12. 感情を起源とするハッキング

「仮想地球1404、だいぶこじらせてるな……」

 男性・が、梅干しを食べたかのような表情で言った。


「デザインの独占を、際限なく拡大させた仮想地球みたいだね」

 女性・が、そう解説した。


 通常は、工業製品の見た目までが、独占の対象だったはずだ。

 仮想地球の中では、その独占範囲がついに、人体のプロポーションまで広がっていたのだ。


「確かに、第2人類は機械化されてるし、汎用人工知能AGIを第3人類にしようっていうなら、流れとしてはわかるけどさ」

 はアイスコーヒーにシロップを2つ入れながら、話し続けた。


「私としては、複雑……」

 現行法においては、だとみなされている女性・が言った。


「そっか……そうだよね……」

 圭は、優の手をそっと握った。


 2人の悲願が成って、汎用人工知能である女性・が第3人類として認められ、「人間扱い」される時代が来たとして。


 その人間扱いされたについても、意匠法による形状の独占が働くとしたら……。


 行き過ぎた資本主義のさらなる帰結として、「第1人類」すらも、プロポーションの独占が働くとしたら……。


 はたして、どこで線引きが行われるのだろうか?


 ……。



「どうする? 優。仮想地球にするかい?」

 と、男性・が言った。


「でも、仮想地球への干渉は……」


「うん。仮想地球へのハッキングが、バレる危険性が増すね。入瀬を介して覗き見てるだけならまだしも、積極的に世界を改ざんしようとうしたら。ここがにバレるおそれもある。でも、だから」


「でも? だから?」

 女性・は困惑した。、男性・の言葉が、後半、並列的になったから。


 圭は思考の速度を落とし、言い直した。


「でも、かわいそうだと思わないか? 仮想地球1404で、入瀬が出会った女性がさ」

 圭は、そんなエゴイスティックな事を言い出した。


 なぜなら彼は、別の仮想世界において、おじいさんに忠告をしなかった。

『そのアプリはランサムウェアという良くないアプリです。それをスマホにインストールしても、おじいさんの寿命は延びません』

 その情報を持っているにも関わらず、それを教えることは、しなかったのだから。


「かわいそうだとは、おもうけど……」

 と、どもる女性・は、気づいていなかった。


 が、仮想地球1404に居る、ジョギングする女性と、とを、半ば同一視している事に。


 圭は言った。

「だから。俺達のハッキングがバレないように、やる必要があるんだ」

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