所信表明演説‐四

 今後、除染及び汚染水の流出問題を解決するためには、大量の資材や電力を必要とすることは明らかであります。

 摩耗核惨事を受けて、前内閣において即時の原発停止を各電力会社に要請し、現在我が国において稼働中の原子力発電所は一基も存在致しません。私は、このエネルギー不足の状態を一刻も早く是正し、復興を促進するため、停止状態にある原子力発電所の早期再稼働を目指します。(「総理が狂った」「取り消せ」「電力からいくら貰った」「いい加減にしろ」と呼ぶ者あり。議長「静粛に願います」)

 甲信越以東の地域の大半が強制避難区域に指定されている現状におきまして、地価が異常に高騰する西日本のいなかる地域におきましても、火力水力その他の発電所を新たに建設することは現実的ではありません。政府といたしましては、旧来より立地し、休眠状態にある西日本地域の原子力発電所を速やかに稼働させ活用することによって、発電施設の新規建設に必要とされる資金、資材を徹底的に節約して、復興のための資材に活用し、エネルギーが不足する現状を打開し、再稼働を果たした原発周辺において新たな雇用を創出すると共に、除染活動に必要とされるエネルギーを確保したいと考えております。

 そもそも今回の大惨事をもたらした「摩耗」につきましては、政府といたしましては専門的知見に基づき、これを一種の生物と断定して対応して参りました。(「あんな生き物いるわけねえだろ」と呼ぶ者あり)

 一方で、その生態の特殊性から、所謂いわゆる淘汰圧とうたあつをもって我々人類の存続を脅かすほどの存在ではなく、ある種の突然変異であって、今後同種の生物が出現することは絶対に有り得ないとも断定致しました。

 今必要とされていることは、二度と再び出現することがない、きわめて特殊な生物によってもたらされた、希有な事例を殊更に恐れることではありません。今を懸命に生きる人々が、明日に向かって希望を抱くことが出来る社会づくりこそが必要とされているということを、ここに改めて申し上げます。

 原発再稼働につきましては、様々なご意見があることを承知しておりますが、国民の皆様方に対しましては、これら原子力発電所の再稼働により生活が目に見えて改善したと実感できるような復興をお約束し、原発再稼働を推進するものであります。また、永年にわたる核の平和利用によって培われた技術は、新興国の希求する技術でもあります。政府は、原子力発電所の輸出事業を歴代内閣に引き続いて推進してまいります。(「恥知らず」と呼ぶ者あり)


 今後、更に復興をより力強いものにしていくために、教育は必要不可欠であります。

 言うまでもなく、政府は本国会を復興の端緒と位置づけてはおります。しかし私は、本災害による真の復興が我々の世代で完全に成し遂げられるという多分に希望的な観測を示しません。残念ながら放射性物質の中には、毒性が非常に強く、しかも半減期が極めて長い物質が存在するからです。プルトニウムに至っては、半減期が二万四〇〇〇年に及ぶと言われております。

 しかしこれらの放射性物質につきましては、無毒化する核変換技術が理論上は確立されていることもまた事実であります。

 我が国における原子力政策を俯瞰ふかん致しますと、昭和三十年に原子力の研究、開発、平和利用及び将来にわたるエネルギー源の確保などを目的とした原子力基本法が成立したことを我が国における原子力政策の嚆矢こうしとします。その後原子力発電は夢の技術ともてはやされ、多くの優秀な技術者が我が国に生まれました。昭和三十八年には国内初の原子力発電所が稼働を開始致します。

 しかしその間、米国ではスリーマイル島事故、旧ソ連においては、チェルノブイリ原子力発電所爆発事故が発生し、旧ソ連崩壊に伴うグラスノスチで一九五七年に発生したウラル核惨事の実態が明らかにされるにつれ、原子力発電の安全性に疑問が呈され、我が国におきましては平成七年の所謂もんじゅナトリウム漏洩事故、平成十年の東海村JCO臨界事故等の重大事故が続発し、遂に平成二十三年に、福島第一原子力発電所事故が発生するに至り、あたかも原子力発電には未来がないかのような世論が形成されました。平成二十八年には我が国独自の核燃料サイクル政策の重大な転換点ともいえるもんじゅ廃炉が決定され、原子力技術の不毛の時代が訪れたのであります。

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