仮想地球1503 テラアートの流行する世界

28. 人筆書きで何を書く?

 イルセは仮想地球1503に迷い込みました。


 忖度ソンタクロースからイルセが貰った金色の腕輪。

 忖度そんたくリングがピカピカと光ります。


 はい。が光りました。

 創造主が与えた名前の通り。


 仮想地球の空気を読んで、『ここは、ガイア理論の世界です』とイルセに教えます。


 イルセは「なに? ガイア?」と聞いてきます。

 かなりポカーンとしています。


『地球そのものが、1つの生物だという考えのことです』

 と回答します。


 そうしたらイルセは、両手を思いっきり、左右に伸ばしました。

「こーーーーんな! おっきないきものだね!」


 もしもわたしが人間だったのならば、きっと、苦笑というアウトプットを行っていたことでしょう。


 ◆


 忖度結果によると、この仮想地球では、絵を描くのが流行っていました。

 スケッチブックもそうですが、家の壁、道路、ラッピングバス、キャラクター絵の電車。痛車……etc.


 そんな、小さなキャンバスだけではありませんでした。


 グランドキャニオンの赤茶けた地面に、突如。

 謎の幾何学模様が現れたりもしたのです。


 この仮想地球では、それを『ミステリーサークル』と呼称していました。

 それは、宇宙人が描いた絵。

 

 地球自体が、仮想空間上の産物です。

 ですので、宇宙人も同様に、この空間上の産物。


 その宇宙人の母星が、この空間上に存在するのかどうか……までは、私の忖度能力を持ってしても、知覚することができませんでした。


 いずれにしろ、この仮想空間上の宇宙人は、大地に描かれたその絵を、『地球テラアート』と呼称して、愉しんでおりました。


 そして、宇宙人だけではありませんでした。

 仮想地球この国の総理大臣、ミヤベ総理は、学生時代から美術を嗜み、絵が趣味でありました。


 彼の豪邸には、フカフカのじゅうたんが敷かれた、木漏れ日の入る、ウッディな部屋が有りました。


 そのウッディな部屋に、この世界のイルセは出現しました。


「わぁ、すてきなおへやー」

 と、広い室内を歩き回るイルセは、モナリザの絵を見つけました。


 壁掛けのその絵の反対側に、金属製の三脚がありました。

 三脚の上に、重そうなカメラがドン! と載っていて、そのレンズはモナリザの絵へと向けられています。


「どうして、絵をカメラでとるんだろー? こうして眺めていればいいのに」

 と、イルセは不思議がります。


 仮想地球を忖度すると……。


『総理は、おしごとがいそがしいようです』

 と、わたしは回答します。


「たいへんなんだねー」

 と、イルセは言って、足を投げ出して座り、その絵画を眺めています。

 窓から入る風が、イルセの長い髪を頬にひっかけます。


 忖度でわかったのは、実は、それだけではなかったのでした。


 ◆


 イルセは、こんどは、ビルの屋上に出現しました。


 夜。


 眼下の街には灯りが。

 何の変哲もない、夜景に見えます。


「ふわー。きれい……あれ?」

 イルセが、何かに気づきました。


 コンサート会場である、大きなアリーナ付近には、車の交通量が多く、赤いテールランプが連なっています。


 少し離れた、丸い大きな建物の辺りにも。

 電車が、その2つの建物を左右に避けるように、2つに分かれて南へと下がります。


 南には大きな池があり、そこは真っ暗。


『スマートフォンを出してみてください』


 わたしはイルセに言いました。

 彼女は、肩に斜めがけにしたポシェットから、薄いピンクのスマホを出しました。


 とあるSNSアプリ「ルートレース」をタップし、起動してもらいます。


 ……。


「うわっ! モナリザがいる! 夜景の中に!」

 イルセが驚いています。

 

 仮想地球を忖度すると。

 政府は、人の移動をGPSで把握しています。


 そのアプリは、その移動情報を取得して、地図上に表示するものでした。


 GPSで得られた、人間たちの移動線を使って、都市にモナリザを描く。


 ……。


 総理も、ずいぶんと凝った地球テラアートを作ったものです。

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