04. 希望と行動

「どう? 入瀬の今回の体験。何かヒントある?」

 男性・が後ろを向いて、そう聞いた。


「どうやら、第2110仮想地球では、現実と仮想との境目に、税関を置いているみたいよ? ヤバイものは水際ではじく感じで」

 女性・は言って、疲れ目に目薬をさした。


「風邪みたいだねぇ」

 と、圭がたとえて言うと。


「だったら、税関は、葛根湯みたいなもの?」

 と、優もそれに乗っかりました。


「優さんうまいこと言った! 風邪のウィルスが入らないようにするわけだから」


「えっへん!」

 女性・は無い胸を張りました。


「しかし、漢方凄いなぁ。漢方」

「はいはい、脱線脱線。そして、気になる、仮想地球2110の現実一致リアリティレベルは……68% と出ました」


「うあー。ハズレだったか」


「どうしよっか? 圭」

 優はまばたき一つ。


「……そうだね。有効な立法事実もゲットできないし、特にヒントも無いし、この世界はスルーで」

「了解だよ。じゃあ、次の仮想地球に、ハッキングだね」

  ため息を1つをきっかけに、その女性は、サッと気持ちを切り替えた。


「ああ。事前の推定スコアが高い順から、行けそうな世界とこをドンドンあたっていこう」

 と、圭。


「でも……」

 優は口ごもった。


「なあに?」


「入瀬ちゃんの記憶をリセットするの、なんだかいつも、心苦しくなるんだよね……」


『だって、私が記憶を消されたら、圭の記憶を失うわけで。同様の事を、入瀬にしなきゃいけないわけで』

 という文字列が、半球形ヘミスフィアの左半球モニターに表示された。

 女性・は、それを消すことはしなかった。


「単なる機械である入瀬と、人間の第3類型となるべき優とは、違うよ」

 と、努めて無機質に、男性・は言いました。


「そうかなぁ……」

「そうだよ。僕は、はやくキミと結婚がしたい。それが出来る現実世界に、この世界を変えたい」


「ありがとう。うれしいよ」

 と言いつつ、汎用人工知能の女性・の顔には、釈然としない感じが残っていた。眉間に少しシワが寄っていたからだ。


 人間の第1類型である男性・は、婚約相手のその表情を、気づいていないふりをして、言った。

「こうなりたい、って希望が、それを現実化させる。俺達はその瞬間に向かって行動してるんだ」



 2人は軽くハグをした。



 ……。


 

 左半球モニターの、死角の辺りには。


『ウィルスの活動にも、誰かの希望が、乗っかっているのかなぁ?』


 という文字列が、点滅表示されていた。

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