仮想地球1404 デザインと同様、人の外形までもが独占される世界

11. 過剰なダイエットは危険だというのに

 イルセは仮想地球1404に迷い込みました。


 忖度ソンタクロースからイルセが貰った金色の腕輪。

 忖度そんたくリングがピカピカと光ります。


 はい。が光りました。

 創造主が与えた名前の通り。


 仮想地球の空気を読んで、『ここは、人の外形が独占される世界です』とイルセに教えます。


 イルセは「ドクセンってなあに?」と聞いてきました。


 そうでした。

 イルセの精神年齢は、今回も、幼子ぐらいなのでした。

 人のこの欲を、どう表現すればいいでしょう?


「おいしいお菓子は、1人で全部食べたいでしょう?」

 と、問いに問いで答えるカタチになりました。


 イルセは首をかしげています。

「みんなで食べた方が楽しいんじゃないかなぁ?」


 ◆


 早朝の公園。

 今日は暑さもなく、空の雲も「無くもないけど少ない」状態。

 

 カラリとしています。

 わたしは湿度センサーも兼ねているので、それがわかります。

 イルセにとっても過ごしやすいことでしょう。


 円形の噴水を取り囲むように、ベンチが設置されていて、その北側には小さな野外音楽堂が。南側には庭園と、運動場と、三角形の図書館がある……ことが、入口の地図でわかりました。

 

 この程度の情報は、この仮想地球を忖度するまでもありません。


 イルセはベンチに座らず、草むらに寝っ転がって、噴水の音と、その周囲の、草が風で揺れる音を聞いていると、その音の中に、タッタッタッとリズミカルな音が交じりました。


 1人の女性が、帽子キャップにポニーテール、Tシャツにジョギング・パンツといういでたちで、走っています。


 Tシャツは白地ではありますが、見たこともないほど複雑怪奇に線が引かれています。まるで、世界線のように。


「どうしてあんなにつらそうなのかなぁ、あのおねえちゃん」

 イルセはそんな所に疑問を持ったようです。


 その女性は、噴水スペースと庭園をジョギングコースとして使って、ぐるぐると周回していました。


 噴水の、打ち上げられた水が水面にどのような形で落ちるのかを観ながら、しばらく待っていると、ジョギングをしていたお姉さんが、イルセの、噴水を挟んで反対側のベンチに座りました。


「あのー、おねえちゃん?」


「ん? なあにおじょうちゃん」


「こんにちは」

 イルセは頭をペコリ。それを見たジョギング女性は破顔します。


「あら、あいさつじょうずにできるのね。えらいなぁ。おはようご……

 帽子キャップを取って、女性は座ったままお辞儀しました。


「朝だから、こんにちはではなく、おはようだよ?」

 などといった、細かい事は、その女性は言いませんでした。


 お辞儀から戻ると、座っているその女性と、立っているイルセの顔の高さはほぼ同じでした。


「おねえちゃんは、どうしてあんなに、走ってたの?」


「あら、見られてたのね。恥ずかしい。……お姉ちゃんはね? もっともっとやせないといけないの」


 ダイエット、という概念を、今のイルセは知っているでしょうか?


「それも、どうして? おねえちゃんすごくしゅってしてて、かっこいいのに」


 イルセの目は確かでした。

 おそらく、すれ違う男性の6~7割は振り向くであろう、均整の取れた、スレンダーな、それでいて滑らかな曲線を備えた、うら若き女性です。


 これ以上絞る必要など、全く感じさせないプロポーション。



 ――この仮想地球1404でなければ、の話ですが。



 案の定、ジョギングの女性は、苦笑いを浮かべました。顔を沈めたので、逆に、頭の後ろのポニーテールが持ち上がります。


「タカシと同じことを言ってくれるのね。ありがと。……でもね? 今の私の体型は、もうどこぞの大会社が意匠いしょう登録っていうのをしていて。権利侵害になっちゃうんだ」


衣装いしょう?」


「あっ、ごめんね? 難しい言葉を使っちゃって。かっこいい形や、かわいい形を、会社が独り占めできるの現世は、業としての物品のみ独占可能


「えー!?」

 イルセは、マスオさんばりに驚きました。


「もちろん、その会社にお金さえ払えば、今の体型でも許してもらえるんだけど……うちは貧乏だから」

 言って、ポニーテールの女性は力なく笑いました。


 どうせ体型を変えるなら、もっと痩せ型に……とでも言いたげに、座ったままのその女性は上半身を左右にひねりました。既にくびれが出来ているにもかかわらず、腰周りのエクササイズ。ポニーテールもふんふんと揺れます。


 イルセも、つられて上半身をひねります。

 水色のワンピースが、ふわっと広がります。


「かわいいお嬢ちゃん。お名前はなんていうの?」


「あたし、イルセだよ」


「イルセちゃんか。とってもいい名前だね」

 ポニーテールの女性は、名前を名乗り返すことはしませんでした。


 ただ、男性の名前は、再び出しました。

 意中の男性でしょうか? そこは忖度そんたくすべきではないかもしれません。


「イルセちゃんみたいな可愛い子になら、タカシを取られても仕方ないかな、なんて思うんだけどね」

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