小笠原貞弘君の質疑-二

(廣瀬内閣総理大臣)

 現在捜査中の案件ですので、事業者の撤退という事態が現実に発生した件につきましては遺憾ではございますが、責任の有無やその所在についての答弁は差し控えさせていただきます。


(小笠原委員)

 でしたら総理、別の聞き方をします。

 もし当時、磐城第二及び常陸第二発電所が稼働を停止しておれば、今回の事態を避けることが出来たとお考えでしょうか。率直にお答えください。


(廣瀬内閣総理大臣)

 その後の摩耗による原子力発電所襲撃の経過を観察しますと、単に両原子力発電所の稼働を停止していたからといって避けることが出来たとは考えられません。


(小笠原委員)

 ありがとうございます。

 まあ今総理は摩耗とおっしゃいましたが、あれが生物かどうかにつきましては相当議論の余地はあるんですけど、その件に関する議論はまた別の機会に譲ると致しまして。

 今、総理がお答えになったとおり、たとえ原子炉が停止状態にあったとしても、原子炉建屋内に同時に保管されております使用済み核燃料保管用プールに、大量に使用済み核燃料が保管されているわけであります。

 ご承知のとおり使用済みとはいっても、余熱と言いましょうか膨大な崩壊熱を発しておりまして、そのために冷却材として、水を循環させて常に冷却しておかなければならない。これは原子力発電所の宿命であります。もし冷却材として使用している水の循環が停止すれば、たちまちプール内の水が沸騰、蒸発して、使用済み核燃料の熱崩壊が始まるわけであります。この一事を以てしても、今回のカタストロフィックな惨事は免れ得なかったのではないかと思います。それでは我々は如何に身を処すればよかったのか。本件核惨事は避けることが出来ない運命だったのでしょうか。

 総理、お答えください。


(廣瀬内閣総理大臣)

 ちょっと質問の意味が分かりません。


(小笠原委員)

 本件核惨事を避けるためにはどうすれば良かったのかと聞いています。


(廣瀬内閣総理大臣)

 ですから先程来申し上げておりますとおり、本件に関する回避可能性につきましては、捜査及び審判に予断を与えることになりますので答弁については差し控えさせていただきます。


(小笠原委員)

 総理、はぐらかさないでください。今私が質問しているのは、巨大球体出現後のことではありません。磐城第二及び常陸第二発電所の作業員撤退問題につきましては、稼働中の原発から作業員を全面撤退させればどのような事態に至るか、経営責任者においてはっきり理解できますよ。素人でも分かりますよそんなこと。そんな既に明らかなことをこの場で問題にしてるんじゃないんです。

 今私が聞いているのは、こと政策的な観点に立脚したときにですね、本件核惨事が発生する以前の段階で、このような事態を回避し得るエネルギー政策上の転換点があったんじゃないんですか、ということを総理にお尋ねしているわけです。私はそういう転換点があったと思いますよ。

 私が何を指して質問しているか、多分総理もお気づきでしょうけれども、今度は総理、くれぐれもはぐらかさないように、率直にお答えください。


(廣瀬内閣総理大臣)

 委員のように事後的に回避可能性を云々することは簡単ですが、摩耗のような未知の生物の出現を予見することは、これは不可能であると考えます。

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