仮想地球0106 グレイスケールの世界

24. 便利な道具はみんなで使う。

 イルセは仮想地球0106に迷い込みました。


 忖度ソンタクロースからイルセが貰った金色の腕輪。

 忖度そんたくリングがピカピカと光ります。


 はい。が光りました。

 創造主が与えた名前の通り。


 仮想地球の空気を読んで、『ここは、グレイスケールの世界です』とイルセに教えます。


 イルセは「グレイスケールって、なに?」と聞いてきます。


『白と黒と、その間の灰色しか、色がない世界です』

 と回答します。


 そうしたらイルセは、自分の体をくるっと回転させました。

 スカートがふわり、舞い上がります。


「あっ! ほんとだ! スカートも灰色! シャツは白!」


 と、楽しそうにしていました。


 ◆


 自然に生まれ第1人類でも無い。

 第1人類が機械化された、第2人類でも無い。

 汎用人工知能の、第3人類でも無い。


 そのような、「どれでもない」道具。

 『武器』という名の道具。


 道具は進化するものです。


 例えば、銃。

 警察も、マフィアも、銃を使います。


 敵も味方も、結局は同じ武器道具を使います。

 なぜならそれが、敵を倒すのに有益だから。


 ……。



 この仮想地球では。


「わぁー! キカイがたくさんだ!」

 イルセは、とある警察関係施設の中に出現しました。


 モニターが、何個も何個も並んでいます。

 若干薄暗い、広い部屋には、話し声よりも、キーボードの打刻音の方がより響いています。


 モノクロの美少女フィギュアが大量に置かれたデスク。

 腰を下ろした、タカハシという男のライトカット機能付きメガネには、モニター光が反射しています。


 彼ことタカハシは、ホワイトハッカー。


 実際にやる操作捜査は……。


「成功……」

 タカハシが、小さな声でつぶやきました。


 とある銀行に、何度も何度もハッキングをかけていた集団『FinaHack』。

 FinaHackは、数々の口座から、お金を抜いていました。


 そのメンバーの1人のアドレスを、ついに突き止めたのです。


「おお? やったな!」

 胸板の厚い、サスペンダーで背広のズボンをつっているボス、イケナガが、よく響く声で言いました。


「ええ。"FinaHack"のメンバー、ハンドルネーム"Atlas"の使っているPCには、脆弱性が残ったままのアプリがインストールされていました。そこを突きました」


「でかした! よし、すぐに身元確認、確保へ動け!」

 イケナガは、頭にちょこんと乗ったヘッドセットのマイク越しに、そう指示を出します。


 室内がガヤガヤと騒がしく、人が動き出しました。


 そんな光景を見たイルセは、呆けたような表情で言いました。

「何が起こってるのー?」


 忖度リングの私は、『ハッキングによって、ハッカーの居場所を突き止めたようです』と、イルセにこっそり教えます。


 そうしたらイルセは、どういうこと? と首をかしげました。

「ねぇ、どっちがハッカーさんなのー?」


『どちらもです。単に、グレイの濃度が違うだけです』


 そうしたらイルセは。

 メガネを右手でくいっと直し中のタカハシの方を見ながら、こう言いました。


「机の上には女の子がいっぱい。すごく濃いよねー」


『そ、そうですね……』


 タカハシと、ハンドルネーム"Atlas"。

 はたして、どちらが濃いのでしょうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る