第3話
「ねえねえ、このラーメン屋、今話題になっててさー、今日の帰り行ってみない?」
ある日の2時間目の授業が終わった休み時間に冴子は自分のスマフォを見せ、私ときょんちゃんにそう言ってきた。
「へえ、なんか随分とオサレな内装だね」
「でしょ?で、ラーメンの味もなかなかなんだって!」
「うう、過去のトラウマが...」
「んん?きょん、なんかあったの?」
不思議そうに冴子がきょんちゃんの顔を見る。
「あー、ラーメン屋ではないんだけど、昔さあ、中学の時なんだけど、その時のカレシが『昼飯おごるよ!』って言ってついてったらさあ、立ち食いソバ屋みたいな、まあ、中に入ったらイスに座って食べるとこだったんだけどさ。
で、まあ、イスって言っても緑のちっこい丸い座面に4本のパイプがついてるちゃちいイスなんだけどね。」
「ふむふむ」
「で、で、床はちょう汚くてさー、黒いのがカサカサーと。」
「ウワー。ゴキちゃん?」
「うん、でカレシがさ、イスの足でぐちゃっと...緑の液体が...」
「ギャーーー!!」
「やめてえ!!」
「あたしも見なきゃいいのに目に入っちゃったんだよね...」
「で、その彼とはそれで別れたと?」
「ん、まあ、それが原因ではないけどね。だけどその事も含めてあんまり人の事、考えない男だったから。」
「んー、まあ、しょうがないよね。」
「うん。」
「でもさ、この店ならこのスマフォの写真を見る限り、そんなことなくなくない?」
「うーーん、そうだね。じゃあ、行ってみるか。」
私は2人のやりとりをただ見ていた、聞いていた。言葉を発したのは「やめてえ!!」のみ。
とりいった会話になるときは大抵、静観者になる。
元いじめられっ子の保身術というものだろうか。
「ところも行くでしょ?」
「うん、行く、行く。私、ラーメン大好きなんだあ、楽しみ。」
そのラーメン屋さんは確かにラーメン屋に見えないようなオサレな感じでメルヘンチックな内装だった。
(※他のラーメン屋さんの内装、其の外を侮辱しているわけではありません。)
「うわー。」
「すごいね。かわいい。」
「スマフォの写真の通りだねえ。お、あそこのテーブル空いてるよ。あそこでいい?」
冴子にエスコートされるままに私ときょんちゃんは席につく。
「あ、こないだは冴子の隣に座ったから今日はきょんちゃんの隣いい?」
「どうぞ、どうぞ。」
「ぶっ、ところ、よく覚えてるね。」
「あ、あはは、なんとなくね。」
2人とこれからも良好な関係を保つにはこういうふうに気を使うべきだろう。
これも元いじめられっ子の保身術という...ry)
「当店一のおすすめはとんこつだってさ。どうする?」
「とんこつでいいよ。」
「じゃあ、私も。」
3人ともとんこつラーメンを注文した。
ラーメンを待つ間に今日の授業がどうだとか同じクラスの女子のカップルがうまくいってないとかどうだとかの他愛もない話で私たちは盛り上がった。
やがてラーメンは無事、私たちの前に差し出された。
「うわっ!なにこれ!」
「へー、かわいいね!」
ぱっと見たところなんてことない普通のとんこつラーメンだけれどもよく見るとナルトが猫型にカットしてありそのナルトにヒゲのように紅ショウガが6本、そえてあった。
「さてさて、お味のほうはと。」
ちゅるっと冴子がメンを一口ほおばった。
「うん、まいう。だわ。」
「あはは、...うん、ホント、おいしいね。」
だけど、私はラーメンを味わっている場合ではなかった。
ラーメンが来る間、3人で話しているときについ想い願ってしまったのだ。
(私が一番早く食べ終えたら明日は剛くんとお話しできる!)
ラーメンを食べ終えるまで2人の進行具合を見ちゃいけないし、意図的に早く食べてはいけない。
あくまでもいつもの自分のペースで食べる。
自分の中でそんな勝手なルールを作った。
「でさでさ、...」
「うん!?」
「...ぶっ!なんで、ところ、そんなキョドってるん?」
冴子のラーメンを視界にいれずに冴子の顔をバッと見たら挙動不審だったのだろうか。
「え?ああ、ラーメンがおいしいからね?」
「?」
「あ、アハハ...」
変な挙動を示す私はほっとかれて冴子はきょんちゃんと話始めた。
チャンスだ。話をすればその分食べるペースは遅くなるはず。
マイペースで食べても、私が一番早く食べ終えれそう。
「ぷはあ、ごっそさん!」
スープを一気に飲み干した冴子はそう言った。
「え?はやっ!」
「いやあ、んまいと箸が進むよー。あ、2人は気にしないで食べてよね。急がないでいいよ。」
得意げに冴子はそう言い放った。
なんてことだよ。私も1分後には食べ終わった。
こんなことならもっと味わって食べればよかったなあ(泣
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