25. 神と同じ武器

「さすがグレースケールの仮想地球。処理がメチャ速かったなぁ」

 男性・が言った。

 彼が使う、右半球ヘミスフィアモニタが、一転して、彩りを帯びる。


「カラーよりも、仮想地球全体のデータ量が少ないからね」

 女性・が言った。

 彼女が使う、左半球ヘミスフィアモニタも、白黒からカラーに、表示が切り替わった。


「ハッカーがハッキングされるなんて、まるで医者の不養生だな」


「すべての行動を完璧に、なんて出来ないもの」


「優、君でもかい?」


「うん。汎用人工知能と言っても、やっぱり限界はあるわ。私だって、『人の作りしもの』だから」


「ま……そういう不完全なところが、かわいいんだけどな」

 唐突に、男性・はデレた。


「……」

 女性・は、照れた。

 圭の頭を引っぱたいたのだ。


「いてぇ。……しかし、グレーのハッカーばかりだったな。この仮想地球の中」


「完全な白とか、完全な黒って、難しいと思うよ?」


「いっそのこと、このヘミスフィアモニタのカラー画面みたいに、レッドハッカーとか、お色気担当のピンクハッカーとか、たくさん出てきたら面白いのに」


「戦隊みたいになるよ? それだと」


「いいんじゃないか? 敵と味方、白と黒。2元論だけで解釈しようとして、この現実世界を正しくシミュレートできるのかね?」


 圭がそう言うと、優は腕を組んで考え込んだ。


「うーん……どうしたって、シミュレートする時に、捨てる情報ってのもあるから……」


「カクカクした、ポリゴンみたいなハッカーばかりになるだろ? 情報を捨てちゃうと」


「じゃあ、圭がそのまま、仮想地球に入っちゃえばいいじゃない」

 優はムッとした。


「……それができたら、やってるよ。優と2人でさ? 汎用人工知能AGIに人権のある仮想地球に。そしたら……」


 小さな窓が、その部屋にはあって、濃いグレイの雲が、寂れた建物群の上を、帽子のように覆っていた。 


 その窓の外を、圭は見た。そして、はぁとため息。

 顔をブルブルと勢い良く振って、彼は言った。


「仮想の話はしても無駄だな。俺たちは、現実を変えようとしてるんだから」

 そう言って圭は視線を右半球モニタへと移した。


 モニタに映る仮想地球0106。

 その中に映る、黒光りするサーバーが、まるで、フルオート拳銃のマガジンラックのようだった。


 彼は、小さく呟いた。

「ハッカーも、ホワイトハッカーも、相手と同じ武器を使う……か。と同じ武器って、なんなんだろうな?」

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