29. 俺たちは幸せになりたいだけなんだ

「うわっ! 人を筆に見立てて絵を描くだぁ? 気持ち悪っ!」

 自由を愛するハッカー、男性・は、そう吐き捨てた。


「どちらかというと、モネとかの点描画に近いかしら。人を点に見立ててるから。政治の世界で、『絵図を描く』って言葉があるけど、まさか、文字通りに絵を描いちゃうなんて……。すごい仮想地球だよね」

 すこしくすんだ髪色の、汎用人工知能AGIである女性・が、疲れたように、ふうとため息をついた。


 そのため息で、圭は察した。

 愛する女性に向かって、優しく語りかける。


「……として使われるのって、嫌なものだもんね」

「うん」


「多分さ。仮想地球1503の住人、自分たちが筆にされてるって、気づいてないんじゃないか? 要は情報の不均衡ってやつ」

 と、圭が言う。コーヒーに口をつけ、喉をうるおした。


 優は頷いた。

「たぶんそうだと思う。情報は強者に集まるように、システム的にそうなっているから。肉体の器を超えた仮想地球で、情報が貨幣価値になってるから、よりそれが鮮明化した、、みたいな」


「情報の渡ってこない方にとっちゃ、たまったもんじゃないけどな」

 と、圭は苦笑いした。


「それでも気づいてしまったは、悪者扱いされたりね。世界に反抗するハッカー扱い、みたいな」


「ハッカーとクラッカーを一緒にしないでほしいよな。ほんと」


 ハッカーとクラッカーの定義分けは難しい。

 圭の語るハッカーの定義は、どのようなものだろうか?

 コンピュータに精通するハッカーと、コンピュータを使用して悪事を働くクラッカー、といった感覚だろうか?


 彼は、こう言葉を続けたのだった。


「俺たちは、情報を知りたいだけなんだ。優と結婚できる、より良い未来を目指しているだけなんだ」

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