由が見つけられない。


 いや、そうじゃない。


 ミセス・メルセデスが、椅子の上で両脚を開き、ぼくを迎え入れる。

 黒い美しいショーツには、すでに愛液の小さな染みができている。


 「キスして。ゆっくり」


 そう。

 彼女はぼくに、決していそがせない。

 舌を伸ばして、華奢なショーツのクロッチ部分に、そっと触れる。

 熱を持ったちいさな湖が、そこにあるのがわかる。

 ゆっくりと舌先を、その上下3センチ程度のエリアで、往復させる。

 ミセス・メルセデスは、深いため息をついて、身体を小さく震わせる。


 ぼくがガールフレンドを作らないのは、性欲をコントロールされているせいではない。

 ミセス・メルセデスが、いまのぼくにとって、ただひとりのあるじだからだ。

 彼女が人の妻であることなど、構わない。それが何だというのだ。

 また、社会的階級の差も、もはや何の問題にもならない。

 この先はどうなるかはわからない。しかしいまこうして彼女の股間に舌を這わせながら、胸が裂けそうなほど、彼女をいとおしむ気持ちがふくらむ。


 「ショーツ、脱がせて」


 彼女が腰を浮かせて、その繊細で美しい工芸品のようなショーツを、彼女の下腹部から脱がしてゆく。


 アンダーヘアをすべて抜き去ってしまった彼女のうつわ。

 トロリとしたラブ・ジュースに覆われ、キラキラと瑞々(みずみず)しく輝いている。

 彼女の恥骨のほんの少し右上に、タトゥが見える。インディオの描く、ミステリアスなフロッグのデザイン。こんな奇妙なタトゥ、見たことがない。しかしミセス・メルセデスの下腹部に住まう、そのフロッグは、いつも愉快そうな目で、ぼくを見る。

 お前はそこで、なにをしているのか、と彼は問う。ぼくはそれに答える言葉を持たない。


 ただ、彼女の身体の奥底から、まるで樹液のように染み出てくる透明な蜜を、舌先でそっと味わう。甘く、深い潮の香り。ミセス・メルセデスの中にある、海の香り。


 彼女は浅く早い呼吸を繰り返しながら、自分の中で充ちてくる潮を感じている。寄せる波が大きくなって、彼女という器から溢れる直前で、ぼくを導きたいからだ。

 彼女がそれを求め、ぼくの既に痛いほど硬くなったモノもまた、それを求めている。

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