27. 貴方を理解しきれていなくとも

「貧困が原因のハッキングか……。そっちのほうが普通だよな」

 右半球モニタを見ながら、男性・が頷いた。


「私たちみたいに、『結婚したいから』って理由でハックする人って、仮想地球にもたぶん居ないと思うよ?」

 左半球モニタを見ながら、女性・が言った。

 二人共、めいめいに、モニターに向かったままの会話。


「居ないかなぁ?」

 圭は、優の意見には首肯しかねるようだった。


 少なくとも外からは、人の心を持っているように見える、汎用人工知能。

 それを『第3人類』として人権を国に認めさせ、そして法的にも結婚できるようにする。


 それを望む人間は、はたして、俺ただ1人なのか?

 そんな風情で、圭は苦い顔をしていたのだった。


「貧困が理由なら、その行動パターンもある意味理解しやすいよね」

 と、優は言った。


「ああ。直接、金へと向かって行動するからな。組織の拡大、分散処理、DDosっぽい一極集中攻撃……。枝葉の技術の違いはあれど、根本的には『あるある』な手筋に自然と進むはずだから」


「目的がハッキリしてるからでしょ?」

 優は、愛する圭の方へと振り返る。


「ん。そういうこと。目的が決まれば、自然と手筋も思いつく。その手筋の幅が、どうしたって、人間の思考パターンの枠内に収まる」


「第2人類の活用で、その発想の枠は広がったんだよね?」


「そそ。体内の機械に、処理を色々とソーシングできるようになったから。第3人類の優なら、もっと突飛な発想が出来るんだろうけど」


 そう聞かれた優は、人差し指で、少し色の抜けた髪を撫でるようにして、かいた。


「私がするには、人間としての常識を捨てなければいけないわけで……。それを私が望むと思う?」


 上目遣い。


 圭は何かに気づいて、うっ、と短く言った。

「そ、そうだね。俺も、優と、楽しくおしゃべりしたいかな」


「ほんと?」

 優の表情が、ぱっと華やいだ。


「うん、本当だとも」


  2人は軽く抱き合い、そしてそれぞれ、持ち場に戻った。

 


「ところで、優。仮想地球0888の現実一致リアリティレベルは?」


「え? えっと……83%だけど。この仮想地球、立法事実として使うの? どのあたりを?」



 愛する婚約者からそう聞かれた男性・は、ゆったりとした口調で言った。


「制限された環境下において、相手を見切ったわけでもないのに、ネットワークで繋がろうとする所。人間も汎用人工知能AGIも、その部分は同じだろう?」

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