仮想地球1084 テレパシーの通じる、『考える金属』の在る世界

20. シェアリングエコノミー vs. 独占

 イルセは仮想地球1084に迷い込みました。


 忖度ソンタクロースからイルセが貰った金色の腕輪。

 忖度そんたくリングがピカピカと光ります。


 はい。が光りました。


 創造主が与えた名前の通り、仮想地球の空気を読んで、『ここは、テレパシーが通じる世界です』とイルセに告げました。


(なにそれ?)

 と、イルセの思考が流れてきます。


『しゃべらなくても、思ったことを相手に伝えることができるのです』



「そうなのー?」

(じゃあ、なんで忖度リングの思いは伝わってこないのかなぁ)


 イルセはそう言い、そして思っているようです。


『わたしは、イルセがこの世界を理解できるようにするための、忖度アイテムにすぎませんから』

 と回答します。


 アイテムにしては、少し感情を移入してしまっているかもしれませんが。


 ◆


 その仮想地球は、とある宇宙資源を巡った争いをしていました。


 思考を現実化させる金属『ニョイニウム』が人の思考を読み取って、その思考を他者にも伝達するのです。


 ただ……この宇宙金属。

 金属なのに、思索的な事をいちいち言い出すので、わたしとしては、とても困りました。


「イルセよ。それは、自律と言えるのか!?」

 と金属が言うと。


「ねぇ、ジリツってなあに?」

 と、イルセが疑問を持ちます。


『自律という概念はですね……』


 哲学者イマヌエル・カントの『自律』の概念を、子供水準の知識で初期化されたイルセに正確に伝えるのは、極めて困難です。


 戦争に明け暮れる大人の思考も、イルセの頭に流れ込んできます。

「かないもしないイデア理想を追い求める事に、なんの意味があるのか!」


「ねぇ、イデアってなあに?」

『イデアはですね……』


 非常に困ります。

 

 ◆


 しかし、さすがは人間の住む仮想地球です。


 人間と人間とが、口と耳を使わずに込に意思を相手に伝えられたとしても。

 結局の所、戦況は泥沼。


 正義エゴ正義エゴとのぶつかり合い。

 それを止めるだけの力は、テレパシーには無いようでした。


 そんな中。


 すったもんだの挙句、とある戦艦の女神に祭り上げらてしまったたイルセは。

 言葉には発しなくても、その無邪気で素直な思考が、宇宙を駆け巡ったのでした。

 

(その金属、みんなで分け合うんじゃ、だめなのかなぁ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る